今年も、暑くて厳しい夏が来ます。近年、地球温暖化により気温が上昇し、熱中症を発症する人が増えています。熱中症は、いつでも、どこでも、だれでも発症する可能性があります。特に、子供や高齢者は重症化しやすく、命にかかわることもあります。自分は大丈夫と過信せず、熱中症対策を怠らないようにしましょう。
一方、暑い屋外とクーラーが効きすぎた屋内との寒暖差に体調不良を訴える「クーラー病」になってしまう人もいます。今回は、熱中症とクーラー病の予防をご紹介いたします。
熱中症になりやすい要因
1.環境要因(気温が高い、湿度が高い、日差しが強い、風通しが悪いなど)
2.体の要因(高齢者、子供、風邪や病気などで体温調節機能が低下している人、肥満の人、疲労、睡眠不足、朝食の欠食、二日酔いや下痢などで脱水症状があるなど)
3.行動要因(激しい運動、長時間の屋外作業、水分補給ができない状態など)
暑さに慣れていない初夏は、うまく汗をかいて体温調節することができずに熱中症を発症することもあります。梅雨の途中で突然気温が上がる日や、梅雨明け後の蒸し暑い日には注意が必要です。
【体温調節のメカニズム】
人間の体温は、常に一定に保たれています。無意識のうちに脳や自律神経系(交感神経・副交感神経)が働いてコントロールしてくれているからです。
そのコントロールの最初のステップは、「熱移動」です。
暑いなかで体温が上昇すると、大脳視床下部の体温調節中枢から自律神経系を介して「体温を下げろ」という命令が出ます。命令を受けるとまず、末梢の血管を拡げます。これにより体内をめぐる血流量が増え、皮膚に多くの血液が流れることで、体表面から熱が放出されます。これが、"身体の熱を体表面に移動させ、外気にさらして冷ます"という熱移動のメカニズムです。ちなみにこのとき、血圧は下がります。
続いて、血管を拡げても冷めないときには汗をかきます。体表面で水分が蒸発すると、そこで気化熱(蒸発に必要なエネルギー)が奪われ、体表面の温度が下がります。玄関先に水をまくと周囲の空気がヒンヤリしたり、シャワー浴が寒く感じられたりするのと同じ原理です。
ただし、短時間で大量に発汗すると身体の水分が減り、しだいに汗は出なくなります(脱水状態)。また、湿度が高く、風もない状態だと水分が蒸発しにくいので、気化熱は発生しません。このように、身体の中からのコントロールには限界があり、それを超えると"お手上げ"状態に陥ります。
なお、寒い時には、これと反対の動きが起こります。寒さを感じると、血管を収縮させて血流量を減らし、熱の放出を防ぎます。これは体表面から身体の中心への熱移動です。このとき、血圧は上昇します。それでも足りないときには、身体を動かす体性神経系にも命令がいき、身体をガタガタと震わせて運動するなどして熱をつくりだします。
熱中症(ねっちゅうしょう)
室内、屋外にかかわらず、高温や多湿な環境で体内の水分や塩分のバランスが崩れ、体温の調節ができなくなって起こります。熱射病もこの一種です。
分類 重症度 主な症状
I 度 軽症 めまい・失神、筋肉痛・筋肉の硬直(こむら返り)、大量の発汗
涼しいところへ避難し、服をゆるめて体を冷やし、水分と塩分を補給しましょう。
(現場での応急処置が可能 )
II 度 中等症 頭痛・気分の不快・吐き気・おう吐、力が入らない、体がぐったりする
涼しいところへ避難し、服をゆるめて体を冷やし、水分と塩分を補給しましょう。その際、足を高くして寝かせます。症状が良くならない場合や、自分で水分が補給できない場合は医療機関を受診しましょう。(病院への搬送が必要)
III 度 重症 意識がなくなる、けいれん、歩けない、刺激への反応がおかしい、高体温
涼しいところへ避難し、服をゆるめて、首や脇の下、足の付け根などを氷や水で冷やし、すぐに救急車を要請しましょう。意識がない状態で無理やり水分を飲ませるのは大変危険です。周りの人が体調の変化を見逃さず、迅速に対応することが重要です。(入院・集中治療が必要)
【熱中症の症状と予防対策】
熱中症は、体温調節の働きでは足りずに体内に熱がこもることで起こる、めまいやけいれん、頭痛、吐き気、意識障害といった症状の総称です。頭痛は自律神経系の"お手上げ"のサイン、吐き気や意識障害は脱水症状が進んだ証拠といえます。
注意したいのは、短時間で大量の汗をかいた時や、高温や高湿度の場所、陽の当たる場所、風通しが悪い場所に長時間いるときです。子どもや高齢者、持病のある人は特に体温調節機能が乱れやすく、高リスクです。また、体力のある人でも、暑さに身体が慣れていない時期や、激しい運動をしたとき、疲れているとき、体調がすぐれないときには要注意です。
予防対策はもちろん、身体を冷やすことです。屋内であれば、室温を28℃以下に保つこと、風通しをよくすること、水分を摂取することで防げます。
屋外でもできるだけ直射日光を避けましょう。そして動脈が体表面の近くを通っている、首筋、腋の下、足のつけ根、足首などを冷やしましょう。
なお塩分は、通常の食事が摂れていれば十分に足りています。ただし、食欲がなく食べられなかったときや、大量に発汗したときには補充が必要です。
また、すでに熱中症の症状が現れているときには、塩分と糖分が少量混ざった水分(スポーツドリンクなど)が吸収しやすいのでオススメです。
冷房病(れいぼうびょう) cooling disorder
夏季に冷房されている職場や室内で生ずる不適応症候群で、体や足がだるい、頭痛、肩こり、腰痛、疲労感、食欲不振、胃腸障害、不眠などの症状の総称です。正式な病名ではありませんが、"夏バテ"の最大の要因です。原因は過冷房、すなわち冷房温度の下げすぎで、室温が 25℃以下になるとこのような症状が多くなります。冷房病は、冷房の効いた環境にいることで起こる、急激な温度変化の繰り返しに自律神経系が対応できなくなった状態です。
夏の暑さに馴化(じゅんか)されている体で、しかも夏の軽装で長時間にわたって外気温と温度差の大きい冷気にさらされると、体温調節機能が低下し、冷房病となります。省エネルギー対策の一環として、最近は冷房温度を28℃にするという申合せが浸透してきたため、かつてのような冷房病の多発はみられなくなったものの、冷房病は女性に出やすく,男性での発症は一般に少ないようです。個人差も大きいのですが,事務所で働く女性の約半数は足が冷えるなどの症状を訴えるという調査が示すように,一般的によく発症しうる健康障害といえます。
【冷房病の症状と予防対策】
暑い屋外から冷房の効いた屋内に入った瞬間は、何とも言えない救われた気分になります。 でもそのとき、実は身体は悲鳴をあげています。
本来、季節が変わるのには数か月かかります。1日の気温も、数時間かけて徐々に変わっていくものです。しかし、真夏の屋外と冷房の効いた屋内の温度差は、一瞬にして身体を襲います。それを1日のなかで何度も繰り返したら、体温調節機能が大混乱し、"お手上げ"状態になってしまいます。それによる自律神経系の不調が胃腸障害などとなって現れます。
5度以上の温度差が負担に 私たちの体に迫る「寒冷ストレス」を知ろう
気温に身体が慣れるのには2週間、その間の体調管理に注意していれば自然と環境に体が順応し余計なストレスがかかることはありません。
しかし、現代の環境では、過度な空調設定や室内と外気の温度差によって、身体が気温差に適応できず長時間さらされていると、さまざまな不調が現れます。
特に寒さは脳が「寒い」=【 寒冷ストレス 】を受けることによって身体反応を引き起こしているため、「肌寒い」と感じるくらいでも「ストレス」として、つらい身体症状を引き起こしてしまいます。夏は熱中症対策で冷房が欠かせませんが、「5℃以上気温差のある場所」を行き来していると体調を崩しやすいと考えられています。
気温差から来る様々な不調
だるさ、むくみ、冷えや肩こりといったオフィスでよくある症状から、頭痛、腰痛、生理痛の悪化などの身体の痛みなど、現代人の抱える体の不調は、気温差から生じるストレスで引き起こされる反応も様々です。自律神経が刺激されるので、トイレが近くなる・食欲不振・血圧上昇といった循環についての困りごともでてきます。猛暑になると必然的にオフィスと外気の差が開いてしまい、「冬場の脱衣所」で見られるような脳卒中や心筋梗塞などの危険性も高まると考えられています。
また、注意したいのが寒冷ストレスや熱中症の症状に「微熱・鼻水や咳・風邪に似た症状」があることです。冷房病(クーラー病)は寒さによって体全体が弱っている表れで、コロナ感染との見分けも難しくなり注意が必要となります。
自律神経の乱れが大きくなると「不眠」や「疲労感が回復しない」といった長期的にメンタルヘルスに影響を与える症状もおこるため、熱中症に気を付けつつも身体を冷やし過ぎないようにしましょう。
今日から始めたい寒冷ストレス対策ポイント
夏冬問わず日々の大半を過ごすオフィスの環境は、健康管理の要です。
ですが、外回りの多い営業や一日中座って過ごす事務職の人等、様々な職種の方が共に過ごす空間のため「全員が快適に過ごす」環境を作るのはなかなか難しいですよ。暑い・寒いの感じ方は人の筋肉量や体質、オフィスで過ごす位置によっても変わってきます。
快適に過ごせる人を増やすため、オフィスでとれる対策を考えてみてはいかがでしょう。
午前と午後で温度が違う?「職場の温度マップ」を作ってみよう
対策第一歩は職場の環境が現在どのようになっているのか「実態」を知ることです。実際に人が座っている・作業している場所で、就業直後・日中・終業前など複数回に分けて温度を測定してみましょう。暑い・寒いといった体感温度には湿度・風のあたり方・日当たりなども関係しますので、可能であれば湿度計や窓からの日差しなども記録しておくと、変化に気が付きやすくなります。
エアコンの風が直接当たる・換気扇に近い席では寒さを、電子機器や窓の近くといった場所では暑さを感じている方が多いでしょう。日当たりによっては「午前は汗が出るほど暑いのに、午後は冷えてしまう」というほど寒暖差を感じることがあります。定期的に職場環境の測定は行っていきたいものです。
予防策① 温度のムラは「風」で解決!
職場の温度マップを作ってみると、思ったよりも「温度のムラ・体感のムラ」があることが可視化されるのではないでしょうか。
最適な室温は【外気温との差が±5~7℃以内】とされていますが、熱中症を防ぐという観点からも26-27℃前後を目安に体感に合わせて変更しましょう。
空調によって管理されているとはいえ、棚やロッカーなどの遮蔽物やドアの開閉といったことで空気の流れは変わるもの。暑い空気がたまってしまうと、エアコンのセンサーがそれに反応し涼しいところはより寒く、暑いところは暑いままになってしまいます。
涼しい空気をまんべんなく行きわたらせるためには、「サーキュレータ」や扇風機の導入が効果的です。冷却効率のいい使用方法は「部屋の隅、エアコンに向かって対角線上に設置する」こと、天井設置型のエアコンなら2台で挟むように設置し下から空気を循環させるようにすると足元にたまりがちな冷気を部屋に行きわたらせてくれるそうです。
予防策② 感染症対策にもなる「+1枚」のススメ
冷えてしまう体質であったり、すでに不調が出ているような方は冷え対策としていつもの服装に「+1枚」できるものを用意しましょう。
腹巻や足首を覆うサポーターなどを持ち込んで、仕事中だけ使用するのもお勧めです。
薄手のカーディガンでも手首やひじをカバーできると、上半身の寒さが改善されます。ストールなどで首周りを覆うようにするのは、この時期紫外線対策にもなります。
どうしても寒い、エアコンの前の席で直接風があたるといったときには薄いビニールなどでエアコンにカバーを「+1枚」すると効果があります。最近では風向きを変える専用のエアコンカバーが売られていますので、導入を検討してみてはいかがですか。
風向・風量をマイルドにするだけで体感温度の急激な低下を防ぐ以外に、アレルギーの原因や飛沫の拡散リスクを下げることができます。
定期的な職場環境の測定にプラスして、本人の体感や体調に合わせた席の配置や健康情報の提供で、快適な環境を目指して改善を続けていきましょう。
予防策③ 体を動かす
屈伸や背伸び、腕回しのような簡単な運動やストレッチで血行を良くしましょう。
著者: 健康管理能力検定 監修: 日本成人病予防協会