大澤朝子の社労士事務所便り

山登りと江戸芸能を愛する女性社労士が、
労使トラブル、人事・労務問題の現場を本音で語ります。

◆自社の信念を貫かん。退職金制度

2017年05月29日 14時44分49秒 | 退職金
★“帯に短し襷に長し”でも、導入する場合は自社の信念を貫け

■退職金の目的とは
退職金制度は、中・長期勤務に報いる功労褒賞的な役割と、第2義的には老後の生活保障補完の
側面も兼ね備えている。しかし、会社貢献度は「給与」や「賞与」で既に反映させているし、
老後の生活保障の側面は、厚生年金保険の保険料を会社が半額負担していることから、
十分に老後の生活保障に貢献しているといえる。
年功序列制や終身雇用制が崩壊して久しい今日、この上、何に対して支払うのか。
つまるところ、退職金を支払う理由は「人材の確保」のための1点に絞られるだろう。
退職金制度があるのは日本だけだが、社会一般通念上、日本独自の伝統は守らざるを得ない。
退職金には従業員の短期的退職を防ぐ効果があるし、企業運営にはそれなりの「人材」が必要であり、
他社との競合の中で労働条件の優位性を持つことは必要不可欠ともいえる。
従って、企業経営に必要な一定の「人材」を中・長期的に確保するために「退職金制度」を持つことが、
今日では退職金の効果ということができる。

■退職金制度を作るときは難しい
退職金制度を作るときは、難しい。退職金には制度(選択肢)がたくさんあるからだ。

①自社積み立て
②中小企業退職金共済の利用
③特定退職金共済の利用
④生命保険の利用
⑤確定給付企業年金の利用
⑥確定拠出年金の利用

退職金制度を作る又は見直すときには、その支給水準の見極め
の問題の他に、根源的に難しい問題がある。

現在、退職金の自社積み立てには損金算入が認められていない。

従って、基本的には自社積み立てという選択肢はないといってよい。
そのため、企業規模等により、掛金や積立金が損金となる上の②~⑥の各制度を使うことになる。
しかも、各制度を全て熟知していないと、それぞれ欠点と利点があるため、
素人が手を出して失敗しているケースがある(しかし、退職金は長いスパンなので、
失敗しているかどうかは誰にも分からない。よほどの専門家でない限り。)

しかし、人材確保の点から、退職制度導入から避けて通れないとすれば、
どの制度を使うにしろ、各制度の利点・欠点をよく勉強して熟考してほしい。
決して金融機関等の「言いなり」に導入したり、「おすすめ」だけの情報を頼りに導入すべからず。

「宣伝」に惑わされず、自社の信念に基づいた制度設計を心掛けるべきでしょう。
そして、「上を見ない」。

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◆退職金制度? あ、うちの総務部長に作らせるから

2014年02月05日 10時51分31秒 | 退職金
本日は、退職金のお話です。

今から10年以上も前になるでしょうか。

終身雇用制、年功序列時代の「遺産」である「基本給連動方式」の退職金をご存知でしょうか。

基本給連動方式といいますのは、最終基本給に勤続年数に応じた乗率を掛けて支給する退職金のことで、
最終基本給が基準となりますので、中小企業でも、結構な金額になったりするものです。

当時よく聞いた噂は、退職金制度を作った総務部長本人が定年退職を迎え、
自分はたっぷりの退職金をもらって退職していった。
後に残ったのは、すかすかになった会社の預金通帳。
次の退職者に払おうとしたら1円もなかった、というようなもの。

中小企業が「退職金破綻した」などという物騒な噂があちこちで聞こえていた頃がありました。

当時、低金利の影響で、適格退職年金廃止の問題が沸き起こっていました。
「退職金」にまつわる書籍も多数出版されました。
最も気に入った本では『小さな会社の退職金の払い方』(北見昌朗、大平吉朗共著)
がありましたが、「退職金倒産に脅える全国の社長さん必読!」なんていう帯が付いていました。

さて、会計処理上、退職金を社内準備(積み立て)しても、損金算入されません。
ですので、中退共、特退共、養老保険(損金算入は2分の1)、上乗せ年金制度等で退職金準備を
するのが「常識」なのですが、そんな難しい? 問題はともかく、

経営者さんと退職金の話をしていて、感じるのは、経営者の意識は昔と
ちっとも変っていないということ。まず、危機感がないです。

制度に対する認識もそうですが、退職金を取り巻く諸制度についてはあまりご存じない。
また、退職金制度を新たに作りたい、と考えている経営者の方も、所詮、自社内で
処理できる(専門家にお金を払ってまで作りたくない)という意識が結構あります。

それはそれで個人の自由なので、他人がとやかく言う必要はありません。

少なくとも、退職金制度を作るということは、労働契約上、従業員に約束することですし、
また、額も多額なものになりますので、多方面から検討する必要があると
申し上げたいだけです。

どうも、経営者の意識に「退職金債務」を負う「覚悟」が足りないように思われます。

「退職金制度? あ、うちの総務部長に作らせるから」。

自社の社員のみに任せて作った退職金制度の場合は、
前述の話ではないですが、

・「退職金破綻」の危険がないか
・世間相場からかけ離れていないか
・自社の実力に合っているのか

ぐらいは、少なくとも、経営者ご自身の目でしっかりとチェックしたいものです。

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◆確定拠出と損金算入で決める退職金準備

2013年11月11日 18時57分37秒 | 退職金
低金利時代に突入した一時、退職金制度を廃止する動きが
盛んでしたが、近頃は、優秀な人材を確保するために、
退職金制度を新たに導入する企業も増えてきました。

企業が退職金制度を導入する際に重要な点は、
支給水準などの「制度設計」ですが、それと同じくらいに
重要なものに「資金をどのように準備するか」があります。

現在、企業が従業員のために「退職準備金」を社内で積み立てようと
しても(「退職引当金」)、損金算入は認められません。

従って、どのように退職金資金を準備するか(積み立てるか)を検討する
際には、できるだけ「損金算入」できる方法で準備するのが得策と
いえましょう。

この低金利時代に制度廃止が決まった厚生年金基金(優良基金除く)
や先年の「適格退職年金」廃止のように、「給付額をあらかじめ決める」ことの
「リスク」も、ある意味、肝に銘じるべきでしょう。

さて、退職金準備として、現在ある制度を挙げると、
① 確定給付企業年金(DB)
② 確定拠出企業年金(401k)
③ 特定退職金共済
④ 中小企業退職金共済
⑤ 厚生年金基金(廃止。優良基金は除く。)
⑥ 養老保険等

などとなります。
①と②はどちらかというと大企業向け、
③と④は、中小企業向け、
⑥は大企業でも中小企業でもどちらでもOK、といえます。

選択する際の判断基準について述べてみましょう。

最も重要なのは、「確定給付」か「確定拠出」かの選択です。
確定給付とは、あらかじめ給付額を確定するもの。
確定拠出とは、あらかじめ拠出金額を確定するものです。

あらかじめ給付額を確定するとは、運用結果により給付額(退職金額)
に不足金が出た場合は、企業が埋めなければならないということです。
反対に確定拠出の方は、確定するのは拠出金額だけですから、
企業は運用結果の給付額(退職金額)に責任が生じません。
資金に余裕のない中小企業は、確定拠出型が無難と申せましょう。

上記①~⑥を大雑把に分類すれば、
確定給付型は、①、⑤
確定拠出型は、②、③、④
などとなります。⑥は生命保険商品です。
ただし、①はキャッシュバランス・プランという確定給付型と
確定拠出型両方の機能を持った制度を選択することもできます。

「損金算入」の観点から見た場合、
①~⑤は、従業員のために掛けた拠出金は、全額損金算入できます。
しかし、⑥の養老保険の保険料は、2分の1が損金算入です。

従業員が退職金を受け取った場合の税制上の措置は、
①、②、⑤を年金として受け取る場合は公的年金等控除、一時金として
受け取る場合は退職所得。
③、④、⑥は退職所得(分割で受け取る場合は公的年金等控除)
の取り扱いになります。

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