さえら

Çà et là
フランス語で「あちらこちら」
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『鐘の下のロンド』 アロイジウス・ベルトラン

2011-09-17 22:23:58 | フランス詩 試訳

日本人である私たちがヨーロッパの教会や聖堂を訪れたとき、そこを聖堂の成り立ちの時から純粋なキリスト教の祈りの場であったと考えてしまうこともあるが、実は必ずしもそうではなく、ゴシック様式の大聖堂などは、部分的にロマネスク様式を含んでいて、時代を遡ればその場所はケルト人の信仰の聖所であったりすることもあう。すなわちゴシック様式の大聖堂は紀元前から続く時間を抱え込んでいるということ。
 普通の感覚を逸脱するほどの高さの列柱。その先端となるリブやアーチは、まるで大木が枝々を縦横に広げているかのよう。柱頭には植物のレリーフも。鐘の響きは轟く雷鳴、ステンドグラスから差し込む光は木漏れ日の光。ゴシック様式の大聖堂の内部は、その様相から森に喩えられることが多い。
 酒井健著『ゴシックとは何か-大聖堂の精神史』(ちくま文芸文庫)は、そのゴシック文化の奥深さを壮大に語っています。読みながら、ふとアロイジウス・ベルトランの詩を思い出していました。

Aloysius BERTRAND
アロイジウス ベルトラン

La ronde sous la cloche
『鐘の下のロンド』

Douze magiciens dansaient une ronde sous la grosse cloche
de Saint-Jean. Ils évoquèrent l'orage l'un après l'autre,
et du fond de mon lit je comptai avec épouvante douze
voix qui traversèrent processionnellement les ténèbres.

12人の魔術師が聖ヨハネ教会の大きな鐘の下でロンドを
踊っていた。嵐を次々と呼び起こすので、
私はベッドの中で恐怖に慄きながら
暗闇の中を行列をつくって進む12の声を数えていた。


Aussitôt la lune courut se cacher derrière les nuées,
et une pluie mêlée d'éclairs et de tourbillons fouetta
ma fenêtre, tandis que les girouettes criaient comme des
grues en sentinelle sur qui crève l'averse dans les bois.

月が急いで雲の後ろに身を隠すとすぐに、
稲光と旋風の入りまじった雨が私の部屋の窓を
激しく叩いた。そのとき見張り番の風見鶏たちは
森でにわか雨にあった鶴のように叫んでいた。


La chanterelle de mon luth, appendu à la cloison, éclata ;
mon chardonneret battit de l'aile dans sa cage ; quelque
esprit curieux tourna un feuillet du Roman-de-la-Rose qui
dormait sur mon pupitre.

仕切り壁にかけてある私のリュートの最高弦が弾けた。
私の鶸が籠の中で羽をばたつかせた。
知りたがりの精霊が、私の書見台の上で眠っている
『薔薇物語』の頁をめくった。


Mais soudain gronda la foudre au haut de Saint-Jean. Les
enchanteurs s'évanouirent frappés à mort, et je vis de
loin leurs livres de magie brûler comme une torche dans
le noir clocher.

そのとき突然聖ヨハネ教会の上で雷鳴が轟いた。魔法使いたちは
ひどく打ちたたかれて消え去った。そして私は遠くから
彼らの魔術本が、黒い鐘の中で松明のように燃えるのを
見た。


Cette effrayante lueur peignait des rouges flammes du
purgatoire et de l'enfer les murailles de la gothique
église, et prolongeait sur les maisons voisines l'ombre
de la statue gigantesque de Saint-Jean.

このぞっとするような小さな光は
煉獄と地獄の赤い炎で
ゴシック教会の壁を染めていった。そして周囲の家々の上に
聖ヨハネの巨大な像の影を長く伸ばしていた。


Les girouettes se rouillèrent ; la lune fondit les nuées
gris de perle ; la pluie ne tomba plus que goutte à goutte
des bords du toit, et la brise, ouvrant ma fenêtre mal
close, jeta sur mon oreiller les fleurs de mon jasmin
secoué par l'orage.

風見鶏は錆びて弱ってきた。月はくすんだ真珠色の
雲を溶かした。雨はもはや、屋根の縁から一滴一滴と
落ちてくるだけだった。そして微風が、うまく閉まっていなかった
窓を開けて、嵐に揺さぶられた私のジャスミンの花々を
私の枕へと投げ入れた。

(拙訳)


『踊り子』 ジャン・コクトー

2011-08-17 10:39:02 | フランス詩 試訳
立秋は過ぎましたが、まだまだ暑い日が続きます。
夏の浜辺を想いうかべながらジャン・コクトーを読んでみます。


Danseuse
                Jean Cocteau

Le crabe sort sur ses pointes
Avec ses bras en corbeille ;
Il sourit jusqu’aux oreilles.

La danseuse d’Opéra,
Au crabe toute pareille,
Sort de la coulisse peinte,
En arrondissant les bras.

              「Poésies」



踊り子
        ジャン・コクトー

蟹が爪先立ちをして出てくる
腕を花籠のようにして。
蟹は耳元いっぱいに微笑む。

オペラ座の踊り子、
蟹とそっくり、なにからなにまで、
色塗りされた舞台裏から出てくる
両腕を丸く輪にして。

   『ポエジー』より


~~~

地中海の砂浜の蟹とパリのオペラ座の踊り子のイメージが、重なり合います。
蟹の歩き方は、踊り子のよう。踊り子のステップは蟹のよう。
どちらがどちらの比喩というのではなく、蟹は踊り子、踊り子は蟹に見えてしまいます。


 『消えたワイン』 ポール・ヴァレリー

2011-07-05 14:25:33 | フランス詩 試訳
梅雨は明けたのでしょうか、真夏のような青空がひろがっています。
こんな日は、地中海の海と空を想いながら、ヴァレリーの『消えたワイン』を読むのもよさそうです。
中井英夫の長編推理小説『虚無への供物』というタイトルは、この詩の中の句が使われました。


Le Vin perdu


             Paul Valéry

J’ai , quelque jour , dans l’Océan, 
(Mais je ne sais plus sous quels cieux)
Jeté, comme offrande au néant,
Tout un peu de vin précieux…..

Qui voulut ta perte, ô liqueur?
J’obéis peut-être au devin?
Peut-être au souci de mon coeur ,
Songeant au sang , versant le vin?

Sa transparence accoutumée
Aprés une rose fumée
Reprit aussi pure la mer…

Perdu ce vin, ivres les ondes!…
J’ai vu bondir dans l’air amer
Les figures les plus profondes…





消えたワイン

             ポール・ヴァレリー

私は、かつて大海原に
(しかしどこの空の下だったのか、もはやわからない)
注いだ、虚無への供物として、
ほんの少し、貴重なワインを・・・

誰がお前の消失を望むというのか、おお、酒よ?
わたしは占い師に従ったのだろうか?
心に巣くう不安にかられたのだろうか?
血のように思いながら、ワインを流し続けた。

薔薇色のしぶきが消えて
いつもの、そして、こんなにも
純粋な透明さを海は取り戻した・・・

ワインは消えて、波は酔う!・・・
私は潮風の中に見た
もっとも深遠な像たちが跳ねるのを・・・




『蝋燭』  フランシス・ポンジュ

2011-04-25 10:29:34 | フランス詩 試訳
La Bougie 蝋燭



                            

Francis Ponge フランシス・ポンジュ



 La nuit parfois ravive une plante singulière dont la lueur décompose les
chambres meublées en massifs d’ombre.

 Sa feuille d’or tient impassible au creux d’une colonette d’albâtre par un pédoncule très noir.

 Les papillon miteux l’assaillent de préférence à la lune trop haute, qui
vaporise les bois. Mais brûlés aussitôt ou vannés dans la bagarre, tous
frémissent aux bords d’une frénésie voisine de la stupeur.

 Cependant la bougie, par le vacillement des clartés sur le livre au brusque dégagement des fumées originales encourage le lecteur, ― puis s’incline
sur son assiette et se noie dans son aliment
.



 夜は時折り,不思議な植物を蘇らせる。その仄かな光が家具付きの部屋をいくつかの暗がりに分解する。

 金色の葉っぱが,真っ黒な花柄に支えられて,純白の小円柱の窪みに泰然としてと収まっている。

 みすぼらしい蛾が何匹もやってきて,森をおぼろに包む月はあまりにも高みにあるからと,こちらを好んで襲いかかる。しかしすぐに火にあぶられ,なぐりあいに疲れきって,ほとんど茫然自失の熱狂さながら,激しく身を震わせる。

 いっぽう蝋燭は,書物の上で輝きを揺らめかせ,突然自分自身の煙を噴き出しては読書家を勇気付ける ― そして自分の皿の中に傾き自分自身の食物の中へと融けてゆく




 厳かなまでに静けさを湛えたポンジュの詩『蝋燭』。
被災された方々,また直接的にも間接的にも日常生活に大きな影響を受けている方々に,このような読書の日々が戻ってきますように。


アポリネール 『白い雪』

2011-01-25 07:02:06 | フランス詩 試訳
モニエというハンドルネームを使っています。それはアポリネールにまつわるこんなエピソードにちなんでつけました。
第1次大戦後のパリ,「書物の友」という書店にルイ・アラゴンやアンドレ・ブルトン,フィリップ・スーポーらがしばしば訪れていた。ヴァレリーの『テスト氏との一夜』は,当時この店でしか買えなかったからであるが,詩人のたまり場のような店でもあったのだ。あるとき前線から頭部を負傷して帰還してきたアポリネールが,この店のショーウィンドーをまるで探し物をするかのように眺めていた。そして一旦は立ち去るのだが,戻ってきて店の中に入ってきていきなりこう言った。「戦士の本が一冊もないのはひどいじゃないか」と。店主は,落ち着いた口調で,「『アルコール』がないのは,置いてないのではなくて,売れてしまったからで,また仕入れる予定なのだ」と言った。さらに,それは戦士の詩集としてではなく詩人としてのアポリネールの詩集だからだ,とも。店主はブルトンからアポリネールのことをたびたび聞かされて,よく知っていたのである。そして,その会話をきっかけに二人はすっかり仲良しになったと。
その店主の名前がアドリエンヌ・モニエ。Adrienne Monnier


La blanche neige


Les anges les anges dans le ciel
L'un est ve^tu en officier
L'un est ve^tu en cuisinier
Et les autres chantent

Bel officier couleur du ciel
Le doux printemps longtemps apres Noël
Te medaillera d'un beau soleil
   D'un beau soleil

Le cuisinier plume les oies
   Ah! tombe neige
   Tombe et que n'ai-je
Ma bien-aime´e entre mes bras





白い雪

天使よ 天使よ 空の天使たち
あるものは将校の服を着て
あるものは料理人の服を着て
他の者たちはうたを歌う

空色の立派な将校
クリスマスから何日も経ってやさしい春が
おまえに輝く太陽の勲章を授けるだろう
    輝く太陽の

料理人はガチョウの羽をむしる
    ああ 雪が降る
    雪が降る それなのになぜ私の腕の中に
私の愛する人はいないのか

紅葉

2010-11-14 21:56:48 | フランス詩 試訳
秋も深まり,都会の樹木も次第に赤褐色に染まってきました。
今日のフランス詩は,ヴェルレーヌ。


Chanson d’Automne       秋の歌

  Paul Verlaine         ポール・ヴェルレーヌ


Les sanglots longs      遠くすすり泣く
Des violons          ヴィオロンのやうに
De l'automne         秋の風が
Blessent mon coeur      僕の心を傷つける
D'une langueur          重く
Monotone.           単調に。

Tout suffocnat        とても息ぐるしく
Et ble^me, quand       青ざめる
Sonne l'heure,        鐘が鳴り響き
Je me souviens         僕は思ひ出す
Des jours anciens       過ぎし日々を
Et je pleure ;        そして僕は涙する。

Et je m'en vais        そして僕は立ち去る
Au vent mauvais        荒れる風に吹かれ
Qui m'emporte         僕は運ばれる
Deca` , dela`,        あちらへ,こちらへ
Pareil a` la          それはまるで
Feuille morte.        枯葉



ヴァイオリンの調べのような秋の風が,心の奥にしまっておいた深い悲しみを再び思い出させ、時を告げる鐘の音が私の心を過去へと導く。あのころは幸せに満ち足りた日々だったが、それは2度と戻らない。その頃を想い涙を流すことしかできない、その悲しさ。今の自分は風に舞う枯葉のようにあてどなく歩く。
この悲しさの最終行,最終の単語はmorte 死。

シャルル ドルレアン

2010-02-28 13:06:24 | フランス詩 試訳

シャルル ドルレアンの詩を訳してみました。
春が訪れる頃になると読みたくなる詩です。


 シャルル・ドレルアンは、ヴァロア朝の分家に1394年に生まれました。1415年イギリスとの戦いで捕虜となり25年間捉われましたが、その後フランスに帰ることができ、1465年に没しています。その間、故郷を思い、詩を詠んでました。帰国してからはブロア城に暮らし詩作を続けました。

「ロンドー」というのは、詩の形を意味しています。この時代、詩にタイトルをつけることは珍しく、後の時代にこのように詩形をタイトルに代わるものとして用いています。詩形の「ロンドー」は、フランス伝統のダンスの楽曲に合わせた詩の形で、当時の歌謡詩の典型として、1行、8音綴で書かれています。
また、15世紀の詩ですから、綴りも現代のものと多少違っているところもあります。

太陽の輝き、金や銀、小動物の歌声、小川のせせらぎ、すべてが春の訪れをあふれんばかりの喜びを持って迎えています。冬から春へと季節の移ろいの一瞬の繊細さを見事に表現しています。

特に銀細工のしずくには、志貴皇子の和歌「石ばしる垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも」 を思い浮かべてしまいます。





ロンドー 

   シャルル・ドルレアン  
       

季節がコートを脱ぎ捨てた、
風と、寒さと、雨のコートを。
そして刺繍で飾ったコートを着た、
それは、まぶしく美しく輝く太陽の刺繍。

獣や鳥がいた。
それぞれの声で歌ったり叫んだりしている
季節がコートを脱ぎ捨てた。
風と、寒さと、雨のコートを。

川や泉やせせらぎが
お揃いの素敵な衣で
銀細工のしずくを運んでくる、
みんな、新しい衣に着替えている。
季節がコートを脱ぎ捨てた。


Rondeau

     Charles d’ORLEANS

Le temps a laissié son manteau
De vent, de froidure et de pluye,
Et s'est vestu de brouderie,
De soleil luyant, cler et beau.

Il n'y a beste, ne oyseau,
Qu'en son jargon ne chante ou crie
Le temps a laissié son manteau
De vent, de froidure et de pluye.

Riviere, fontaine et ruisseau
Portent, en livree jolie,
Gouttes d'argent, d'orfaverie ;
Chascun s'abille de nouveau
Le temps a laissié son manteau.