社会保険における健康診断の二次検診と保険料率の関係
社会保険における健康診断の二次検診と保険料率の関係について、現行の制度や仕組みを説明します。
- 二次検診の基本的な仕組み
二次検診とは
二次検診(二次健診)とは、通常の健康診断(一次健診)で異常所見が見つかった場合に、より詳しく検査するための精密検査のことを指します。二次検診には主に以下の2種類があります:
- 一般的な二次検診(精密検査・再検査):
- 一般的な健康診断で異常所見があった場合の精密検査
- 基本的に健康保険が適用される(自己負担あり)
- 企業負担の義務はなく、基本的に個人の判断で受診する
- 労災保険二次健康診断等給付(労災二次健診):
- 職場の定期健康診断で特定の条件に該当した場合に受けられる特別な制度
- 脳・心臓疾患リスクに特化した検査
- 無料で受診可能(労災保険から給付)
- 年度内に1回限り受診可能
労災二次健診の対象条件
労災二次健診を受けるためには、以下の全ての検査項目で「異常の所見」があると診断される必要があります:
- 血圧検査
- 血中脂質検査
- 血糖検査
- 腹囲の検査またはBMI(肥満度)の測定
また、脳・心臓疾患の症状を有していないこと、労災保険の特別加入者でないことという条件も必要です。 厚生労働省
- 二次検診と保険料率の直接的関係
インセンティブ制度における二次検診の位置づけ
健康診断の二次検診自体が直接保険料率に影響するわけではありませんが、健康診断後の医療機関受診率は保険料率に影響します。特に全国健康保険協会(協会けんぽ)では、平成30年度(2018年度)から導入された「インセンティブ制度」において「要治療者の医療機関受診率」が評価指標として組み込まれています。
要治療者の医療機関受診率とは
この指標は、健康診断の結果、特に血圧または血糖値の項目で「要治療者(再検査含む)」の判定を受けた人が、実際に医療機関を受診したかどうかを測るものです。協会けんぽから受診勧奨を受けてから一定期間内(通常3ヶ月以内)に医療機関を受診した人の割合を指します。
インセンティブ制度の評価指標(5項目)
協会けんぽのインセンティブ制度では、以下の5つの評価指標に基づいて都道府県支部をランキング付けします:
- 特定健診等の実施率(受診率+上昇幅)
- 特定保健指導の実施率(実施率+上昇幅)
- 特定保健指導対象者の減少率
- 要治療者の医療機関受診率(受診率+上昇幅)
- 後発医薬品(ジェネリック医薬品)の使用割合(使用割合+上昇幅)
これらの指標の実績値を偏差値方式で得点化し、合計得点によって全国順位を決定します。47都道府県支部のうち上位15支部に該当した支部については、支部ごとの得点数に応じた報奨金によって保険料率を引き下げる仕組みになっています。 全国健康保険協会
- 要治療者の医療機関受診率と保険料率の具体的関係
仕組みの具体例
全支部の保険料率に0.01%が財源として追加され、上位支部に対してはその財源から報奨金が付与されて保険料率が引き下げられます:
- 財源分保険料率:0.01%(令和5年度保険料率)
- 報奨金による減算:上位支部の成績に応じて最大0.1%程度の引き下げが可能
例えば、標準報酬月額30万円、保険料率10.0%の支部の場合:
- 制度導入前:30万円 × 10.0% = 30,000円
- 財源分のみ(上位に入れなかった場合):30万円 × 10.01% = 30,030円(月額30円増)
- 上位支部で0.1%減算された場合:30万円 × 9.91% = 29,730円(月額270円減、年間3,240円減)
茨城支部の実例(2022年度)
例えば茨城支部の2022年度実績では:
- 要治療者の医療機関受診率:35.2%(全国16位)
- 総合順位:42位(上位15支部に入れなかったため、インセンティブ(報奨金)は受けられなかった) 全国健康保険協会
- 二次検診の受診と保険料率への間接的影響
二次検診(特に要治療者の医療機関受診)は、短期的にはインセンティブ制度を通じて保険料率に影響しますが、長期的にも以下のような影響をもたらします:
短期的影響(インセンティブ制度を通じた影響)
- 要治療者の医療機関受診率向上:
- 健診で要治療とされた人が適切に医療機関を受診することで、支部の評価得点が向上
- 上位支部入りによる保険料率の引き下げの可能性
長期的影響(医療費適正化を通じた影響)
- 重症化予防による医療費削減:
- 二次検診や医療機関受診による早期発見・早期治療で重症化を防止
- 将来的な高額医療費の発生を抑制
- 地域の医療費水準の低下による保険料率の抑制
- 健康寿命の延伸による社会保険制度の持続可能性向上:
- 加入者の健康増進による就労期間の延長
- 医療費の適正化による保険財政の健全化
- 保険料率を引き下げるための具体的取り組み
社会保険(特に協会けんぽ)における保険料率引き下げのためには、以下の取り組みが重要です:
- 健診の受診率向上:
- 協会けんぽの生活習慣病予防健診(被保険者)や特定健診(被扶養者)を積極的に受診する
- 企業の定期健診結果を協会けんぽに提供する
- 特定保健指導の活用:
- 健診結果で生活改善が必要とされた場合は、特定保健指導を受ける
- 保健指導プログラムに最後まで取り組む
- 要治療者の医療機関受診:
- 健診結果で「要治療者(再検査含む)」の判定を受けた場合は、必ず医療機関を受診する
- 受診勧奨を受けた際には速やかに対応する
- 後発医薬品(ジェネリック医薬品)の使用:
- 薬局でお薬を受け取る際は積極的に後発医薬品を選択する
まとめ
社会保険において、健康診断の二次検診自体が直接保険料率を決定するわけではありませんが、二次検診や要治療者の医療機関受診率はインセンティブ制度を通じて保険料率に影響を与えます。特に協会けんぽでは、要治療者の医療機関受診率が評価指標として組み込まれており、この受診率が高い支部は保険料率が引き下げられる可能性があります。
また、二次検診による早期発見・早期治療は、長期的な医療費の抑制にもつながり、結果として保険料率の上昇抑制にも寄与します。健康診断で要治療や再検査の判定を受けた場合は、自分自身の健康のためだけでなく、保険料率の適正化のためにも、積極的に医療機関を受診することが重要です。
さらに、労災二次健診という無料で受けられる制度もありますので、資格要件に該当する場合には積極的に活用するとよいでしょう。なお、この労災二次健診の受診が労災保険料率に影響することはありません。