時には目食耳視も悪くない。

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親しみやすい専門書

2020年02月24日 | 本の林
 林に沢山の木が生えているように、数ある本の中から音楽関係の本を選んで雑談する動画シリーズ【本の林】。
 今回は十二冊目でした。

 【本の林】第十二冊《痛快!オペラ学》永竹由幸(2001 集英社インターナショナル)
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 オペラ研究家の永竹由幸さんによるこの本は、バロック期のオペラの誕生から近現代のオペレッタの派生まで、扱う年代の幅広さもさながら、取り上げる作曲家も多岐に渡り、「オペラ学」という言葉に相応しい専門書になっています。

 専門書というと、どうしても小さな文字がびっしり詰め込まれた分厚い本で、中身を読んでもちんぷんかんぷん、大切なことがさっぱり伝わってこない、というイメージがあります。(私の勝手なイメージ。。。)

 しかし、この本はすべてその逆を行っているのです。
 まず、表紙を飾ったり、本文中に挿入されている絵は日本の女子漫画の最高峰の一人、池田理代子さんの代表作《オルフェウスの窓》(1975-81 週刊マーガレット)から採られたものです。
 クラシック音楽の品位を保ちながら、同時に親しみやすさを演出するにはうってつけの趣向です。

 そして、文字の大きさですが、決して小さくなく、長時間読んでいても疲れない、飽きさせない大きさの文字だと思います。
 (恥ずかしながら、最近は以前より眼精疲労が溜まりがちで、あまり字の小さな本を長時間読めなくなってきました。)

 さらに、文章は丁寧な「です・ます調」で書かれています。
 まるで、スマホの使い方の分からない年配の人に、「これは△△で、○○なんですよ」と、親切に説明してくれているようです。
 それでいて、内容はオペラについて深く掘り下げてあるものです。

 学生時代に、論文指導をして下さった先生が、
 「難しいことを難しく書くことは簡単だが、それではあまり世の中の役には立たない。
  難しいことを誰にでも分かるように平易に書くことが難しい。だが、それこそ世の中にとって有用なことで、研究とは本来そうあるべきなのだ。」
 ということをおっしゃっていました。

 研究とは、人類の文化や科学技術の発展に貢献、寄与するものであり、世間一般で難解だと思われていること、あるいは未解決の謎をみんなが理解できるようにすることであり、その研究の成果を全人類で共有できるようにすることが、研究者の使命なのだということを教わりました。

 言うは易く行うは難しという言葉の通り、これはそう簡単なことではありません。
 しかし、本書はその課題に(巷で流行りの言い方では)「かなり攻めた」本づくりを試み、そして見事に成功した例だと思います。

 オペラがなぜ作られるようになり、人々がなぜオペラを観に劇場に足を運んでいたのか、また、オペラがどのように大勢の人たちの心を一つにしたのか、そもそも「オペラってなんなの?」と、少しでもオペラのことが気になっている人、必読の一冊です。




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