先のブログで測定をしなくても波束の収縮があることを指摘しました。
今回のブログでは別の観点から波束の収縮について考察します。
電子検出フィルムというのがあります。
(外村彰『量子力学への招待』、岩波講座、物理の世界(2001.11), pp.8-9)
フィルム上の電子を検出する分子の数をnとします。
この電子検出分子群の直前における波動関数は電子検出分子というごく狭い範囲にあるので波束として表現できます。
このときの波動関数は次式のようなn個の波束の重なりで与えられます。
ψ=ψ1+ψ2+・・・+ψn (1)
電子銃から電子を1個発射します。
この電子はシュレーディンガー方程式の波動関数ψで表現されます。
1個の電子は電子検出フィルム上のn個の検出分子のどれかに衝突します。
電子を検出した分子の番号を仮にpとします。
この電子が検出分子pに衝突する直前の波動関数はごく狭い範囲にあるので、電子の波動関数は波束ψpになります。
n個ある波束の中の一つψpがランダムに選択されたことを意味します。
このときの波動関数の変化を次式で表します。
ψ → ψp (2)
この式は、波動関数ψがψpに収縮したことを意味します。
しかし、このときの波束の収縮は通常の測定によるものとは違います。
何故なら、pの値は1~nの中のどれかという条件だけであり、その具体的な値を測定していないからです。
以上の議論から波束の収縮は次の2種類あることが分かります。
(A)測定による波束の収縮
(B)測定によらない波束の収縮
なお、量子力学における測定による波束の収縮(A)とは、測定直後のものを意味します。
一方、測定によらない波束の収縮(B)とは、電子が検出フィルムに衝突する直前のものを意味します。
この点でも、(A)と(B)とでは波束の収縮の意味が本質的に違います。
次に、(1)式の右辺にある波束の確率振幅を計算します。
n個の電子検出分子は互いに重なっていないので、(1)式の右辺にあるn個の波束も互いに重なっていません。これらの波束は複素関数であることを考慮するとn個の波束は互いに直交していることが分かります。
従って、(1)式について次の関係式を得ます。
ψの確率振幅=ψ1の確率振幅+ψ2の確率振幅+・・・+ψnの確率振幅 (3)
右辺の確率振幅は、電子検出分子の位置におけるψの確率振幅で与えられます。