私が応援していた大阪桐蔭は準々決勝で涙を飲んだ。
今大会最も注目されていたスラッガー・中田君。
第一打席では常葉菊川・田中君の気持ちが表れているかのような四球だった。
どこを投げても打たれるような気がして投げにくかったのではないだろうか。
ところが2打席目で内野フライに打ち取ったとき
常葉菊川・田中君の中で何かが吹っ切れたようだった。
彼の気持ちは強かった。
1-1の同点で迎えた8回、2死2塁で4番・中田君。
5番は前の打席で適時打を放った堀君。
歩かせて5番で勝負か?
それとも中田君と勝負か?
常葉菊川が選んだのは中田勝負だった。
これが両者にとって最大のピンチ、そして最大のチャンス。
レフトへの大飛球に私は大声を発し、身を乗り出した。
フェンス際で打球は勢いを失った。 天を仰いだ人がどれほどいたことだろう。
私を含め、野球を愛する者なら知っている、
最大のピンチを乗り越えた者が波に乗ったときの恐ろしさがどれほどのものか。
9回表、常葉菊川勝ち越し。
三塁線の微妙な当たりは勝敗の分け目にも見えた。
中田君に注目された試合だったが、
私は投手としては常葉菊川・田中君を評価したい。
彼は投手タイプの性格だ。
根拠はないが彼を見ているとなぜかメジャーへ移籍した井川投手を思い出した。
そして中田君は投手タイプの性格ではないような気がした。
気持ちが優しいのだ。
体は大きいしあの打撃力。だれもがイカツイ印象を持ちそうである。
きっとおっとりした性格なのだろう。
そんな彼を、まだ17歳で試合に敗れたばかりの選手を
インタビュー台に上がらせるのは少し酷である気がするのは私だけだろうか。
中田君がまた必ず戻ってきてくれることを皆信じて待っている。
今日一度だけ見せた、構える前の
バットを振り上げて大きく上体を反らすあの動き。
あれに場内が大きく湧いた。
彼はすでに甲子園の星なのである。
夏にまた会えることを信じよう。