こうま座通信

終わりのない文章

“The Great Game”

2021-01-13 | Weblog
Henning Haslund Christensenのお孫さん、映画プロデューサーのMichael Haslund Christensenの作品“The Great Game”(2018 Denmark)を見ました。

https://danishdox.com/en/thegreatgame

探検家として、モンゴル研究者として、何よりモンゴル音楽を記録した人として知られるHenning Haslund Christensen。彼の素晴らしく面白い旅行記がいくつか残されていますが、その実像はよくわからない。お孫さんも子供の頃に、一度も会ったことのない祖父が、二重スパイだったとか、スマグラーだったなどという噂を聞いていたそうなのですが、映画は、前半はその真相を探ろうとする物語。後半は認知症の傾向が出ているお父様と二人で、内モンゴルを旅するというドキュメンタリーです。お孫さん、といっても、もう50代くらいの方ですが。

Henning Haslund Christensenに魅せられて、デンマークまで旅したのがかれこれ20年以上前です。その頃は、そもそもHenning Haslund Christensenに、配偶者や子供がいたのかも、なんの情報もなかったので、この映画のおかげで、20年越しに情報が溢れてきて、感無量です。Haslundは、アフガニスタンで孤独に死んで、それだけ・・・?と思っていたので、せめて、お子さんたちがいたのは、よかった。

当時、国立博物館を訪ね、Haslundがモンゴルから持ち帰ったコレクションの一部を見ることができました。西欧列強が力任せに価値あるものを取り上げたのではなく、Haslundの場合はちょっと違った。しかも、ある面では、巨大な列強の争い=The Great Gameの中を翻弄された人たちから、託された面が強い。このままでは自分たちの民族は滅びる・・・だからHaslundに、デンマークに持ち帰って欲しいという切なる願い。どうもこの人は、他の人たちと違うのだとモンゴル人たちは判断したのです。そして今も、多くのモンゴルの人たちがHaslundに感謝している。とてもレアなケース。おかげでお孫さんはどうやらモンゴルの名誉領事のよう。
どうして他の列強の人々のように、強欲の方にいかずに、土地の人たちと慈愛の関係が築けたのか・・・。他の列強は武力では強かったでしょうが、本当の意味での「強さ」は、Haslundの方が優っていた。

その背景には音楽への愛、旅への憧れ、更にはデンマークに根付くグルントヴィの思想やフォルケホイスコーレの文化、アンデルセンを産んだ「物語り」を愛する土壌など、いろいろな要素があるのではと思っています。

この映画を見る前でしたが、デンマークに詳しい方にこんな質問をされたことがあります。
「オリンピックで活躍したデンマーク人って思い浮かびます?」
そういえば、同じ北欧でもスキーなんかでノルウェーやフィンランドの選手が思い浮かびますが、デンマーク人・・・いないこともないでしょうが、取り立ててオリンピックで活躍した人・・・ピンときません。
「思いつかないですよね。いないんですよ」

メダルを取るためにスポーツをするとか、ましてや国威発揚、国のために、国を背負って、メダルを取り、その数を競い合うとかいう思想自体が、「ない」みたいです。体育専門のフォルケホイスコーレにも、スポーツエリートではなくて、ごくごく普通の人が通うらしい。身体を動かすことが楽しいんであって、人と競い合うことが目的ではないということ。

オリンピックでメダルを取れなくて命を絶ってしまう選手とかもあり得ないし、
ふざけた話になりますけど、ロバートのコント「アスリートのためのCM教室」とかも成立しなくなるわけですね、きっと。(ちなみに近所のスーパーで、年がら年中、スポーツ選手のアナウンスがかかっているのだけど、絶対、ロバートの講義を受けたに違いないと思うと不思議に心が安らぎます)

デンマークの内閣には女性がたくさんいるけど、その中にオリンピック7大会出場、なんて人(現・我が国のオリパラ担当大臣・・・女性・・・)はいないのではないかと予想します・・。

話が逸れましたが、
それにしても、映画では、お父様より、お孫さんが、Haslundに本当にそっくり。
(やーーーぐアディルハン!!)
と思いながら映画を見ていると、
トルゴートのおばあさんが、お孫さんをつかまえて、
あんたはおじいさんそっくりだね。なんて言ってる。

トルゴートの末裔の方々が、いかにHaslundに感謝しているか。文化大革命で全てを焼き尽くされた人は、Haslundが撮った写真だけが家族を知る手がかり。この写真を撮った人は誰なんだろうと子どもの頃から思っていたと・・・。本人には会えなかったけど、お孫さんに会えたといって、涙ぐむ。

改めて、スウェン・ヘディンより、Haslundでしょ、と。ヘディンがいたからこそ、Haslundの旅も成立したので、もちろんヘディンは大事な人だし、すごい人でしょうけど、この映画を見ると、疑問符も浮かびます。
そして、なぜか日本の国語教科書がヘディンを偉人のように取り上げた過去もある。(私が中学生の頃、「さまよえる湖」という単元が、教科書にあり、すごく面白くて、ヘディンってすごい!!と無我夢中になって読みました。西アジアものが大好きでした・・・「法隆寺の謎」とかも最高にワクワクして読みました。ふと我に帰ると、はて、国語力とは。とは思いますが)
ヘディンはマンガ化までされとるというのにこの知名度の差。こういう人が有名になったら、世界中の博物館や美術館の立場がなくなるから、あえて無名の存在にされているんじゃ?!なんて勘繰ってしまいます。本当に、マンガ化したら面白いと思うわ、Haslundの旅は。。。。

お孫さんのMichael Haslund Christensenは、日本デンマーク合作映画Miss Osakaにもプロデューサーとして関わっていらっしゃいます。森山未來さん・南果穂さんご出演。こちらも、コロナで公開延期になっているようですが、国境の狭間のアイデンティティをめぐる映画のようで、Michaelの祖父の生き様がどこか投影されている気も。

というか、曽祖父は音楽家で、祖父は見えないもの・・・音楽を記録し、孫は映像を記録する、というのがまた、感慨深い。

Haslundの本を読み、1920年代、30年代のモンゴルを旅してから、この映画を見ると、また格別ではないかなと思います。先にこの映画を見る人は、、、、いるのかしら。
モンゴルを心から愛し、モンゴルに心から愛された人。
あんなふうにはとてもとても生きられないからこそ、憧れます。

(この記事では、デンマーク語の母音が16種類あるときいて、彼らの名前をカタカナにするのはちょっと慎重にならねばと、ローマ字で表記しました。)

最新の画像もっと見る