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 『消えたワイン』 ポール・ヴァレリー

2011-07-05 14:25:33 | フランス詩 試訳
梅雨は明けたのでしょうか、真夏のような青空がひろがっています。
こんな日は、地中海の海と空を想いながら、ヴァレリーの『消えたワイン』を読むのもよさそうです。
中井英夫の長編推理小説『虚無への供物』というタイトルは、この詩の中の句が使われました。


Le Vin perdu


             Paul Valéry

J’ai , quelque jour , dans l’Océan, 
(Mais je ne sais plus sous quels cieux)
Jeté, comme offrande au néant,
Tout un peu de vin précieux…..

Qui voulut ta perte, ô liqueur?
J’obéis peut-être au devin?
Peut-être au souci de mon coeur ,
Songeant au sang , versant le vin?

Sa transparence accoutumée
Aprés une rose fumée
Reprit aussi pure la mer…

Perdu ce vin, ivres les ondes!…
J’ai vu bondir dans l’air amer
Les figures les plus profondes…





消えたワイン

             ポール・ヴァレリー

私は、かつて大海原に
(しかしどこの空の下だったのか、もはやわからない)
注いだ、虚無への供物として、
ほんの少し、貴重なワインを・・・

誰がお前の消失を望むというのか、おお、酒よ?
わたしは占い師に従ったのだろうか?
心に巣くう不安にかられたのだろうか?
血のように思いながら、ワインを流し続けた。

薔薇色のしぶきが消えて
いつもの、そして、こんなにも
純粋な透明さを海は取り戻した・・・

ワインは消えて、波は酔う!・・・
私は潮風の中に見た
もっとも深遠な像たちが跳ねるのを・・・