マヤ神官の日記、マルデクの預言

『マヤ神官の日記』、2008年4月30日完結!
『太陽系第5惑星マルデクの預言』2009年2月15日連載開始!

マルデクの預言、その2の7足元をすくうもの

2009-02-28 23:57:58 | 本編
その2の7足元をすくうもの

「ソヌ、私は一緒に行かない方がいいか?」

「へへへ、おら一人でもいいさ、でも・・・」
ソヌは、老師の顔を覗き込んだ・・・
「老師様は、本当のことを知りたいはずだ・・・なぜ、貧民窟の奴等は、電気を盗んだ挙句、メンフィ村を襲いいろいろ奪いたい、と思うまでになったか?」

ソヌはそう言いながら、ひきつったような笑みを浮かべた。老師は、くるりと振り向くと言った。
「カズ!お前はやはり来い!現実を知る必要がある。お前は、本当の犯人を見誤り、自分の部下を見誤った。本当のことを知る義務がある。」

カズは、信じられないという顔をした。
「えっ?私が行くのですか?」
「怖いのか?」
老師は、半分馬鹿にしたような目で見る。カズは、取り繕わねばならなかった。
「い・・いえ。そんなことはありません。」

カズは、老師とは目を合わさずに、首を少し傾(かし)げながら、頭を振った。
「来ないのか?」
老師は、もう一度訊く。今度は、少し下から睨みあげるように見る。カズは、その視線に、身をよじらすように顎を引くと、意を決したように小さく吐息をついた。そして、背筋を伸ばし、きちんと老師と向き合うと
「参ります!」
ときっぱり答えた。

老師は、ニッコリ笑ったが、相変わらず不気味な笑いだった。

カズは、祭りで見たあの美しい女神は別人だったのではないかと、思い始めていた。


今日もここまで。
明日の暦は、G暦2009年3月1日(日)、旧暦如月5日、太陽黄径40度(雨水11日後)、
青い電気の嵐の年、青い銀河の猿の23日、赤い宇宙の地球 KIN117 Gate#3希望を身近に感じる日

マルデクの預言、その2の6足元をすくうもの

2009-02-27 23:43:21 | 本編
その2の6足元をすくうもの
「たったの4人かい?何秒持つかねぇ?」

それを聞くと、カズが思わず歩み寄った。
「本当に中に入る気か?」
老師は、カズを見て言った。
「君たちは、無理をする必要はない。お前たちが、貧民窟を捜査の対象から外しただけの理由は分かった。オク族の者は、オク族で助ける。お前たちに借りは作りたくない。心配は無用だ。」

「しかし・・・」
カズは、逡巡した。
(貧民窟でオク族の老師を見殺しにしたとなると、大した数ではないとしても、オク族が団結して、チチャンに矛先を向けることになるのは必至だ。。彼だけは、殺されないように引き留めなければならない・・・)

「ヘロン老師、あなたには、捕まえた者たちへの罪の贖(あがな)い方を教えてもらわないと困る。チチャンの法では、彼等は死刑と決まっている。死ぬよりも苦しいつぐないを、我々は知らないからだ。ここに残って、その刑のやり方を教えてもらわないと・・・」

 老師は、カズの方を向いた。目が変にうつろだ。その雰囲気には、ある種の妖気が漂っている。
「残る?帰って来てからで、良かろう?」
カズは、何かにおびえながら話している自分に気づいていた。
「た・・・隊の者たちが、今にも、叩き殺そうとしているのを止めるのは難しいのです。」
と苦しい嘘をつく。誰も、もう、いきり立っている者はいない・・・老師の妖気に圧倒され、動けなくなっている者の方が多かった。

「そうなのか?」
老師が半歩、カズの方に歩み出そうとすると、カズが思わず、大きく一歩後ずさった。

 老師はそれを見ると、
「誰も、残ってほしそうにしている奴はいないぞ。」
と不気味な笑みを浮かべながら言った。カズが何か言おうとした時、
「老師、こちらでお待ちください。私達だけで、女を連れ帰り、強奪品を持って帰ります。」
ゼフが言ったのだ。

 「ソヌ、私は一緒に行かない方がいいか?」
老師が訊いた。

今日もここまで。
明日の暦は、G暦2009年2月28日(土)、旧暦如月4日、太陽黄径339度(雨水10日後)、
青い電気の嵐の年、青い銀河の猿の22日、黄色い水晶の戦士 KIN116
スターゲートカレンダーが届いたので、書いていきます。
Gate#56ここにいることに感謝する日

マルデクの預言、その2の5 足元をすくうもの

2009-02-26 23:24:25 | 本編
その2の5 足元をすくうもの

「死をもって!」
「死をもって!」「死をもって!」

 チチャンの若者たちが、捕まえた男たちの首に鞭(むち)を巻きつけて、吊るすマネをする。興奮しだした。

 老師は、振り向いて両手を挙げて制した。一瞬にして、声がやんだ。
「死からは、何も解決しない。命があってこそ、本当の苦しみを味わい、罪を贖(あがな)えるのだ。」

 その言葉を聞いた途端、捕まえられていた男たちは、
「ヒェ~~~!お願いだ、殺してくだせぇ。俺達は、これ以上苦しみたくねぇ・・・」
と叫び出した。

 チチャンの若者たちは、目を白黒させた。死以上の苦しみなどあるのだろうか?しかし、盗賊たちは、老師の言葉に縮み上がっている。
アガサが鞭をしまって、捕まっている仲間の方に行く。
「お前たち、本当に死んだ方がいいのか?」

 盗賊たちは、おびえた目をして言った。
「あの女のような老師はおっかねぇ・・・あいつが、死よりも苦しいと言えば、本当に苦しいに違いねぇ・・・オラ、そんなに苦しみたくねぇ、そんなら死んだ方がましだ・・・」

老師が、静かな有無を言わさない声で宣言する。
「死ぬことは許されない。生きて、罪をつぐなう事が赦される唯一の方法なのだ。」
そこにいた者の誰もが、背筋にぞくっとしたものが走るのを感じた。それほどに、老師の言葉の響きに、鬼気迫るものがあった。

アガサがつぶやいた。
「生き地獄ね・・・相手が悪かったようね・・・で、女はどうする?助けに入りたいなら、案内くらいしてあげてもいいわよ。」

 カズが、老師の方を向いた。
「この者たちは、チチャンの法で裁くのが掟です。女は、あなたたちに任せます。」
声が少しうわずっている。先まで、老師を守ると言っていたが、ここに来て、気持ちが変わってしまったようだ。

「そうですね。」
老師は、唇の端にほんの少しニッと笑みを浮かべた。カズは、そのあまりの不気味さに声が出なかった。

 アガサが、後ろを振り向いて大声で叫んだ。
「女を取りに来たんだと!盗んだ物も取り返したいそうだ!戦いたい者は用意しろ!」
そう言っておきながら、老師の方を向いた。

「さあて、何人来るんだい?」
老師が、後ろを振り向いた。ソヌが、ヌゥッと前に出てきた。
そして、意を決した表情で、ゼフとヤクが付いて来た。

 女が嘲るように言った。
「たったの4人かい?何秒持つかねぇ?」


 今日もここまで。3連ちゃんで、学校の図書館授業をやった。きつっ!雨で底冷えする・・・檸檬の実が黄色く熟れる。
 明日の暦は、G暦2009年2月27日(金)、旧暦如月3日、太陽黄径338度(雨水9日後)、
青い電気の嵐の年、青い銀河の猿の21日、青いスペクトルの鷲 KIN115 GAPトンネルの最後

マルデクの預言、その2の4 足元をすくうもの

2009-02-25 23:25:32 | 本編
その2の4 足元をすくうもの

老師は、アガサの方に向き直った。
「お前たちは、道義が通じない相手なのか?」

 アガサは、『道義』の意味が分からなかった・・・が、この女のように髪の長いヘロンと言う奴は、どうも罪を犯した5人の男を殺そうと思っていない、という事は分かった。
「お前は、女を返したら、ここの5人の男たちを赦す、と言うのかい?」
ヘロン老師は、ため息をついた。
「残念ながら、チチャン族の者は、チチャン族の法に従って裁かれねばならない。それが、この星の掟だからだ。しかし、つかまっているのは、オク族の者だ。私は、オク族の女の身柄を引き受けたい。」

 アガサは、首を捻った。
「お前の言う事は、全く意味が通じねぇんだけど・・・女は返せ、でも、男たちは返せねぇ、ってことか?冗談じゃねぇ!」
女は持っていた鞭で地面をビシッと叩いた。本当は、老師を狙ったものだったらしいが、どういうわけか当たらなかった。鞭の先が大きくしなってあらぬ方向に動いたからだ。
「こいつ、何をしたんだ?気持ち悪!」

 アガサは、少し後ずさった。ヘロン老師が口を開いた。
「お前たちの中に、気の狂った者を癒せるものがいるのか?壊した家屋をすべて元通りにすることができる奴がいるのか?盗んだ物、人を返すだけでなく、壊したもの、狂った者を元通りにすることができるなら、罪は問わない。と交渉しよう。」

 アガサは言った。
「フン!勝手に狂うから悪いんだよ!壊したのを元通りにしろだって?あり得ないね・・・」
「それなら、それらの罪に対して、この男たちは贖(あがな)わなければならない。」

 カズが横から出てきて言う。
「死をもって!」
「死をもって!」「死をもって!」


今日もここまで。雨が冷たい。例年より1カ月も早い「菜種梅雨」だそうだ・・・
新月のお願いしなくっちゃ!!
明日の暦は、G暦2009年2月26日(木)、旧暦如月2日、太陽黄径337度(雨水8日後)、
青い電気の嵐の年、青い銀河の猿の20日、白い惑星の魔法使い KIN114 GAPトンネル

マルデクの預言、その2の3足元をすくうもの

2009-02-24 23:45:01 | 本編
その2の3 足元をすくうもの

 カズは、老師の肩に手を回さんばかりの寄り添い方だ。老師は、そちらを向くと思わず手が出てしまった。
 ピシッ!
「えっ?」
とカズが頬を手で押さえて、小さく叫んだ。

「気持ちの悪い。すこし離れろ!」
老師が低い声で横柄に言うと、
「す、すみません・・・」
と、カズは老師の拒絶に、いたく傷ついた様子を見せた。

 老師は、カズの事を全く無視して、すっと歩き出した。それを見て、ゼフとヤクが、ククッと小さく笑った。すると、カズは、悔しそうに体裁を繕い、急いで老師の後ろを追った。

 貧民窟の男たちは逃げないように後ろ手に縛られ、みんなの前に引っ立てられて、コソコソと歩いていた。そのすぐ後ろをチチャンの若者がその縄の端を持ち、片手にチチャン族の武器の鞭(むち)を持って、歩いている。
 
 ヘロン老師はそのすぐ後を悠然と付いて行った。カズが速足でその横を歩こうとし、その後ろには、オク族の若者が3人、しっかりと付いて来ていた。チチャンの貴族青年隊の者たちは、ぞろぞろと少し不安げな表情でその後ろを歩いていた。

 タドナの街の貧民窟の表まで来ると、昼間だというのに暗く、異臭が漂っていた。
 貧民窟の男たちの綱を持っていたものが、大声で叫ぶ。
「この男たちが、盗んで来た物、そして、女を返せ。さもないと、ここで叩き殺す。」
チチャンの貴族は、下層の者が無礼を働けば、鞭で打ち殺す事が許されている。
貧民窟の奥の方から、えらそうな態度の女が一人出てきた。
「どこのどいつか、名乗れ!」

カズが前に立った。
「チチャン族貴族青年隊の隊長カズだ!」
言い終わるか言い終わらないうちに、ケタケタと高笑いがして、
「間抜けな隊長殿か!!自分の部下が、強盗をしているのにも気づかない!!ハッハッハッ!バカじゃねぇの?」

カズは、腕に巻いていた鞭を解き放ち、地面をピシッと打ちながら
「何を!」
とわめいた。ヘロン老師が、カズを制して前に出た。
「私は、オク族のヘロン老師と言います。不当な強奪について抗議したい。まずは、女性を返してほしい。ええっと、名前は何という?」
「ハッ?オレの名前を訊くか?教えてやろうじゃないか?アガサだよ!」

「アガサ、案内してほしい。女性を返してもらいたい。」
「ここに入ってしまったら、こちらの法に従ってもらわないとね。女はかえせねぇな!」
カズが言った。
「返せないなら、ここに捕まえている5人の男全てが、鞭打ちの処刑だ。」

「待て、カズ。人の命を、人の命で買うな!」
老師が言う。
「そんな道義が通じる相手じゃないぞ!」
「そうだ!そうだ!」
チチャンの若者たちは、捕まえている男たちの周りに輪を作って、誰から鞭打つか、手ぐすねを引いている。

老師は、アガサの方に向き直った。
「お前たちは、道義が通じない相手なのか?」


今日もここまで。雨がよく降ります。寒い・・・
明日の暦は、G暦2009年2月25日(水)、旧暦如月新月10:35、太陽黄径336度(雨水7日後)、
青い電気の嵐の年、青い銀河の猿の19日、赤い太陽の空歩く者 KIN113 GAPトンネル


マルデクの預言、その2の2足元をすくうもの

2009-02-23 23:58:58 | 本編
その2の2足元をすくうもの

「ヘロン老師!あなたが訪れては、あなたも襲われます!」
ゼフが老師の手を取って制す。

「私は襲われるような弱虫ではないが?」
老師は取られた手を切り返し、ゼフの手首を返した。ゼフは、その痛みに顔をゆがめた。老師が少し下におろすと、ゼフが膝をついた。
「老師・・・分かりました。私たちもお供させてください。」
老師が手を放すと、ゼフは手首をなでながら、ゆっくりと立ち上がった。

 カズが老師たちの方を振り向いて言った。
「私が『ヘロン老師』をお守りする。ご心配されなくても大丈夫!」
と、ニヤッと笑う。老師にとっては、背筋に寒いものが走る。老師は言った。
「オク族の者、3人を連れて行きたいと思うが、いいか?」

カズは、さっと老師の横につくと老師の腕を優しく取り、
「あなたは私がお守りしますが、連れて行きたければ構いません。」
と、老師の顔の真横で言う。顔が近すぎるだろう?老師は思わず、のけぞった。

「ゼフ、タテのできる者を1人、そして、私を担いでくれたお前、なんという名だ?」
思っていた以上に、力持ちで俊足だった。その若者は、膝をついて言う。
「恐れながら、ヤクと言います。ヘロン老師!」
「では、ヤクとやら・・・ついてきてほしい。」

 ゼフはその間に、木刀をもっている男を一人選んできた。そして、老師に紹介する。
「ソヌと言います。ズイラン流居合をやっているそうです。」

 オク族にしては、鋭い表情し、雰囲気の違う若者が出てきた。
「お前は、純粋なオク族ではないな・・・」
その男は、老師の前にひざまづくと、
「土着のモンでさぁ。ヤマに住んでるが、親父は、オク族出だぜぇ。」
この星にもともと住む小ぶりな狩猟民族がいる。へいぜいは、ヤマに隠れ住んでいて、めったに会う事はないのだが、こちらがヤマで迷った時など助けてくれる。多分、助けてもらった時にいた娘を気に入った男が、ヤマに残って一緒に住んでいるのだろう・・・

「ゼフとは、どういう知り合いなのだ?」
「オラが獲ったトリを買ってくれる。」

 老師はゼフの方を向いた。
「信用はおけるのか?」
「ああ、とんでもなく強い奴なんです。」
老師はそれを聞いて、ソヌの方を向いた。
「そんなに強いなら、相手を一人も殺さずに倒す事が可能だな?」
「もちろんでさぁ・・・」
 
 ソヌは、黄色い歯を出してヌッと笑った。その不気味な表情が一層、そいつを強く見せた。


今日もここまで。
地球暦が届いたので、太陽黄径と二十四節気、月の名前も入れていくね!!

 明日の暦は、G暦2009年2月24日(火)、旧暦睦月三十夜新月前夜、太陽黄径335度(雨水6日後)、
青い電気の嵐の年、青い銀河の猿の18日、黄色い銀河の人 KIN112 GAPトンネル 魔術の亀の日!(月と同じ音の日)

暦は、ついつい書き間違えることも多いので、気がつかれた方は、是非、コメントしてください!!あっ、始まったばかりですが・・・『マルデクの預言』の感想も大歓迎です!!

マルデクの預言、その2の1足元をすくうもの

2009-02-22 22:22:20 | 本編
その2の1足元をすくうもの

「タドナの貧民窟のならず者たちだ・・・われわれに紛れ込んで、勝手な事をして・・・貧民窟を焼き払え!」
カズは、部下の者に言う。
 
 老師は急いで制した。
「待て!何も、焼き払う事などする必要はないだろう?それに、メンフィの女性を助ける方が先だ。」

カズは、眉をそびやかしながら言う。
「こんなゲスな奴らに弄ばれた女に、まだ、価値があるというのですか?」

老師は、彼の前に立ちふさがった。
「どんな状況になろうと、人は生きる権利がある。このならず者に案内させて、女性をまず助けたい。」

 カズは、老師の襟首をつかもうと一歩踏み込んだ。が、老師が片手をカズの目の前に挙げたところで、その姿勢のまま動けなくなった。
「カズ、自分の隊の中に、違う者が紛れ込んでいたのに気付けなかったのは、君の落ち度であろう?」
カズは、両手をプルプルと震わせていたが、あきらめたように下に降ろした。

老師は、オク族の若者たちの方を向いて言った。
「メンフィの家を襲ったのは、タドナの貧民窟の者だと分かった。こちらの貴族青年隊とは、一応、関係のないことになる。」
 
 カズが、眉を吊あげながら言う。
「一応とは、なんだ?一応とは?」

「お前の監督不行き届きだ。お前らのせいだと言われても、いたしかたないだろう?」

カズは口ごもった。しかし、次にぼそぼそと言った。
「もともと、メンフィ村の奴らが、電気を盗むのが悪い・・・」

 老師は、今度はカズとチチャンの若者たちの方を向いて言った。
「言っておくが、メンフィ村では、電気などと言う、高価な、そして、体に悪いものは使わない。電気を盗んだのも、タドナの貧民窟の者だと考えられる。尋問しても良いか?」
 
 老師は、捕まえられている男たちの前に進むと、一人の男の顎の下に人差し指を入れて訊いた。
「電気泥棒は、お前たちだな?」
男は、フルフルと震えている。女のように美しい老師の感情を排した冷徹な表情は、盗賊たちを震え上がらせるほど、壮絶でもあった。

「は、はい。電気も盗みました。電気がひどく値上がって、使えなくなってるんでさぁ・・・」

老師は、カズ達を、ギロッと睨みあげた。
「お前らは、何を調べているんだ?あん?」
カズは、顔を紅くしながら、ムッとしている。
「最初から、貧民窟が臭いとにらんでかかれば、メンフィ村の悲劇も防げたのではないか?」
老師の矢継ぎ早の責めに、カズは唇を噛んだ。

しかし、老師はため息をついて言った。
「今さら、お前らを責めても、気の狂った者が治るわけでもないし、壊された家が元通りになるとも考えにくい。とにかく、連れて行かれた女性の救出が急務であろう?出かけるぞ!」
と歩き始めたところ、

「ヘロン老師!あなたが訪れては、あなたも襲われます!」

今日もここまで。
明日の暦は、G暦2009年2月23日(月)、旧暦睦月廿九夜、青い電気の嵐の年、青い銀河の猿の17日、青い共振の猿 KIN111 GAPトンネル


マルデクの預言、その1の7出会い

2009-02-21 23:10:10 | 本編
その1の7出会い

 (私の記憶・・・私の中には、受け継がれてきた悠久の時が流れている。そこには、ここにいる誰とも共有を許されない時間の記憶を内包している。私は、私自身がその時のカギとなることを知らされて育てられた。しかし、そのカギの開け方は誰も知らない。カギを持つという責任は、悠久の孤独に幽閉されている。手放すのは、いつか?いや、先人たちのように手放さずに死んでいくのか・・・)

一瞬、老師の思いは時を飛び越えて行った。

 しかし、次の瞬間には、
「それよりも、先ほどの2人の話を整理した方がいいな・・・」
老師は二人に向き直り、切り出した。
「まず、カズは、タドナ村の電気を盗んだのは、メンフィの村人だと思っている・・・が、まだ、証拠はないのだな?」
カズに確認する。
「そうです。しかし・・・」
老師は、手を上げて制した。
「ゼフに訊く。メンフィの家を襲ったのは、このカズたちがやったと思っている・・・が、証拠はないのだな?」
ゼフが見上げた。
「ありません。」

「カズに訊く。メンフィの家を襲った覚えはなく、行方不明の女性の事も知らないのだな?」
「襲ってなどいません。第一、われわれは、これから始めてメンフィ村に入るところしたから・・・」
と言ったところで、貴族青年隊の後ろの方でざわめきが起こった。男が3人ほど、こずかれながら出てきた。
「あの~~~、あともう2人いるんだが・・・その・・・女のことだが、いい女なんで売れるかと・・・その、知ってるもんで・・・」

 ゼフがいきり立った。老師が彼の肩に手を置く。
 カズの目が大きく見開いて、その男に飛びかかると、首をぎりぎりと締めあげて言った。
「なんだと?人身売買など、どこでやっていいなど・・・と、お前らが、襲ったのか?」
そして、顔をまじまじと見て言った。
「お前、誰だ?貴族青年隊の者ではないな?」
「く、苦しい・・・」
カズが、少し襟首をゆるめると、
「タドナの者で・・・ヘヘヘ・・・メンフィの女は、皆かわいいですぜ?小さいのは、頭おかしくなっちまいましたがね。へっへ!」
とうそぶいた。カズは、その男を地面にたたきつけた。

「タドナの貧民窟のならず者たちだ・・・われわれに紛れ込んで、勝手な事をして・・・貧民窟を焼き払え!」

今日もここまで。
明日の暦は、G暦2009年2月22日(日)、旧暦睦月廿八夜、青い電気の嵐の年、青い銀河の猿の16日、白い律動の犬 KIN110 GAPトンネル


マルデクの預言、その1の6出会い

2009-02-20 23:55:32 | 本編
主要登場人物
 ヘロン老師・・・オク〈犬)族の聖職者、預言を守る者
 ゼフ・・・オク〈犬)族青年隊首領
 カズ・・・チチャン〈蛇)族貴族青年隊隊長

その1の6出会い

「カズとやら・・・オク族の祭りの神は、秋に行われる『花と実りの祭りの神』も、春に行われる『太陽礼拝の祭りの神』も見た目だけが女性の男神なのだよ。よって、それを演じる聖職者は皆、男なんだ。女性に見えるように髪を長く伸ばす事が義務づけられているが・・・」
 
 聖職者の中でも、なぜか、預言を守る者が、この女神役をすると決まっている。私が、『13代目ヘロン老師』を継ぐまで、父の『12代目カラン老師』がやっていた。子どもが成人すると、親は長髪をバッサリ切り落とし、子どもの教育係からも解放される。
 祖父は『12代目ヘロン老師』だが、いまだ健在だ。主に、ムラ人たちの相談役と儀式の裏方として動いている。52歳を超えると、顎に長いひげを蓄え、老師らしくなる。
 見た目で、大体の年齢が分かるようになっているのだ。

「私の父は、自分自身がごつい男顔で髪をのばしても女神には見えなかったのが悔しかったらしい。妻には特に優しい顔の人を選んだようだ。私は、その母にそっくりの顔で生まれたと言われている。平生(へいぜい)もよく女性に間違われ、私は困っているのだが。」
老師は、少し哀しげに微笑んで見せた。それが、はかなげな印象で逆効果だった。カズはそれを見ると、パッと顔を紅潮させた。どうも、勘違いを正そうという気はないらしい。

「お母様の顔をご存じないのですか?」
「私を守るために、私が1才の時に亡くなったと聞いている・・・」
「さぞ、美しい方だったのでしょうね。」
カズの目じりが下がりっぱなしだ。老師は、ぎっちり握られている手を強く振って、振りほどいた。カズは、今度は立ち上がった。
「カズ、君は『オク族』の『預言を守る者、ヘロン老師』についての話を聞いたことはないのか?」
老師は、少し言葉を荒げた。カズは、真正面に老師の顔を見ると、また少し照れて片膝をついた。
「いえ、聞いたことはありますが、もっと、年老いた・・・その、男の方だと思っておりました。」

「男だと言っているだろう?私も、あと30数年もたてば、顎鬚を伸ばし年老いて見えるだろうし、結婚もすればもっと男臭くなると思う・・・」
カズに向かって、厳しい表情をした。カズは老師に睨まれても、どこかデレッと嬉しそうである。
(こいつ、いかれてる・・・)
オク族の若者の中にも、老師をこういう目で見る男たちがいる。妙に老師に優しく接するのが、気持ち悪い。
(あいつらは、男色なのだろうか?私は、男には興味はないのだが・・・)
と老師は思いながら、短く嘆息をつくと、遠くを見つめた。

 記憶の糸が流れていくのが見える・・・キラキラと輝く記憶の川の、その底を見透かすと・・・

今日もここまで。
明日の暦は、G暦2009年2月21日(土)、旧暦睦月廿七夜、青い電気の嵐の年、青い銀河の猿の月、赤い倍音の月 KIN109 GAPトンネル

昨日の内容を少し書きなおしました。読み直すと、歴史の年数を間違えているところがありましたので。あしからず。



太陽系第5惑星マルデクの預言、その1の5出会い

2009-02-19 23:52:13 | 本編
その1の5出会い

カズは立ち上がろうと、老師の顔を見て、「あっ!」と小さな声をあげて中腰のままその前に回り、急いで膝を折って座りなおした。 

 そして、ゼフと同じように、老師の手を両手で取った。その手からは、明らかに初対面の人に抱く感情とは思えない、熱い思いが流れ込んで来た。
「君が、いえ、あなたが本物の『ヘロン老師』なのですか?『ヘロン老師』は女性だったのですね?あの・・・先月の花祭りで、確か、アエメテの女神をされていましたね?」

 熱い思いのその理由は、彼が老師を女性だと思いこんでいるからだった。この星では、女性、または、尊敬する人には、膝をついて挨拶をする。が、チチャン族では、例え、相手が老師であろうとオク族の人間は下層階級のものだ。尊敬はない・・・老師を花祭りで見た女神の女性だと勘違いしたのだ。多分、その祭りの時に気に入ったのであろう・・・

 老師は、小さな笑みを浮かべながら低く強い声で返した。
「残念だが、私は女性ではない。先月の花祭りをご覧になられたのか?あの『アエメテの女神』は女体男心の神で、基本的に聖職に就く若い男が女装をすることになっている。私は、成人式の日から『13代ヘロン老師』として聖職についている。」
 カズは、明らかに驚きと小さな落胆の色を見せた。まわりのチチャンの男たちからも、
「ほぉ~~~っ」
と、驚きの声が上がっている。

老師の声は、確かに女性のものではない。しかし、カズは握る手を放そうとはしない。むしろ、ぎっちり握って汗ばんできた。
「本当に女性ではないのですか?それでは、その若さも本当ではないのですか?」
 老師は失笑した。
「私のこの星での年齢は、18歳だ。しかし、記憶は、過去25代のものを引き継いでいる。また、知っていると思うが、わが家系は一般人よりも長生きだ。優に、2500年以上の記憶を持っていることになる。『老師』と呼ばれる理由は、そこにあるのだ。」
 
 記憶を引き継ぐとは言っても、そのメインは、空間に記憶されている場所にアクセスし、その暗号を読み出す技を継承しているだけだ。ちょっとしたコツと条件を自分で作り出せるようになるまで、前の老師である父親に学ぶ。ただ、思う時間と場所を抜き出した後、その暗号の解読には、己の私情をはさまないようにすることが重要で、非常に難しいのだ。
 記憶に全く私情の介入をしなくなるのに、軽く10年の孤独で特別な修行が、老師を名乗るに必要な条件だった。

今日もここまで。
明日の暦は、G暦2009年2月20日(金)、旧暦睦月廿六夜、青い電気の嵐の年青い銀河の猿の月、黄色い自己存在の星 KIN108 GAPトンネル