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村上春樹の文学

2010-05-10 15:58:30 | 村上春樹の世界観
こんにちは、テツせんです。
朝から黄砂の雨が降っていて、花菖蒲やつつじの花を濡らしています。
みなさんのところはいかがでしょうか?

じつは、すこし前に『1Q84』のBOOK3を読み終えていました。
これなら、書かないほうがまだしもよかったのでは? というのが正直な感想なんですが、
ここまで読んだ以上は、寸止めなしでケリをつけるのが礼儀かなと思い直して、
最後まで付き合うことにしました。

いきなりですが、この作品を総括すると、
“ 作者村上が文学の現代風な壁にとりついて登ったものの、
結局それは時代の本質的な壁とはちがっていた”という、落ちのついた人騒がせな物語だったといえます。

その内容たるや、「更に深く、森の奥へ。」などという思わせぶりなキャッチコピーとは裏腹に、
「とてもロマンチック」(タマル)で、スリリングで、めでたい幕切れでありました。
ただもう、「つくりものの世界」にいかにしてリアリティをもたせるかという一点に注力された、
ラヴ・サスペンス・エンタテイメントとでもいう仕上がりになっていました。

たとえば、
「ここにいることは私自身の主体的な意思でもあるのだ。」などと、
不似合いで唐突な概念をもちだしてみたり、
「リインカネーション」(輪廻)という言葉をひっぱりだしてきて、
そこに何か意味あり気な風をよそおってみたり、
あるいは「タマル」などという聖書の人物名を使ってみたりと、
いたるところに布石をおいているように見えはすれども、
そこには深くも浅くも掘りおこしてみても、結局何も出てこないのがこの作品の実相といえる。
そこには、
登るべき「時代の本質的な壁」を見失った、ただのストーリーテラーたる村上春樹がいるだけである。

最終章では、まるで火曜サスペンスのネタばらしのようなぐあいに、
『1Q84年』の世界の『出口』を見つけてハッピーエンドとする。・・・

しかし、ふたりの主人公が背負わされている《欠落》というものが、
肉体的な情交だけで充足させられるならば、それこそただの絵空事の世界になるのだが?・・・

そして(青豆)はとうとう最後の場面でも、『祈りの言葉』におのれを託すことになる。・・・
- 「天上のお方さま。
あなたの御名がどこまでも清められ、あなたの王国が私たちにもたらされますように。
私たちの多くの罪をお許しください。私たちのささやかな歩みにあなたの祝福をお与え下さい。アーメン。」-

まあどなたにとっても、この文句ほど都合のいいお願いもないわけだけど、
作者もこれにあやかって(青豆)を罪から解放させようとする。めでたし、めでたし。
おもわせぶりなキイワードであぶなっかしい世界に連れだすふりをするけれど、
そこはなんということもない。・・ちょっと言ってみただけ、使ってみただけのこと。!
村上文学こそ、まことにめでたし・・・

-- いったい本当の文学とはどんなものなのか?・・・
すくなくともわたしたちにとってのあるべき文学とは、
わたしたち個々にとって普遍的な《生存の意味》や《本当の自由》の地平につらなるものであって、
ためにするスタイリッシュな教養主義、ましてや
発行部数を誇る出版マネジメントのうちにはないことは自明である。

『坂口安吾 -- 人と作品』の解説文のなかで磯田光一がつぎのように記している。

-『人間はどのようにして文学にかかわっているのであろうか。
また文学にとって最も原初的な領域とは、どのようなところにあるのだろうか。
安吾は童話「赤頭巾」ほか二つの作品をとりあげながら、文学世界のうちに次のようなものを見いだしている。

“ 生存の孤独とか、我々のふるさとというものは、このようにむごたらしく、救いのないものでありましょうか。
(中略)この暗黒の孤独には、どうしても救いがない。(中略) そうして最後に、
むごたらしいこと、救いがないということ、それだけが、唯一の救いなのですあります。
私は文学のふるさと、あるいは人間のふるさとを、ここに見ます。文学はここからはじまる-
- 私はそう思います。”

こういう文学観は、人によっては、あまりに暗すぎるものと見えるかもしれない。
しかし、人間とは結局のところ、孤独な存在なのではないだろうか。
どんな前向きな社会改革によっても救うことのできない部分が、人間の心のうちにはある、
と気づいたとき、そこから文学がはじまるといってさしつかえない。』・・・

作家はいつでも、時代と切り結んで、骨身を削ってたたかうことでしか、作家たりえない。
村上春樹には、肝心のそうした切羽つまった救いようのない『おのれ』が無いようにみえる。                                         (敬称略)
・・・・・・・・・・
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1 コメント

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たいへんおもしろく読ませていただきました (いわきはるお)
2011-09-18 19:40:13
どうもです。
ヒマをみてぽちぽちと先生の記事を読ませていたいております。
一連の村上文学の分析、とても参考になりました。
わたしはむつかしいことはわかりませんが、とくに村上春樹にはお手上げです。ですが、わたしの読んだ感じは、
内田樹という方が書かれた『村上春樹にご用心』のなかの一節そのまんまですね。
曰く。
「正直言って、とくに面白い小説ではなかった。毒にも薬にもならない、というと言い過ぎかもしれないが、村上春樹という人間性がまったくにじみ出していない小説だった。どうしてこれほど興味深い人物が、どうしてこれほど興味をかき立てられない小説を書かなくてはならないのだろうと、首をひねったことを記憶している。」

おっと、村上春樹のところ本家では「安原顕」となっていたのですが、
ま、いいや。w


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