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歯科技工士・岩澤 毅

岩澤毅 歯科技工士法第26条「広告の制限」を再考する

2005年08月19日 | ごまめ・Dental Today
『ごまめ』35号(06年3月発行予定)原稿

歯科技工士法第26条「広告の制限」を再考する

岩澤 毅(秋田市)

はじめに
歯科技工士法第26条「広告の制限」に関し、様々な言説が流布されている現状に鑑み、法成立時の議論にまで振り返り、その整理を試みた。

Ⅰ.テーマ
歯科技工所による歯科医師・歯科医療機関に対する営業宣伝広告活動には、歯科技工士法上いかなる制限があるのだろうか?また、国民に対し歯科技工士の姿を正しく伝える方策の根拠を考察した。

Ⅱ.データと評価その1
歯科技工士法
(昭和三十年八月十六日法律第百六十八号)
最終改正年月日:平成一六年一二月一日法律第一五〇号
(広告の制限)
第二十六条
 歯科技工の業又は歯科技工所に関しては、文書その他いかなる方法によるを問わず、何人も、次に掲げる事項を除くほか、広告をしてはならない。
一 歯科医師又は歯科技工士である旨
二 歯科技工に従事する歯科医師又は歯科技工士の氏名
三 歯科技工所の名称、電話番号及び所在の場所を表示する事項
四 その他都道府県知事の許可を受けた事項
2 前項各号に掲げる事項を広告するに当つても、歯科医師若しくは歯科技工士の技能、経歴若しくは学位に関する事項にわたり、又はその内容が虚偽にわたつてはならない。

医療法
(昭和二十三年七月三十日法律第二百五号)
最終改正年月日:平成一六年一二月三日法律第一五四号
第六十九条
 医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関しては、文書その他いかなる方法によるを問わず、何人も次に掲げる事項を除くほか、これを広告してはならない。
一 医師又は歯科医師である旨
二 次条第一項の規定による診療科名
三 次条第二項の規定による診療科名
四 病院又は診療所の名称、電話番号及び所在の場所を表示する事項
五 常時診療に従事する医師又は歯科医師の氏名
六 診療日又は診療時間
七 入院設備の有無
八 紹介をすることができる他の病院又は診療所の名称
九 診療録その他の診療に関する諸記録に係る情報を提供することができる旨
十 前各号に掲げる事項のほか、第十四条の二第一項第四号に掲げる事項
十一 その他厚生労働大臣の定める事項
2 厚生労働大臣は、適正な医療を受けることができることを確保するため、前項第九号から第十一号までに掲げる事項の広告について、厚生労働省令の定めるところにより、その広告の方法及び内容に関する基準を定めることができる。
3 厚生労働大臣は、医療に関する専門的科学的知見に基づいて第一項第十一号に掲げる事項の案及び前項に規定する基準の案を作成するため、診療に関する学識経験者の団体の意見を聴かなければならない。
4 第一項各号に掲げる事項を広告する場合においても、その内容が虚偽にわたり、又はその方法若しくは内容が第二項に規定する基準に違反してはならない。


歯科技工士法第26条「広告の制限」に関する厚生省見解(照会と回答)

○歯科医業並びに歯科技工所の広告について
(昭和三〇年一一月四日)
(衛医医発第二〇三号)
(厚生省医務局長あて東京都衛生局長照会)
標記について、別紙のとおり新聞、ラヂオ等で広告している旨の通報があったが、これは当然医療法第六十九条、歯科技工法第二十六条に違反するものと解されるが、貴局のご見解を承りたい。
〔別紙〕
新商品案内 (東京タイムス三〇・九・三)
軟性ビニール総義歯
落語などにも、入歯を噛み折ったとか、飲んじゃった、という話があるが義歯、ことに総義歯ほど難物はないとされている。それは義歯床の吸着のむずかしさと、破損し易いことに起因する義歯が西洋から日本へ輸入されて約一〇〇年、ゴム床、金属床からアクリル合成樹脂床と進歩はしてきたが、これらはいずれも硬性義歯床で、かねてから軟かい口腔粘膜に適合する軟かい義歯床ができたらと考えられていたが、最近遂に写真のような口腔粘膜に似た軟性ビニールを主体にして陶歯の周囲のみアクリル合成樹脂を用いて義歯を造ることに成功した。大体このビニールとアクリル混用の義歯作成の試案は、日本の歯科医小野氏が、三年前アメリカ歯科医師会の審査会に提出して、満場一致で通過したもので、その後研究の結果臨床に用いられるに至ったもの。ただ、軟性樹脂同様に高度の咬合圧に耐えさせるための技術的特殊性がありしたがって値段もかなり高価につくと思われるが小野氏の話によると価格の点も、従来の製作費にくらべて、さほど高いものでないとのこと。目下特許申請中で将来は、アメリカはじめ各国への輸出が考えられている。
(問合せは東京都台東区坂本二の一 小野義歯技工研究所へ)
「広告」 「東京タイムス三〇・九・二二」
歯科技工界の驚異
ビニール総義歯時代来る
従来の個性義歯に比べ耐久力強く、軟かい口腔粘膜に適合する新発売本紙(九月三日付)に紹介されて評判の軟性ビニール義歯(特許申請中)問合せは
東京都台東区坂本二の一〇 (八四)一八〇一
小野歯科医院へ
ラヂオ東京スポット放送「三〇・九・二七」
〝入歯がこわれたり、よくかめない方はAF式
金属床を御利用下さい〟
中野区氷川町二九 AF歯科補綴研究所

(昭和三〇年一一月二九日 医発第六一一号)
(東京都知事あて厚生省医務局長回答)
昭和三十年十一月四日衛医医発第二〇三号をもって、貴都衛生局長から照会のあった標記の件について、左記の通り回答する。

1 ビニール総義歯又はAF式金属床についての広告が歯科技工の業又は歯科技工所に関する広告と認められるときは歯科技工法第二十六条違反となる。ただし、同条の規定は、同法附則第一条の規定により、昭和三十年十月十五日から施行されるものであるから、念のため申し添える。
2 前項の広告が、実質上歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告と認められる場合は、医療法第六十九条違反となる。従って御照会の事例中東京タイムス紙上の広告は同条違反を構成するものと思料される。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
○歯科技工所の広告について
(昭和三〇年一二月二六日)
(医第二〇〇七号)
(厚生省医務局長あて愛媛県衛生部長照会)
歯科技工法第二十六条に広告制限の規定があり、同条第一項各号の事項を広告するに当り、あわせて次の事項を表示することは同条第二項の技能又は経歴にわたる事項と解してよいか御回示願います。

1 護模床義歯、金属床義歯、レジン床義歯
2 全部床(総入歯) 局部床(入歯)
3 公認日本歯科技工師会員○○歯科技工所

(昭和三一年一月一八日 医収第五三号)
(愛媛県知事あて厚生省医務局長回答)
昭和三十年十二月二十六日医第二〇〇七号をもって貴県衛生部長から照会のあった標記の件について、左記の通り回答する。

御照会の事項を広告することは、すべて歯科技工法第二十六条違反である。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
○歯科技工に関する広告について
(昭和三一年七月三一日)
(衛医医発第一九二号)
(厚生省医務局長あて東京都衛生局医務部長照会)
このことについて、別紙のとおり申請があったが、これについて貴局の見解を教示煩わしたい。
〔別紙〕
昭和三十一年七月二十日
東京都知事 安井誠一郎殿
住所 東京都新宿区柏木四丁目八〇七番地/F/A歯科補綴研究所 電話(37)六八七二
氏名 藤原綾一 (印)
法定外広告事項許可申請書
左記の通法第二十六条第一項第四号の規定により広告事項を許可されたく申請します。

1 歯科技工所の名称及び所在地
名 称 /F/A歯科補綴研究所
所在地 東京都新宿区柏木四丁目八〇七番地
2 広告しようとする事項
昭和廿四年五月二十日実用新案登録第三六四三九八号金属床に於ける粘膜接当面に護膜及合成樹脂を加熱硬化せしめて成る膜を被着せしめたる義歯の構造の特質に就いて
3 許可を受けようとする具体的理由
(イ) 歯科医師及び歯科技工士に加工技術を伝へるため
(ロ) 前項特許を得たる加工の委託を受けるため
(ハ) 一般普及のため
4 許可を受けるに参考となるべき事項
(イ) 特許出願書写
(ロ) 特許局審査官の登録査定謄本写
(ハ) 医学博士原三正氏の簡易連合圧印床義歯文献
5 広告の方法
ラヂオ、新聞、雑誌及印刷文書による
その内容は誇大又は虚偽にわたってはならないこと

(昭和三一年八月二五日 医発第七三七号)
(東京都知事あて厚生省医務局長回答)
昭和三十一年七月三十一日衛医医発第一九二号をもって貴都衛生局医務部長から照会のあった標記の件について左記の通り回答する。

御照会の、広告しようとする事項は、歯科技工士の技能にわたるものと思われるから、歯科技工士法第二十六条第一項第四号の規定による許可を与へることは適当でない。


厚生省(現厚生労働省)照会回答事例研究
以上の照会事例の共通点は、
1. 宣伝媒体が新聞・ラジオ等広く国民に影響する事例である。
2. 広告対象者が、読者・ラジオ聴者等、患者となる可能性のあるものである。
3. 広告内容が歯科医学的に、その時点で評価が確立されたものではない。

歯科技工法制定時の議論は
歯科技工法制定時の国会議事録から、「歯科技工法(当時)」の提案説明と「広告の制限」に関する提案説明及び修正案説明等の国会質疑に関する議事録を読むことが出来る。

22国会 - 参議院 - 社会労働委員会 - 24号  昭和30年07月11日
○加藤武徳君 歯科技工の業務上の注意事項については、今言われたように、第二十条に記載してはございまするが、ところで、対外的な関係はない、かようには言いながら、実際問題としては、やがて資料をいただけばはっきりいたすように、歯科医師法違反で問われたような例が間々ある、多々ある、かように考えるのでありますが、ところで、かようなおそれがあれば、歯科技工が対外的に自己の業務を知らしめる際の制約というか、この点についての条章が見当らぬ、かように見るわけであります。ところで、医師につきましても、歯科医師につきましても、医療法等におきまして制約を設けておるわけでありまするが、私は医療法の第六十九条をただいま抜粋してここに持っておりまするが、この規定と同様な規定をこの法案に盛り込む必要がありはせんだろうか、かように考えておるわけでありまするが、この点についての厚生省の御意見を承わりたい。

○政府委員(高田浩運君) ただいまお話がございましたように、本来歯科技工に携わる人たちは歯科医師との関係を生ずるわけです。一般大衆、いわゆる患者との関係は生じないわけでございますから、理屈から申し上げましても、その広告するところも歯科医師を対象とした広告でとどまるべきだし、それでまた十二分であるというふうに常識的に考えられますけれども、過去における実情等から判断をいたしまして、まま間違った広告等がなされるということになりますと、これは歯科医療の方に及ぼす弊害がきわめて大なるものがあると考えられるのでございます。一応、現在はそういうような不心得な方はおられないとは思いますけれども、実はその点も十分心配をいたしましたのでございますけれども、その広告上の制限も、何らかの規定を置きたいということも考えてみたのでございますけれども、現段階においてこの種の職務を行う――先ほど来申し上げましたようなこの種の職務を取り扱う者に、そこまで立ち入って法律上の制限を加えることは法制上いかがであろうかというような疑義もありましたので、一応ここには載せないで御提案申し上げたような次第でございます。

この議論の後、わずか三日後には修正案が提出され成立した。

22国会 - 参議院 - 社会労働委員会 - 26号 昭和30年07月14日
○加藤武徳君 それではまず修正案を朗読さしていただきます。
 歯科技工法に対する修正案
 歯科技工法案の一部を次のように修正する。
(中略)
 第三点は、新たに第二十六条に広告制限の規定を設けようとするものでございます。歯科技工士は歯科医師の指示に基きまして技工を業といたす者でございまするところから、対外的な交渉部面は比較的少のうございます。従いまして対外的な宣伝広告の制限は必要ではないんじゃないか、かような見解もないではないと思うのでありまするが、過去におきまして歯科技工士、あるいは歯科技工所が対外的な宣伝広告を行い、それがために歯科医師法違反に問われた例がないでもないのでありまして、むしろこの際は医師並びに歯科医師と同様に広告制限を行うことによりまして、かようなあやまちを犯しますることを未然に防ぐ措置が必要ではないか、かような立場から、医師並びに歯科医師に負わせておりまする広告制限とほぼ同様な第二十六条の広告制限の規定を設けたわけでございまするが、なお、二十六条のこの規定と関連をいたしまして、繰り下げ後の第三十一条、第三十二条に若干の技術上の修正を行いましたのと、附則第二条及び第五条並びに第七条の広告制限の違反を犯しました場合の処罰規定等を含みまする若干の修正を行なつておるわけでございます。
(中略)
○政府委員(高田浩運君)
 それから第三の広告制限の点でございます。この点は御推測のように、私どもも十分検討いたしまして、それで大衆に対して、もし間違った広告が行われることになれば、その害毒が及ぶことを相当考慮いたしまして検討いたしましたけれども、法制上の立場から、このような強い制限を置くことはいかがかというような考え方もございまして、その辺の意見を考慮いたしまして原案からとりまして御提出申し上げたような、そういうようないきさつでございます。
 以上であります。

○委員長(小林英三君) 総員でございます。よって本案は、全会一致をもちまして修正議決すべきものと決定いたしました。
 なお、本会議におきまする口頭報告の内容、議長に提出する報告書の作成その他の手続等につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
 〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○政府委員(紅露みつ君) ただいま歯科技工法案につきまして、十四条、十八条、二十六条、これらを主とした修正議決が全会一致でなされましたのでございまして、特に討論等につきましては、歯科医師との紛淆を来たさないようにという御注意もあり、また、これまで養成機関としての文部省管轄のものとこれを一元的にしたという点などもございまして、十分にこれは委員会の御趣旨を尊重いたしまして、紛淆を来たすとか、あるいは歯科医師とり均衡を破るとかいうようなことのないように、十分に注意して運営に当りたいと存じます。

歯科技工士法第26条「広告の制限」に関する通説を探ると
歯科技工士法解説の標準的テキストであり、歯科技工士法実務・解説・教育に長年携わられた能美光房/宮武光吉/石井拓男の共著である『歯科六法必携<解説編>』に示された通説は、歯科技工士法第26条「広告の制限」に関し
1. 元来、歯科技工の業または歯科技工所は、歯科医業の補足的な役割を果すものであって、直接患者に接して業務を行う行為ではなく、またそうした行為を行う施設でもないから、それほど広告という点については厳格な規制を加える必要はないものとも考えられる。しかい、広告に何等かの制限を設けておかないと、歯科医師法の規定に違反するような行為、たとえば法第二〇条に規定される、歯科技工に対する業務上の注意の条文に違犯するような行為等を誘発する恐れもあり得るということを考慮して、このような規定が設けられたものである。
2. 本条の規定に違反すると、五千円以下の罰金に処せられる(法第三一条第二号)。なお、この罰金はいわゆる両罰規定(※)が適用されることもあり得る(法第三二条)。
平成13・14年版歯科六法必携<解説編>
2001年4月11日
編者能美光房 宮武光吉 石井拓男
株式会社ヒョーロン
(※)両罰規定〔りょうばつきてい〕業務主体の代表者もしくは代理人・使用人その他の従業者が、業務主体の業務に関して一定の法律違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、業務主体(法人または人)をも処罰する旨を定めた規定。
『法学用語辞典』有斐閣

通説は、法成立時の国会の議論・法案説明趣旨を反映し、咀嚼整理したものと考える。

Ⅲ.歯科技工士法第26条「広告の制限」の意味目的の考察

意味
1. 歯科技工士・歯科技工所が、患者に対して、歯科医業と誤解され、患者が不利益を受けることを避ける。
2. 歯科技工士の歯科医師法違反を誘発することを避ける。
目的
3. 歯科技工士法第26条「広告の制限」の保護目的は、第一に患者の適切な歯科医療を受ける権利である。
4. 歯科技工所間の競争の抑制等を目的としていると読み取ることは出来ない。

Ⅳ.データと評価その2
医政発第 0401012号
平成14年4月1日
各都道府県知事 殿
厚生労働省医政局長

医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関して広告し得る事項等について
 今般、平成14年3月29日付け厚生労働省告示第158号(「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関して広告し得る事項」。以下「新告示」という。)をもって医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関して広告し得る事項が、同日付け厚生労働省告示第159号(「厚生労働大臣が定める研修体制、試験制度その他の事項に関する基準」。以下「専門医告示」という。)をもって広告可能な専門医資格を認定する団体の基準が定められ、本年4月1日より適用されることとなり、併せて、平成13年1月31日付け厚生労働省告示第19号(「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関して広告し得る事項」。以下「旧告示」という。)が、平成14年3月31日限り廃止されたところである(別添1)。
 その施行に当たっては、特に下記の事項に留意の上、その運用に遺憾なきを期されたい。
 また、貴管下保健所設置市、特別区、関係団体等にその周知をお願いする。
 なお、平成13年2月22日付け厚生労働省医政局長通知(「医療法等の一部を改正する法律等の施行について」)の第8の(6)は削除する。

第1 改正の趣旨
 医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告については、患者保護の観点から医療法(昭和23年法律第205号)第69条その他の規定により制限されてきたところであるが、現在進められている医療制度改革においても、医療に関する情報開示を進め、患者の選択を通じて我が国の医療を一層質の高い効率的なものとしていくことが重要な柱と位置付けられており、こうした観点から議論された社会保障審議会医療部会における意見等を踏まえ、医療分野において広告できる事項を拡大するものであること。(以下省略)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
○厚生労働省告示第百五十八号
 医療法(昭和二十三年法律第二百五号)第六十九条第一項第十一号の規定に基づき、医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関して広告することができる事項を次のように定め、平成十四年四月一日から適用し、医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関して広告することができる事項(平成十三年厚生労働省告示第十九号)は、平成十四年三月三十一日限り廃止する。
  平成十四年三月二十九日
厚生労働大臣 坂口 力

医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関して広告することができる事項
(省略)

時代の潮流は、患者選択を優先課題とし、患者に対する情報公開・提供のための新たな枠組みを求めている。

結論
 歯科技工士法第26条「広告の制限」に関し、歯科技工士法の成立過程の提案説明・質疑・及び通説に従うことに、今日においても特段の疑義は無い。即ち、「広告の制限」であり「広告の禁止」ではないのである。その制限目的から、歯科技工所の歯科医師・歯科医療機関向けの一般的営業広告は、歯科技工士法26条「広告の制限」の対象とする広告とは解せない。
 歯科技工法成立時、既に歯科医師教育は大学において担われ、一部に大学院も設置され、歯科医師試験は、無論厚生省(当時)による「国家試験」であった。それに比し、歯科技工士養成は、入学資格を中学校卒業とし教育年限を三年とする歯科技工士養成所によって行われた。
 歯科技工(士)法は、歯科技工所・歯科技工士による歯科医師・歯科医療機関向け営業宣伝広告によって、大学卒の国家試験に合格し専門知識をもつ歯科医師・歯科医療機関にたいし何等かの「害毒」が及ぶ可能性の想定してはいない。歯科技工所・歯科技工士による歯科医師・歯科医療機関向け営業宣伝広告から、歯科医師・歯科医療機関を「守る」必要性を前提としていない。そこに守るべき法益の存在を想定していない。
 歯科技工所・歯科技工士による歯科医師・歯科医療機関向け営業宣伝広告に何等かの制限を加えたいとの歯科技工士の心情の発生は、当該歯科医療機関と既に取引関係にある既得権を有する歯科技工所にとっては、ありうることも理解できなくも無いが、既存取引業者の既得権防衛・新規業者の排除に、歯科技工士法第26条「広告の制限」を曲解し利用する、特異な言説を弄する振舞いは、歯科技工士法に対する冒涜と考える。
 使用材料等に関する広告等に関しては、薬事法等の所轄する法律等によって規律される。公正取引に反する行為に関しては、各種経済諸法が規律する。
 歯科技工士・歯科技工所が、国民の口腔衛生・口腔保健向上等を目的とし、また歯科医療・歯科技工の知識等の普及を図ることは、時代の要求である患者の自己決定権等の基盤整備としても、今日において益々その必要が増している。
 「患者の自己決定権」「インホームドコンセプト」「インホームドチョイス」等々が、医療において主要な課題となる今日、医療法と歯科技工士法第26条「広告の制限」の正しい理解の上で、歯科医療の提供側である個々の歯科医院・歯科医師の経歴技能、歯科技工士の経歴技能等の積極的な情報公開開示の方策を探り、患者の自己選択に資する方策の構築が望まれる。
 第三者機関等により公開された歯科技工士の技能等を基準に歯科技工所を選択した上で、その取引先歯科医院の中から歯科医師・歯科衛生士の技術等を基準に通院する歯科医院を選択する、この様な新たな歯科医療へのアクセス方法の構築も必要性が増すものと思われる。

参照サイト
国会議事録検索システムhttp://kokkai.ndl.go.jp/
厚生労働省法令等データベースシステムhttp://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/index.html
東京歯科大学 年表http://www.tdc.ac.jp/intro/index04.html
日本歯科大学校友会 足跡http://www.koyu-ndu.gr.jp/asiato2.html

(本稿は、2003.11.09社団法人秋田県歯科技工士会生涯研修会原稿を一部改変した。)
2005.08.19記

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