子宮頸がんや肛門がん、咽頭がんなどを引き起こす要因の一つとして、ヒトパピローマウイルス(以下「HPV」という)というウイルスが知られるようになりました。このHPVの感染を予防するために接種するのが、HPVワクチンです。
「全国がん登録罹患データ」によると、2019年に子宮頸がんと診断された症例は10,879例、2020年の子宮頸がんによる死亡者数は2,887人でした。子宮頸がんの発症は20代半ば頃から増え、30代半ば~40代でピークを迎えます。子宮頸がんは、他のがんと比較しても非常に若年層の罹患が多いことが特徴です。
HPVワクチンの接種はWHO(世界保健機関)も推奨しており、実際にカナダやイギリス、オーストラリアなどの接種率は約8割にのぼっています。一方で、日本における接種率はわずか1.9%、子宮頸がんの発症率はG7(先進7カ国)の中でもワースト1位という結果が出ています
HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の有効性や安全性についてはさまざまな研究から明らかになっていますが、以前の副反応や他のワクチンに関する報道を見て、接種を悩んでいる方も少なくないでしょう。
HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の現状
日本におけるHPVワクチンの定期接種は2013年4月から開始されましたが、体の痛みなどのワクチンによる副反応の訴えが相次ぎ、2013年6月~2021年11月まで一時、積極的な接種の呼びかけは中断していました。
この間に、HPVワクチンの安全性および有効性についてさまざまな議論が行われ、2021年11月、厚生科学審議会において「積極的勧奨の再開を妨げる要素はない」と結論づけられました。
2022年4月より小学校6年~高校1年相当の女子を対象に、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の定期接種が再開されました。
また2023年4月からは従来のワクチンよりも子宮頸がんを予防する効果が高いとされる「9価HPVワクチン」の定期接種が開始されました。
「9価HPVワクチン」のワクチンでは、以前あった筋肉痛を感じる人の比率も激減している印象です。
実は性交渉の経験がある女性の約8割がHPVに感染しているといわれています。しかしHPVに感染したからといって必ず何かしらの症状が出るわけではなく、HPVに感染しても、ほとんどの人は感染したことに気がついていません。
感染したHPVウイルスの種類や感染場所、また個人の体質によって子宮頸がんをはじめ、肛門がん、膣がんなどのがんや、尖圭コンジローマ等、多くの病気の発生に関わっています。
HPVで発症するがんというと「子宮頸がん」がよく知られていますが、それ以外にも男性に関わるがんもあります。そのため、女性だけでなく男性もHPVワクチンを接種するメリットは大きいことを覚えておきましょう。
HPVワクチンの対象者と費用
・HPVワクチン定期接種対象者
・小学校6年生~高校1年生相当の女子
・キャッチアップ接種の対象者;平成9年度から平成17年度に生まれた女性(過去にHPVワクチンの接種を合計3回受けていない方)
HPVワクチン定期接種の種類
・サーバリックス(2価HPVワクチン)
・ガーダシル(4価HPVワクチン)・・・現在、男性にも任意で接種できます。
・シルガード9(9価HPVワクチン)・・・現在接種を勧めているワクチンです。
※シルガード9は15歳未満の女性は2回接種、それ以外は3回接種
定期接種対象外の年齢、また男性が任意(自費)でHPVワクチンを接種する場合の費用目安は以下の通りです。
・サーバリックス(2価HPVワクチン)・・・約3万円(1回あたり約1万円×3回)
・ガーダシル(4価HPVワクチン)・・・約4万円(1回あたり約1.3万円×3回)
・シルガード9(9価HPVワクチン)・・・約8万円(1回あたり約2.7万円×3回)
※一部の自治体では任意接種費用の一部を補助している場合があります
またHPVワクチンを接種すれば、子宮頸がんを発症するリスクが0になるというわけではありません。HPVワクチンを接種したあとも、20歳以降は定期的な子宮頸がん検診を受診することをお勧めします。