明けない夜はない。止まない雨はない。自分がなにをすべきか結論は出ず、いまだ前途は茫洋たる霧に包まれて判然としない。だけど、慌てずともよい。答えはいつもそこにある。
夏川草介さんのデビュー作、「神様のカルテ」は、
第一話 満点の星
第二話 門出の桜
第三話 月下の雪
という3話構成になっており、信濃大学を卒業し本庄病院へ勤めて5年目になる内科医の栗原一止(いちと)の、秋から冬にかけての経験が語られています。
■ ハッピーエンドではないけれど
もちろんバッドエンドではありませんが、この物語はハッピーエンドとは言えないと思っています。
と言うのも、決して神の手を持った医者が奇跡的に患者の症状を食い止めたりしないし、地域医療の難局は今後ますます厳しいものになるでしょう。一止の将来も本庄病院に残るか医局に進むか、とりあえず当面の決断を下したに過ぎません。
唯一、1年を経過した妻ハルとの暮らしは、年月を重ねるにつれ深みを増しているであろうことと、「美女と恐竜」が現実のものとなったことがハッピーな出来事と言えるくらいでしょうか。
でも、現実はそうドラスティックな出来事が起こるわけではないし、地味だけど少しずつ心や物事が動いていく。そんなリアルな描写がじんわり響いてくるのが、このお話の特徴のように思います。
ウチ的には、さだまさしさんの「療養所(サナトリウム)」(goo 音楽)という曲と(視点は異なるものの)「何も変わらないと言われるかも知れないけど、ささやかでも出来ることがある」というニュアンスで、似たトーンを感じましたよ。
■ いいひと・優しい人々
このお話の登場人物は、おしなべていいひと・優しい人ばかりというのも印象的でした。
普通なら、例えば大狸先生などは悪役として描かれてもおかしくない存在だと思うのですが、“「不敵」と「不敬」がきわどいバランスでブレンドされた凄みのある”キャラクターとして、これまた魅力的な存在として描かれています。
あるいは、徒党を組んで外来に訪れる(と妄想しそうになる)アルコール常習者の曲者どもにしても、“お笑い番組級の面白さ”として語られています。
実は夏川先生の持つ数々の名言のひとつに、「世の中のお酒は、その殆どが『美味しい』か『凄く美味しい』の2種類しかない!』という台詞があるのですが、そうした彼の性格がこのお話の登場人物の描き方にも如実に顕れていて、『優しい人』か『凄く優しい人』ばかりとなっているような気がしました。
■ 果たして「神様のカルテ」とは
3話構成の作品のタイトルとなっている「神様のカルテ」が何を指しているのか、これはちょっとわかりにくいかもしれません。
ストーリーの中で言うと、第3話こそ「電子カルテ」がちょこちょこと登場するものの、第1話では“早期退院”、第2話では“経過良好にて退院”と一止の手で書き加えられるぐらいでしか出てこず、全般的に「カルテ」の存在感があまり無いように思うのです。
それで何故「カルテ」なのか、ウチなりにちょっと考えてみました。
もちろん、医療関係の経過については全てカルテに書き綴られていることでしょう。でも、恐らくそうした紙のカルテや電子カルテに記載されている『事実』や『処方』だけが本質じゃないのではないか。それを超える何かが記されるとすれば、それは見えざる『神様のカルテ』かもしれない。
そんな背景があってのタイトルなのかもしれない、と憶測しましたが、やはり少し違和感があったりするのです。
(じゃぁ他に適切な題があると言うのか、と問われると苦しいですけど…)
と言うことで、実は当初のタイトルから改題されたという「神様のカルテ」の原題が何であったか、という部分も興味深いものがあるのですが、それはそれとして、是非とも続編・シリーズ化を早くも期待していますよ~
[追 記]
映画化が決定したそうです。(2010-06-08:追記)
トラックバック先:
日の出工房:「神様のカルテ / 夏川草介」(2009-11-14)
itchy1976の日記:「夏川草介『神様のカルテ』」(2010-08-03:TB返し)
関連記事:
夏川草介さんの「神様のカルテ」の映画化が決定(2010-06-08:別館)
夏川草介さんの「神様のカルテ」が発売(2009-08-27:別館)
夏川草介さんの「神様のカルテ」が小学館文庫小説賞(2009-05-16:別館)
「お出掛け」部屋呑みで夏川草介さんのお祝い(2009-08-28)
夏川草介さんのデビュー作、「神様のカルテ」は、
第一話 満点の星
第二話 門出の桜
第三話 月下の雪
という3話構成になっており、信濃大学を卒業し本庄病院へ勤めて5年目になる内科医の栗原一止(いちと)の、秋から冬にかけての経験が語られています。
■ ハッピーエンドではないけれど
もちろんバッドエンドではありませんが、この物語はハッピーエンドとは言えないと思っています。
と言うのも、決して神の手を持った医者が奇跡的に患者の症状を食い止めたりしないし、地域医療の難局は今後ますます厳しいものになるでしょう。一止の将来も本庄病院に残るか医局に進むか、とりあえず当面の決断を下したに過ぎません。
唯一、1年を経過した妻ハルとの暮らしは、年月を重ねるにつれ深みを増しているであろうことと、「美女と恐竜」が現実のものとなったことがハッピーな出来事と言えるくらいでしょうか。
でも、現実はそうドラスティックな出来事が起こるわけではないし、地味だけど少しずつ心や物事が動いていく。そんなリアルな描写がじんわり響いてくるのが、このお話の特徴のように思います。
ウチ的には、さだまさしさんの「療養所(サナトリウム)」(goo 音楽)という曲と(視点は異なるものの)「何も変わらないと言われるかも知れないけど、ささやかでも出来ることがある」というニュアンスで、似たトーンを感じましたよ。
■ いいひと・優しい人々
このお話の登場人物は、おしなべていいひと・優しい人ばかりというのも印象的でした。
普通なら、例えば大狸先生などは悪役として描かれてもおかしくない存在だと思うのですが、“「不敵」と「不敬」がきわどいバランスでブレンドされた凄みのある”キャラクターとして、これまた魅力的な存在として描かれています。
あるいは、徒党を組んで外来に訪れる(と妄想しそうになる)アルコール常習者の曲者どもにしても、“お笑い番組級の面白さ”として語られています。
実は夏川先生の持つ数々の名言のひとつに、「世の中のお酒は、その殆どが『美味しい』か『凄く美味しい』の2種類しかない!』という台詞があるのですが、そうした彼の性格がこのお話の登場人物の描き方にも如実に顕れていて、『優しい人』か『凄く優しい人』ばかりとなっているような気がしました。
■ 果たして「神様のカルテ」とは
3話構成の作品のタイトルとなっている「神様のカルテ」が何を指しているのか、これはちょっとわかりにくいかもしれません。
ストーリーの中で言うと、第3話こそ「電子カルテ」がちょこちょこと登場するものの、第1話では“早期退院”、第2話では“経過良好にて退院”と一止の手で書き加えられるぐらいでしか出てこず、全般的に「カルテ」の存在感があまり無いように思うのです。
それで何故「カルテ」なのか、ウチなりにちょっと考えてみました。
もちろん、医療関係の経過については全てカルテに書き綴られていることでしょう。でも、恐らくそうした紙のカルテや電子カルテに記載されている『事実』や『処方』だけが本質じゃないのではないか。それを超える何かが記されるとすれば、それは見えざる『神様のカルテ』かもしれない。
そんな背景があってのタイトルなのかもしれない、と憶測しましたが、やはり少し違和感があったりするのです。
(じゃぁ他に適切な題があると言うのか、と問われると苦しいですけど…)
と言うことで、実は当初のタイトルから改題されたという「神様のカルテ」の原題が何であったか、という部分も興味深いものがあるのですが、それはそれとして、是非とも続編・シリーズ化を早くも期待していますよ~
[追 記]
映画化が決定したそうです。(2010-06-08:追記)
トラックバック先:
日の出工房:「神様のカルテ / 夏川草介」(2009-11-14)
itchy1976の日記:「夏川草介『神様のカルテ』」(2010-08-03:TB返し)
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