出張で都内へ。今日は池袋へ泊まることに。学生時代から池袋には縁遠く、なかなか遊びに行くこともなく、未だに待ちのことはよくわからない。が、良さそうな店はすぐに見つかった。池袋駅西口から徒歩3分。怪しい繁華街の真中に「豊田屋」はある。
長いカウンターと10卓以上はあるテーブルがほぼ満席で、サラリーマンの笑い声と、店員の掛け声がぐわんぐわんと木霊する良い雰囲気だ。
さてホッピーを注文し、名物ヤキトンの中から「タン」「ナンコツ」を塩で注文。揚物も欲するがカロリーを考えて「タマネギフライ」を注文した。
ホッピーを呑みながら店の中を眺めると、入れ替わり立ち代るお客さんで常に満席状態。僕の座るカウンターもぎっしりだ。
目の前で若者が一生懸命焼くヤキトンに程よいコゲがまとわれた所で僕の前へ提供された。
「ナンコツ」はコリコリしているが肉も程よく付いていて美味い。「タン」もゴリゴリと分厚く、肉の旨味がじわりと染み出てくる。七味唐辛子をかけて口に運ぶたびホッピーがさらりと喉にすがすがしい。瞬く間に追加の中身を注文することに。
熱々の「タマネギフライ」に添えられたケチャップを付けてガブリ。甘みが滲み出てきてこれも美味い。タマネギの成分で血液をサラサラにしつつ、油で中和するなんとも不思議は料理であるが、僕の好きな揚物の1つだ。
さて追加で「焼き鯖」「カシラ」を注文し、お酒は芋焼酎のお湯割りに変更だ。外は残暑で蒸し暑いが、店内は一連の電力制限が解かれてためかギンギンに冷えている。今年のお湯割り解禁は今日となる。芋の香りが解け出た甘い湯気が立ち、焼酎の辛味と芋の甘味が同時に口の中に広がり、優しく血液に解けていく。やはり焼酎はお湯割りである。濃い目に作られているの酒飲みにはもうれしい配慮だ。
さて「焼き鯖」は脂が乗り、皮もパリパリでご飯が欲しくなるほどだ。焼き魚で酒を飲む喜びは大人でないとわからない。若い頃は考えられなかった組み合わせである。「カシラ」にはカラシを付けてがぶりとかぶりつくと旨味と脂が口の中で混ざり合い「肉食べてる!」という実感が脳漿に湧いてくるのだ。ヤキトンの醍醐味は歯ごたえと脂である!
ああ、大衆酒場はやはり良い。仕事を忘れて1人でカウンターに向かう時間があるからこそ、毎日の仕事に集中できるってぇもんだ。嫁さんには悪いが、これは働く男にとって大事なひと時なのである。
さて心地よい酔いが体に回り、これ以上呑むと腰を据えたくなるかだるくなってしまう。良いところで切り上げるのも一人飲みの極意だ。適度に適度に、である。
会計を済ませて店の外に出ると、池袋の町は相変わらずの雑踏である。景気が悪いのすら感じられない活気が溢れ、ギラギラした欲望の熱みたいなものに少しうんざりもする。
そういう楽しみには興味がない僕はホテルを目指して歩き出すのであった。