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小説西寺物語 45話 嵯峨天皇へ献上「若狭鯖寿司道中」大成功 鯖街道 「小説鯖街道」②1〜5話の2話

2022-08-19 05:21:45 | 日記
小説西寺物語 45話 嵯峨天皇へ献上「若狭鯖寿司道中」大成功 鯖街道
「小説鯖街道」②1〜5話の2話

 空海は嵯峨天皇への若狭鯖寿司献上の鯖寿司の数を数えていた。嵯峨天皇への献上とはいうが、やはり朝廷の公卿から貴族にまで食べてほしい。そうなると鯖寿司が何本あっても足りない。そこで高浜漁村の村長の富吉に12月4日の早朝に水揚げされる鯖の数を聞いていた、富吉は、
「なにせ定置網漁ですから色々な魚が獲れますが、鯖だけの数はまだ分かりません。しかし、過去の経験では高浜漁港全体で約300匹前後が平均になります。これは隣村の小浜漁港でも同じ位になります」
「ただ、この時期の鯖は秋サバと言って脂がのって一年でも一番旨い時期になります。女性たちの行商でも京の大店から「鯖の浜焼き」の注文を多く取っていますからこの分を確保しなければなりません」

 「そうか~なにせ大掛かりな「若狭鯖寿司献上道中」だから中途半端にはしたくはない」
「そうですね~それなら小浜漁港と提携すればなんとかできます。それに鯖寿司用の鯖と塩鯖焼用の鯖では塩加減が違います。前日の2、3日に水揚げれた鯖は塩鯖焼用と浜焼き用にして、4日の高浜、小浜漁港に水揚げされた鯖はすべて献上の鯖寿司に使えば約500本はほぼ確実になります」
「そか、悪いが富吉さん、小浜漁港と話しをしていただけませんか?」
「はい、それは任して下さい。ただ、小浜の漁民も空海さんが考えた女性行商隊を組織したいが、小浜漁港の寺は奈良仏教の末寺で高浜街道と神護寺を使わせてくれるのかと心配していますが?」
「いやいや、奈良仏教であろうが比叡山仏教であろうが高浜街道は天下の公道です。小浜漁港の女性行商隊列が通る日にはすべての番屋には警備の僧侶を常勤させます。もちろん神護寺の宿坊には誰でも利用できます」

 高浜と小浜は同じ若狭湾にある漁港で漁場も同じ場所で定置網の場所も協議して決めていた。それと代々高浜と小浜の娘らが嫁入りする先もこの両村が半分ぐらいを占めているからどの家も両村に親戚があった。そんなことで高浜漁港と小浜漁港が協力して「若狭鯖寿司献上道中」を成功させるための提携がなされた。これでなんとか鯖寿司用の鯖は確保されて1000本の鯖寿司の振分を空海は考えていた。
 空海は若狭ばかりか越前国そのものを京に売り込もうと考えていた。鯖寿司は若狭だが、鯖寿司の米は越前米の新米、酢と塩は敦賀産、昆布は敦賀湾に水揚げされる北海道産、鯖寿司を包む竹の皮も越前から調達すると決めた。その空海が決めたことを空海の横に座っている椿が書き写していた。椿が書いたものはすぐに本堂に貼られていた。

 それを弟子の僧侶が見てそれぞれの分野の僧侶がすぐに行動に出るのが真言宗の修行の一つだった。農村担当の僧侶は鯖寿司1000本に使う米の量を調べて真言宗の末寺のある村から米の購買、輸送の段取りまで素早くしていた。また酢と塩、それに松前昆布を買う僧侶はその日のうちに僧侶5人組を組織して敦賀に出発していた。

 空海は気象学を勉強していたので統計的に見て12月2、3、4日は天気で漁には支障のないと確信していたが、それはそれとして高浜と小浜の村民を集めて高浜寺で当日の晴天祈願、漁業安全祈願、若狭鯖寿司道中成功祈願の大護摩法要をしていた。この空海の大護摩法要だが、これは村民の願いを護摩木に書いてそれを100名の僧侶が読経しながら火に入れるもので空海はその護摩木に書かれた名前を一人一人読み上げていたので火の粉が顔にかかって真っ赤になっていた。このころには空海という住職は比叡山仏教の順位一位の高僧で官営東寺の官主に内定しているばかりか従六位の貴族だった。それに嵯峨天皇とは友達だということが越前国中に知れ渡り高浜と小浜の漁民たちは空海を心から信じているようになっていた。

 空海はさらに2日から5日の若狭鯖寿司道中までの工程を椿に話していた。まず2、3日に高浜港と小浜港に水揚げされた鯖は塩鯖用と行商が京に持っていく浜焼きに使う。4日早朝に水揚げされた鯖は鯖寿司用として塩をして木樽に入れて大八車で午前10時までに高浜を出発。京の九常寺に着くのが20時間後の5日の午前6時になるための鯖への塩加減を梅さんと相談して徹底すること。

 鯖が到着後すぐに鯖の下処理、鯖を酢に漬ける時間を梅さんと相談して全僧侶に徹底すること。1000本の鯖寿司となると米を炊く大釜を確保するが、すべて炊くのは無理なら3回ぐらいに分ける。最初に朝廷用の鯖寿司500本を調理すること。この鯖寿司と焼き塩鯖の100本で献上鯖とする。若狭鯖寿司道中の出発は午後2時で羅城門から朱雀大路で午後3時に大極殿前で朝廷に献上品を納める儀式で終わるが、道中の先頭には空海、弟子100名、それに高浜と小浜の女性行商隊も全員参列すること。

 九常寺に残った僧侶200名は官営西寺貫主守敏僧侶、比叡山仏教最澄、稲荷神社と松尾神社に贈呈する鯖寿司を作ること。最後に九条村からの手伝いの女性陣、大釜を拠出してくれた人々へのお礼の鯖寿司を作ること。尚、この若狭鯖寿司道中の総予算は50貫(1貫は銭1000文)とすること。これを書いて椿は高浜寺の本堂に貼り、同じ貼り紙を神護寺と九常寺に送った。それぞれの僧侶はこれを見て鯖献上の日まで20日しかないが、空海の命令を守る以外の道はなかった。

 高浜寺の僧侶100名、神護寺の僧侶200名は空海の書いた予定表を広げて作戦を練っていた。ただ、当日穫れる鯖の量は流動的で朝廷に献上する鯖寿司500本以外は臨機応変とした。また、当日小浜の漁船も高浜港に入港させて浜で塩をして木樽に詰めるが、大八車を5台用意して詰めた樽から高浜を出発させれば段取りがいい。九常寺の庭に簡易の調理場を作るなどが決まっていた。その調理場ができたら予行練習として鯖100本を仕入れて高浜港で塩をして予定時間に出発させて九常寺で九条村の女性の手伝いとともに本番通りに鯖寿司を作ることも決まっていた。そして練習で作った鯖寿司は九条村の村民が試食することも決まった。

 予行練習では鯖寿司の鯖を水洗いしてから3枚に下ろすが、中骨と皮を取る工程に時間がかかるので10名から30人に大幅に増やす。酢に漬ける時間が各自がバラバラで1人の料理僧侶に判断を託す。米を炊く工程では西寺の食堂から借りた大釜3個は炊きむらはないが、九条村からから借りた大釜7個には村民それぞれの水加減が違うために炊きむらがある。また、簡易のかまどに焼べる薪が火力の効率が悪いのか予想より消費するために薪の追加購入。簡易の板場が狭いために効率が悪く時間がかかるので増やす。井戸から板場の間が遠いために不便で時間がかかる。などなど問題点を試しに作った鯖寿司200本を九条村の手伝いの女性50名と僧侶200名で食べながら話し合っていたが、味については誰もが大満足していた。

 813年12月4日の高浜の漁船も小浜の漁船も大漁で鯖も予想以上の600匹ほど水揚げされた。高浜小浜女性行商隊も早朝5時には京へ出発していた。水揚げされた鯖は予行練習と同じ手順で手際よく塩をして樽詰めされて最後の大八車が出発したのも予定通りの10時で空海はそれを見届けてから僧侶100名とともに京へ向かった。空海のお世話係りの女性である椿は椿の母親と妹の組に同行していたが、背中に背負っている荷物は鯖の浜焼きではなく空海の着替えなどだった。

 京の九常寺でも予行練習と同じ手順で鯖寿司作りが始まりこれも予定通りで朝廷に献上する鯖寿司500本、塩焼き鯖用の鯖の切身で100匹分を3台の大八車に積み込み「献上若狭鯖寿司」と書かれた木札が高々と上げてあった。行列は正装の空海を先頭に僧侶が100名で太鼓を鳴らして歩いていた。そして献上の鯖の大八車が続き、その後に高浜小浜漁港の女性行商隊80名余りが行列をしていた。この女性行商隊はもう朝から行商をしてすべて完売で身軽で半分は若い娘だが、若者たちは見初めた娘を必死で探した娘に拍手を惜しみなく贈っていた。

 大極殿の門前では献上の鯖寿司を正面に置いて、左側に僧侶が並び、右側には高浜小浜女性行商隊が並び、大極殿の門が開いて従三位左大臣藤原朋己と若い貴族たち20数名が礼服と烏帽子の凛々しい姿で現れたが、その絵にも書けない雅な姿に娘どころか母親も過呼吸からかドタドタと倒れていた。官女、侍女ら20数名が倒れている母娘に手をかすが、その様子を目の前で見た母娘はその官女、侍女のあまりにもの艶やかさとお香の香りでこれも過呼吸なのかバタバタ倒れていた。その間に空海が左大臣に鯖寿司の目録を手渡して献上の儀式は無事終了していた。
​​       鯖街道③に続く




​小説西寺物語 44話 空海若狭の鯖寿司を嵯峨天皇に献上へ、鯖街道①〜5話完の1話

2022-08-18 09:27:21 | 日記
​小説西寺物語 44話 空海若狭の鯖寿司を嵯峨天皇に献上へ、鯖街道①〜5話完の1話

 空海は都~若狭までの高浜街道の整備と布教に力を入れていたが、2回目の布教の旅に弟子100名を引き連れて高浜にいた。高浜では無住職で漁村にある高浜寺の布教に成功してここを拠点にして西は舞鶴、東は小浜、敦賀に弟子を派遣をして農業指導や農業用水の整備をしていた。高浜漁港では鯖、カレイ、イカの水揚げは若狭湾一だが、なにせ都会である京の都や奈良、難波には遠くて大阪湾や瀬戸内海に水揚げされる魚に負けていた。

 それでも鯖の浜焼きや干しカレイ、イカの加工品にして細々と若狭街道から都へと売っていた。これは漁民やその妻たちが背中にかつぎ都までの18里を歩いて行商していた。高浜から都へは高浜街道が便利だが、その頃の街道は整備されてなくて危険な箇所が何ヶ所もあった。さらに過去には山賊の被害もあっていつの間にか漁民からも旅の商人からも忘れられていた。

 空海は若狭街道を整備して1級国道並みにした。そして都までには5つの集落があるが、この集落の寺はすべて真言宗の末寺になり私の弟子が住職をしているから雨や嵐に遭遇すれば遠慮せずに寺に駆け込んでほしいと漁民を説得していた。それまでは女性だけでは危険だと夫婦で行商をしていたが、それだと男たちは漁ができなく夫が漁に出れば行商はできなくなる。

 そこで空海は女性だけで行商をすることを漁民に提案していた。まず加工して商品化する日にちを漁民で調整して行商に出る日を月に2~3回決める。行商には女性ばかり集めて隊列を組んで都に行く。帰りは高雄神護寺に全員集合してまとまって帰る。また、この行商の隊列の予定日には高浜から都まで1里ごとに地蔵と番屋を置いて僧侶を2名常勤させる。また深夜にかかる峠には神護寺の僧侶が見回りをするからより安全になると漁民を説得していた。

 この空海の提案に喜んだのが、若い娘たちで憧れでもある京の都には一生行けないと思っていたからだ。しかも、行商に行けばそれなりの金が入り着物も買えると漁民の妻たちより喜んでいた。漁村の男たちも空海を信頼していたのでこの女性だけの行商隊には大賛成していた。こうして女性だけの行商隊の第一陣が高浜を出発したのが813年11月4日だった。

 早朝5時に出発した高浜女性行商隊は48名で全員母娘で母親は行商の経験のない娘と組んで24組が参加していたが、高浜街道は初めてということで僧侶10名が先導していた。これより先の高浜街道の各村には女性行商隊が通ることを村の寺の住職が宣伝していたために若い娘の荷物を少しでも軽くしてあげたい気持からか娘の行商から鯖の浜焼きや一汐のカレイ、イカが売れた。

 また若者たちは高浜の若い娘を品定めしょうと行商隊に群がっていた。若い娘が背たろうている荷物は約30㌔から40㌔はあるがこの5ヶ村で半分ほどは売れていた。隊列は深夜になるが月明かりでそんなに歩くには不便を感じなかった。神護寺に着いたのは深夜の4時で寺の宿坊で仮眠をとって朝の8時には出発していた。ここからは都の中心部まては約2里2時間ほどで行商隊はそれぞれのお得意様へ若狭の海産物を母親と2人で売り歩いていた。

 24組の母娘はそれぞれのお得意様へ向かうが、もう都では若狭高浜から若い娘が行商に来ることは奈良仏教や比叡山仏教の僧侶の前宣伝で特に若者の間では噂になっていた。当時の娘というのは15歳から19歳ぐらいまででまだ幼さが残っている女性のことだった。これら若狭の娘さんらは色白美人だけでなくよく働き素直な娘が多いと大店の息子の嫁にほしいと店に若狭から行商に来る夫婦の娘をほしい、または若狭の娘を紹介してほしい意味も込めて商品を買ってくれていたという経緯があった。

 それがまとめて24名も都に来るというので大店の息子ばかりか庶民の若い男までまだかまだかと待っていた。こんなことで24組の持って来た商品はもう昼前には完売していた。もう商品はなかったもののいつも買ってくれていたお得意様へは娘を紹介するがてら挨拶は欠かさなかった。そうなると次の行商はいつになるかは誰もが気になるので今日は5日なので次は15日、その次は25日と毎月5の付く日と決まっていた。

 この母娘の娘はなにせこの日まで高浜から一歩も出ていないのにいきなり都に連れてこられて大店が軒を連ねる朱雀大路や四条大路の賑やかさに怖さを感じて母親の腕を離さなかった。母親が大店の番頭さんに挨拶しなさいと促されても娘は顔を赤らめて下を向いていた。商売の方も母親が商品の説明と値段の交渉をしていても取り囲んだ若者の視線が恥ずかしくて下を向いたままだった。こんなうぶな娘に一目惚れする若者が続出するのは当然で若者たちの間ではこの話しが尽きなかった。

 女性だけの若狭高浜行商隊は日暮れにはそれぞれ神護寺に集まり少しの仮眠をして夜の九時には高浜へ出発していた。帰りの道中は母親は母親連中と娘は娘ばかり集まり都であった出来事を報告し合って歩いていたので疲れや眠気などは感じている暇はなかった。帰りは荷物がないので早くて18時間後の6日の午後6時には全員家に帰っていた。

 行商隊が高浜に帰ると同時に代表各の母親5名が高浜寺の空海に報告に来ていた。空海は恐縮しながら、
「そんな報告などは明日でいいから早く風呂に入って休んで下さい」
「いえいえ、京までは遠くても18里しかありません。娘たちも仲間と歩き物見遊山気分で次の行商を楽しみにしています。それに私たちもいつもは亭主と二人だけでなにかと気を使いますが、女性だけのほうが楽しく行商ができます」
「そうか~それは良かった。で、街道は道に迷ったり、危険な場所はなかったかな?」
「はい、迷いそうな場所には「神護寺3里、京4里」と矢印が書いた石碑や案内板があり安心です」

 そして私らの母親が留守の間に空海さまに食べていただこうと若狭で古くから伝わる鯖寿司を作りました。どうか食べて下さいと出された鯖寿司を空海は喜んで食べたが、空海は、
「これは旨いが、鯖は足が早いというが、何か工夫をしているのか?」
「はい、鯖は腐るのが早いので焼いて京に持って行きます。この鯖寿司は水揚げされた新鮮な鯖を一昼夜塩に漬けてその後、水洗いして今度は酢に昆布や鰹節を入れて鯖を漬け込みます。これだと冬は7日ほど、夏でも3日は持ちます」

 鯖寿司の後には寺の台所で焼いたのか、熱々の鯖の塩焼きが出された、空海は脂がしたたり落ちる鯖を一口食べると思わず「旨い!」と叫んでいた。その時、空海の頭の中にはこれまでお世話になってきた嵯峨天皇や師匠の最澄、それに西寺の守敏僧都、稲荷神社の伊呂具、松尾神社の酒公にこれらの若狭の鯖寿司と鯖の塩焼きを食わしてやりたいと何故か瞬間的に思った。日頃は彼らと私とは思想が違うと思って思い出すことさえはばかっていたのに何故だと自問自答していた。

 そこで空海は代表各の母親の松に、
「松さん、この若狭の鯖寿司と塩鯖焼きを嵯峨天皇に献上したいが、鯖を100本ほど譲ってはくれないか?」
「さ、嵯峨天皇…ま、まさか~天皇さまはこんな下々の物をお食べにはなりません」
「いやいや、私は天皇とは飲み友達で天皇の好みは知っている。いつも天皇が旨いというものは私も美味いと思っている。この鯖寿司も塩鯖焼きも私は天下一品の美味と思ったから天皇もそう思う」
「へえ~~~住職さまが~天皇と友達~へえ~」

 へえ~と思わず5人の母親は板の間に額をこするほどひれ伏していた。空海は、
「いやいや、私は天皇でもないしこの高浜寺の住職でしかないが、もし天皇がこの若狭の鯖寿司を食べて一言「旨い!」といえば若狭の海産物は京の都では高値で飛ぶように売れてこの高浜には「鯖御殿」や「鯖屋敷」がいくつも建つかも分からないが、いかがか?」

 松は、
「それは嬉しい話しですが、この鯖寿司は私の義母の梅さんが作ったものですが、私たち若い母親にはまだ教えていただけません。なんでも塩加減が薄いと半日後にはうじ虫が湧いて食べられません。濃くなれば新鮮味も旨味も風味も消えてしまうそうです。また酢に漬ける時間も早ければ生臭く、長ければ脂も飛んで白くなり見た目も悪くなります。たとえ京で若狭の鯖が売れたとしてもこの鯖寿司には到底なりません」

 そこで空海は少し考えてから、
「それなら梅さんが私の弟子に鯖寿司の作り方を伝授していただけませんか?。私たち神護寺の僧侶は宿坊などの料理のすべてを僧侶が調理しています。その腕は京の一流料亭の花板と同等以上の腕利きです。もちろん先の桓武天皇にも嵯峨天皇にも私どもの僧侶の料理をお召し上がり頂いています。その腕利きの僧侶をさらに選抜して梅さんに預けますから鯖寿司の作り方を伝授してほしい。そしてこれらの僧侶が京の料理人に教えることで若狭の鯖は宮廷料理にも京料理の代表にもなります」

 空海は料理の名人級の僧侶5人を神護寺から高浜寺に集めて梅さんの鯖寿司の鯖のさばき方から塩加減までを習うことになった。教室は高浜寺の台所だが、梅さんは75歳の高齢で梅さんの孫の色白美人の椿を助手として連れてきた。この椿は19で小浜の漁民の嫁になったが、嫁入りの年に夫は海で遭難して亡くなっていたが、まだ22歳の若さだった。子供がいなかったので実家に戻されて兄の船で水揚げされた魚の加工を浜でしていた。

 梅さんと椿は早朝から寺に来て僧侶5人に手取り足取りで教えているが、僧侶たちは元々魚をさばくことは熟しているので梅さんが教えるのは塩加減と酢の扱いだった。椿はいつの間にか空海の食事や身の回りの世話をすることになったが、これは梅さんの年の功の悪知恵で孫の椿と空海がいい仲になるのを見越していた。

 梅さんの鯖寿司教室も10日が経ち僧侶たちは鯖寿司の作りを伝授されていた。この間に使った鯖は100本、米はニ斗を越えてこれらの成果である、鯖寿司を嵯峨天皇に献上する「若狭鯖道中」の日が813年12月5日と決まっていた。この日は高浜女性行商隊の4回目の日で若狭鯖道中の行列にも参加することになった。この日から梅さんはお役を終えて寺には来なくなったが、孫の椿は毎日空海の世話をするために寺に通っていた。
  (鯖街道②に続く・画像はフリーから)​​





真っ暗闇の男女の秘め事は五感を刺激する貴族の遊びだった。伏見稲荷大社の物語 36話

2022-08-17 16:02:20 | 日記
真っ暗闇の男女の秘め事は五感を刺激する貴族の遊びだった。灯明と透け透け襦袢ででさらに…和江瑠(ワコール)が貴族社会に進出 伏見稲荷大社の物語 36話より

 奈良時代から神仏用の灯明と照明用の油は製造されていた。主に荏胡麻の油は灯明、菜種油は照明用に使われてはいたが、やはりこれは高価なもので農民や一般庶民には縁がなかったものだ。というよりも朝は夜明けと同時に働いて日が落ちると寝るという文化があり照明そのものの必要性がなかったからだ。この時代には唐から蝋燭が輸入されていたが、これは高価なもので蝋燭を日本で作る技術はまだなかった。

 これは天皇家も公家も貴族も同じで夜は寝るものでわざわざ照明をつけて仕事をする者もいなかった。このころの空は空気も綺麗で高いビルも街灯もなく屋敷の奥の部屋ではそれこそ真っ暗闇の世界になる。ただその分だけ月や星の光というのは現在よりも数倍明るく感じていた。庭に面した部屋などはこの月の光だけで十分な照明になっていた。また雪に反射した月の光などは銀座のネオンより明るく感じるほど輝いていた。

 ただ昼間でも神社や寺での本堂の中では真っ暗闇とはいかない、なぜなら灯明、蝋燭の明かりや灯篭の明かりが神秘性を生み出すばかりか仏様の顔が見えなければ信心そのものが成り立たなくなるからだ。ゆらゆらと揺れる光の中で観音様の顔はより優しく、怖い顔をした仏像はさらに迫力がでるというものだ、稲荷神社でも夜の参拝者用に表参道には灯篭を、社殿の中には灯明、蝋燭を一年中切らさなかった。

 貴族の寝所は屋敷の奥にありここには月の光も届かないからそれこそ真っ暗闇になる。そこでの男女の二人は目の前一寸さえ見えない、衣擦れの音さえ普段の3倍ほどに聞こえる。相手の息遣い、匂い、仕草に全神経が集中していることになる。その相手の指が腕の内側をす~と撫ぜると全神経がここに集まり快感が暴発しそうになる、また背中を指で摩られると悶絶するほど感じる。しかし、これがたとえば時計の文字盤の蛍光塗料一つで光っていれば腕と背中を触られただけにしかならない。

 腕、背中でそうだから彼の唇と指が本格的になると…しかし、これはかなり疲れる行為であって新婚や不倫の場合はまだいいが、慣れた女房にはチトしんどくなる。そこで疲れないように部屋に照明用の油をつけていた。そうなるとまた違う刺激がほしくなるのがこれまた人間の欲と性になる。

 都の左京に東市という市場がある。その室町通りには公家、貴族向けの高級ブティックがあった。そのブティックは和江瑠(ワコール)という屋号で主に女性下着の長襦袢を売っていた。これは絹でできていたが、その絹の一番細い糸で織っているから透け透けの織物だった。色もピンク、赤、白、銀ラメ、黄、黒と色鮮やかで貴族の女性はこれを買うために牛車で押しかけて店の前は牛車の行列ができていたという。

 神泉苑離宮では満月の日の恒例の月見の宴が開催されていた。ここには公家の他に高級貴族も招かれている。もちろん稲荷神社二代目宮司の生成(いなり)も招待されている。部屋の照明はなく満月とその月が池に映った月光だけでもけっこう明るい。宮廷の雅楽の演奏もされてムードは最高潮になったころ、若い女性が5人も池を背に出てきた。そして舞を披露しているが…

 その女性らは全員素肌に色それぞれの長襦袢を着ているがそれは透け透けのもので満月の光で色白の肌がシルエットで鮮明に浮き上がっていた。招かれた客は全員男だが目を点にしていた。そして一曲目が終わったときに天皇が、
「この色気のある長襦袢をお主らの妻や妾が着て夜を待っていると巷では噂になっているが、この長襦袢の流行をどう思うか率直な意見を聞かしててほしい」

 こういう場合はまず位の一番高い貴族が天皇に対して言葉を述べるが、その貴族は頭の中が混乱して言葉がでないようだ。そこで天皇は生成を指名していた。生成は、
「これが噂の和江瑠の透け透け長襦袢ですか、たしかにセクシーで私はいいと思います。しかし、一方では都の風紀が乱れという意見もあります。ところで、私の稲荷神社でも夜の参拝者が増えています。これは夜は寝るだけの文化から楽しむ文化へと移行しています。それは闇の世界から視覚を楽しむという生活の余裕から来ていると思います。庶民が夜の時間を楽しめれば経済活動が活発になり税収も増えることになります」
天皇は、
「そか、夜は寝るだけの文化から楽しむ文化になるのか?」
「はい、この月見の宴も公家や貴族だけの専売特許にせず、庶民にも広げることが日本の発展にもなります」
「そか、それなら照明用の荏胡麻や菜種の油が大量に必要になるが…」
「はい、それが大山崎の山崎屋という油商がなんでも種から油を採る鉄の機械を発明したそうで、これで油を抽出すれば油の値段も庶民に手が届くようになるそうです」
「そか、それなら蝋燭はどうなる?」
「はい、これも国産で製造できるように稲荷大学の学生が研究しています」

 この天皇と生成との話を聞いていた客らも頷いていたのでもう誰も和江瑠の長襦袢を批判できなかった。そして宴の〆にもう一度雅楽の演奏があり、やはり透け透けの5人の舞が始まったころには貴族の顔もかなり緩んでいた。この天皇のお言葉「夜は寝るだけの文化から楽しむ文化」が世間に広がるのは3日もかからず稲荷神社のライトアップ参拝にカップルが押し寄せ、やがて結婚、そして子供ができてこの時期に都の人口も一気に増えていた。

★…本当に真っ暗闇な世界を体験したことがあります。それは清滝に通じるトンネルの中で少しカーブの一か所だけ真っ暗闇があったのです。その時は子供と手をつないで歩いていたのですが、その瞬間に子供が消えてしまい恐怖というものはこれだと思った。災害などで土砂に埋まって助けを待っている人たちもこの恐怖を味わったと思うと…ここの読者も一度真っ暗闇を体験してください。

「音川伊奈利」で検索できます。


1分で読めるミニ小説 夏野夏・音川伊奈利 ★~小さな夏ちゃんの物語 ★~小さな圭ちゃんの物語

2022-08-15 14:44:21 | 日記
1分で読めるミニ小説 夏野夏・音川伊奈利 ★~小さな夏ちゃんの物語
★~小さな圭ちゃんの物語
   
………悩み………
…小さな夏ちゃんの物語…

小さい夏ちゃんが公園から帰ると、

「お帰りー夏ちゃん、冷蔵庫にスイカがあるよ。
ちゃんと手を洗ってね。」

ってママが言いました。

「はーい。」

夏ちゃんは手を洗って、冷蔵庫からスイカを出しました。

台所のテーブルのとこに持っていって、
どっこいしょと椅子に座り、
夏ちゃんは、スイカを食べ始めました。

「美味しい?田舎のおばあちゃんが、送ってくれたスイカだよ。」

夏ちゃんの、おいしそうな食べ方を見て、
ママは幸せな気分になりました。
手に持っていたペンと、電卓を置いて、
家計簿をパタンと閉じました。

そして、

「夏ちゃんは、いいねぇー。
夏ちゃんには、悩みなんてないでしょー!?」

と、思わず言ってしまいました。

「え?悩みって?悩みってなぁに?」

「悩み、って、困ったことよ。」

「え、夏ちゃんにも、困ったことあるよ。悩み、あるよ。」

夏ちゃんの思いがけない言葉に、ママは、え?っと思いました。
幼稚園で、何か、問題があるのかしら。

「な、夏ちゃん、悩みって?困ったことって?
マ、ママにお話してみて・・・。」

「夏ちゃんねー、幼稚園で、水筒のふたが開けれないの。
開けれないと困っちゃうの。お茶が飲めないの。」

小さい夏ちゃんの水筒は、お姉ちゃんのお古でした。
栓がきついのは、洗うときにママも気づいていました。
明日、新しいのを、買って上げましょう。

でも、夏ちゃん・・・
貴女の悩みはまだそんなものなのかー。

ママは、ふーっとため息をつきました。
    

………銀の鈴………
…小さな圭ちゃんの物語…
 
 圭ちゃんは、お父さんから幼稚園の入園のお祝いにもらった銀の鈴がついたキーホルダーが、よっぽど気に入ったのか幼稚園の小さなショルダーバックに留めて毎日歩いて10分のくるみ幼稚園まで、「チャラ、チャラ、チャラ、チャラ」鈴の音をさして通園していました。

 やがてその鈴の音が聞こえると、「あ!圭ちゃんだ・・・」といって近所の人が家から飛び出して「圭ちゃん、おはよ~」「圭ちゃん、おかえり~」と声をかけてくれます。そのつど圭ちゃん、明るい笑顔でパパからもらった鈴を自慢して鳴らすようになりました。

 その圭ちゃんの誕生日に今度はおばあちゃんから金の鈴がついたキーホルダーがプレゼントされて二つになりました。それから圭ちゃんにはキーホルダーが喜ぶといろんな人からプレゼントされてもう30個にもなっていました。そして音も「チャラ、チャラ」から「ガチャ!ガチヤ!」とやかましいぐらいになったのでお母んが、
「圭ちゃん、もう~そんなにたくさん重いから気にいったのだけにすれば?」
「ママ~ダメダメ、だって~これ全部気に入っているもの~」
「でも~重いでしょう?」
「ううん~ほらこの金の鈴はおばあちゃん、パンダは田中さんっちのおばさん、ミッキーは新ちゃんから、これは~親戚の~」
「け、圭ちゃん、わかったわかった。でも~パパからもらった銀の鈴は?」
「ママ~ヘヘヘ~ないの~」
「ヘヘヘってなによ~もう気色悪い圭ちゃん!」
「あれ~夏ちゃんの誕生日にあげたの~ママ」
「な、夏ちゃん?夏ちゃんって年長組みの夏ちゃんに?だって圭ちゃんよりお姉さんよ!いや~それはいいんだけど~・・・」

 その夜、圭ちゃんのママはパパにこのことを報告しています。
パパは、
「ヘエ~圭にも好きな女の子が、アッハッハッ、さすが俺の息子だ!」
「パ、パパ!何をニヤついているの?」
「だってママ、俺の最初のプレゼントをもう忘れたのか?」
 ママはハッとしました。そうです、パパと付き合って最初の誕生日のプレゼントが銀の鈴がついたブローチだったのです、そしてママはパパより一つ年上だったのです。


★~いつもHなお話を書いている夏野夏が小さな子供を題材にしたものを書いてきた。またいずれここで発表するが、自分の子育ての中の経験から「ふと、可愛い」と思ったしぐさや言葉を素直に書いている作品が多くあります。文章を書く、または作家というのはこの「ふと感じたこと」をこのブログに定着させることだということを教えてくれています。
★~私もこの夏野夏の作品を読んで、私の子供の小さいときはどなんしぐさやお話をしてたかということを思い出して書いたのがこの作品になります。もし私が夏の作品を読んでいなかったら私もこんな可愛い文章なんてものは一生涯書けなかった。
★~またこの作品を読んだ人が、「そうやねん、私もそんな可愛い経験」があると思い出していただけたらこれも楽しいものです。そしてこのように人様に読んでいただく作品として投稿していただければまたブログ作家が一人誕生したことになります。もしここに作品を掲載したい人がいましたらメールで作品を送ってください。そしてペンネームを決めてください。これは検索されますからなるべく真剣に考えてほしいものです。私が「そうだ!作家になろう」と思って最初にしたことはこのペンネームを考えたことです。(音川伊奈利)





働く女性たち 「バカナスの女 紫乃」駆け込み寺居酒屋ポン吉 60話 バカナス イヌホオズキ 音川伊奈利

2022-08-11 12:02:40 | 日記
働く女性たち 「バカナスの女 紫乃」駆け込み寺居酒屋ポン吉 60話 バカナス イヌホオズキ 音川伊奈利

 JR西大路駅近くで「駆け込み寺居酒屋ポン吉」を経営するマスターの音吉は近くでワンルームマンションの第一初音ハイツの経営をもしていた。このマンションは別名「駆け込みハイツ」とも呼ばれて理由あり女性の隠れ部屋として全国から問い合わせが絶えなかった。

 この問い合わせの方法は音吉が開設しているブログの掲示板に全国の悩める女性からの相談から始まるが、この相談へのアドバイスはやはり女性がいいと店のママの幸子とこの駆け込みハイツを卒業した女性ら数名が相談を聞いていた。この店のママの幸子も10年前にこの掲示板に何かと相談をして福岡市からバック一つで京都に逃げてきたのをきっかけに音吉の店を手伝いやがて雇われママとして活躍していた。

 音吉のマンションは4階建て16室で家賃は格安で入居時の保証金も保証人も0円で家電もすべて完備で就職が決まるまでは音吉の店で働いていた。そして自立すれば部屋を出ることになるが、未だに出戻りは一人もいないのが幸子の自慢だった。さらにここから自立した女性のすべてが自分の経験を活かして新たな掲示板の相談者の一人となり全国の悩める女性の相談を積極的にしていた。

 音吉は103号室の藤川紫乃が自立して部屋を出るというので部屋を見に行った。紫乃は部屋は綺麗に使われているのでメンテナンスの必要はなく家電や寝具まで置いていくというからまた次の住民はバック一つで入居できる。そしてベランダを見ると鉢植えの植木が5個ほどあった。
 音吉は、
「この植木は何という名前ですか?それもすべて同じ種類に見えるが?」
「はい、これはイヌホオズキという雑草ですが、私はこの雑草が好きで育てています」
「そうですか、それですべて持っていかれるのですね」
「あの〜次の入居の人に育てて貰えないかと思っています」
「そうですか…で、失礼だが、なんでこんな雑草を…」

 紫乃は鳥取市の生まれで京都の大学を卒業して大阪の一流アパレルメーカーに就職していたが、この会社の5年先輩で鳥取市出身の社員と恋愛して結婚したが、結婚一年後に彼の父親が亡くなり家業の和菓子白兎屋を継ぐために夫婦で鳥取市に帰っていた。旦那の母親とは反りが合わず紫乃の料理、洗濯、家事などすることのすべてに難癖を付けていた。その姑の口癖が、
「紫乃さん、あなたはそこらに生えている雑草のバカナスと同じで役立たずです。なにも和菓子作りを手伝えとは言っていないので、せめて家事ぐらいは白兎屋の嫁に相応しいことをしてほしい」

 これを聞いていた旦那も極度なマザコンで姑と同じように紫乃をバカにして小さな口喧嘩でもバカナスが…というようになっていた。やがて3年が過ぎても紫乃は妊娠せず姑からはさらに白兎屋の嫁としても女としても役立たずのバカナスと口汚く罵られていた。
 こんな時に駆け込み寺居酒屋ポン吉の掲示板を発見してママの幸子やそのメンバーに相談をしていた。
 幸子は、
「紫乃さんの父母とも相談をして弁護士さんに離婚をお願いしたら」のアドバイスをしていたが、
紫乃は、
「私の両親は旧家でそれはそれは古い考えで嫁に行けばその家に染まるのが当たり前で子供を授かるまでは辛抱するのが当然」
と離婚を許さなかった。そこで紫乃がまだ子供がいないことから家を出てこの駆け込み寺居酒屋に逃げて来た経緯があった。

 京都にバック一つで来た紫乃は音吉の店でアルバイトをしていたが、年は35歳と若くはないが色白美人で背がスラリと高い紫乃はすぐに人気者になっていた。ものの一ヶ月もしない内に西大路駅前に本社があるランジェリーメーカーのフラワーの人事部長が客として店に飲みに来ていたが、その部長は紫乃が京都市芸術大学卒業で大阪のアパレルメーカーに5年在籍していたことを知り、我社へと誘ってくれた。そして半年後には正社員となり、3年目には東京支社に出向となっていた。そこまでは音吉も把握していたが、
「その、紫乃さんとそのイヌホオズキとの関係は?」
「はい、私も3年間もバカナスと言われ続けたが、そのバカナスという雑草を知りませんでした。そこでスマホで検索するとイヌホオズキの別名でこの雑草の花は貧弱で実は光沢のない品のない物、その上、根から葉まで毒があり鳥も小動物も食べないことから花言葉でも「役立たず」「嘘つき」となったと書いてありました。

 音吉は、
「ほう、この雑草がバカナスでしたか?…それでなぜ?この花がここに五鉢も?」
「ここに引っ越しをした日にそこの公園で高さ15㌢ほどの黒い実が付いたバカナスを偶然発見したのですが、なぜか愛おしくなって100均でスコップや植木鉢などを揃えて公園から移植したのがこの一番大きいバカナスになります、その後、種が落ちて芽が出たのか4鉢になります」
「なるほど…それで東京へは連れて行けないのでどうしたらの相談ですか?」
「はい、幸子ママも音吉さんに相談すればなんとかしてくれると…言われて」

 そうですか、それなら一番大きなバカナスは私のベランダで他の植木もありますから引き取ります。残りの4鉢はこのマンションの花壇に私が直に植え替えします。紫乃さんが本社に戻って来られたり、良い人を見つけて庭付き戸建ての家を建てればまたお持ち帰りして下さい。

 音吉はこれで話は終わったと持って帰るバカナスの鉢を持ち上げて玄関ドアから出ると紫乃が大きな紙包みを持っているので…?音吉は、
「うん…何か?」
「はい、幸子ママに音吉さんにお礼をしたいので何が良いかと相談したら、音吉さんには赤ワインを持って音吉さんの部屋になにかの口実を探して部屋に行くのが音吉さんへの最大のお礼になるとアドバイスされて…はい、ここに冷えた赤ワインが2本と私が朝から作った手料理もあります。それに私も音吉さんと一緒に飲みたいで〜す」

 そこに幸子ママから電話があった、
「もしもし、音吉どん、もう何回も同じことを言っているが、もう一度言います。女に恥をかかしたら地獄に堕ちます」
だけを言って切れた。
 音吉は心の中でまた、幸子にハメられたと思ったが、紫乃には恥をかかせないので一緒に歩いて音吉のマンションでワインを飲むことになった。

 音吉は紫乃に何に乾杯しますか?
「はい、今日は音吉さんに二つの良い報告があります。その一つは、鳥取の嫁入り先の白兎屋がこのコロナ禍でお土産として有名な「白兎最中」が売れずに会社は倒産、それに藤川家は自己破産したのですが、そのショックで姑が亡くなったそうです。それを知った私の父母は弁護士さんに相談して私の離婚を申し入れましたが、旦那はそれを了承して家庭裁判所で離婚が認められました」
「あ〜そうでしたか…倒産と自己破産のドタバタを利用したのですね」
「はい、それに私の嫁入り道具のすべてを自己破産前に回収して実家の私の部屋にあるからすぐ戻ってこいと毎日矢の催促です」
「それは目出度い…それでもう一つは?」
「はい、これが東京出向のチャンスになったのですが、私が企画したランジェリーのデザインが社内のコンペで優勝してそれが商品化されるのでその企画宣伝の責任者となり東京へ行くのです」
「ほう、それはいい…で、どんなランジェリーです?」
「はい、それは後で私がシャワーを浴びてからご披露いたします」
「ほう、ここで着るのですか?」
「はい、私がこうして自立できてこの駆け込みハイツを卒業出来るのはすべて音吉さんのお陰です。それで幸子ママにお礼の相談をしたところこうなったのです」
「それね~私は紫乃さんどころか誰にもお礼を要求したことがないが、いつもママが勝手に…」

 紫乃は少し顔を赤らめながら、私は処女で旦那と結婚したが、旦那とのセックスはやはりマザコンで私に何かと要求してすぐに果てます。小説や映画のような愛撫のシーンはまったく経験がなくて私もこれでは妊娠なんかしないはと思っていました。それを幸子ママに打ち明けるとママは、
「男と女のセックスはそれはそれは良いもので私の若い頃は夜が来るのが待ち遠しいかった。但し、これは相性が合ってこそ、私と音吉さんとはこれの相性がピッタリなんよ!」
 これを聞いていた紫乃は、
「ママ〜羨ましい〜私もそんな体験をしたい…」
 するとママはそれなら紫乃さんがこの駆け込みハイツを卒業する記念に音吉さんを一晩だけ貸してあげると言われましたと紫乃は涙声の振りをして音吉に訴えていた。

 音吉もそれを先のママからの電話で悟り心と体の準備をしていた。やがてワインが1本空いた所で紫乃がシャワーを浴びたいというのでバスタオルを手渡して待っていた。
 紫乃はその社内コンペで優勝したというランジェリーのキャミソール姿で現れた。それは透け透けのレースで淡紫で柄はどっかで見た葉っぱで葉脈は紫色で浮き上っているようにも見えるが、それはそれは高貴な色かつ気品があった。
 音吉は、
「紫乃さん、その柄の葉っぱはひょっとしてあのバカナスの柄ですか?」
「はい、音吉さん、大正解です。まぁ〜バカナスというよりナス科の葉っぱです。アダムとイブの前を隠すイチジクの葉っぱをヒントに神秘的に仕上げました」

 紫乃はランジェリーのファッションショーのようなポーズで音吉の前を歩いている。そしてキャミソールをポトリと下に落とすとブラもショーツも同じ柄でそのバカナスの葉っぱは紫乃の大事な所を見えるか見えない微妙な透け具合でまるで男を誘っているようなデザインに音吉も興奮して紫乃を抱き寄せ優しいキスをしていた。
 抱き合ったままの二人はベッドの上にいたが、もう紫乃の身体は紫乃のまだ知らない未知の快感を待つように全身が性感帯になり音吉の愛撫を受け入れる体制になっていた。
       (続くかも?)