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《注目の新刊》彭明敏  蔣介石と闘った台湾人

2021-05-31 11:03:57 | 特別記事

《注目の新刊》彭明敏
蔣介石と闘った台湾人

近藤伸二 著

白水社刊

定価2,750円(本体2,500円+税)


李登輝と同時代を生き、民主化運動のシンボルと言われた人物の波瀾万丈の人生を貴重な証言と史料で再現したノンフィクション。

「戦前、東京帝国大学で学んだ彭明敏は、日本の敗戦に伴って台湾に戻り、台北帝国大学を引き継いだ台湾大学に編入する。卒業後、同大学で研究者生活をスタートし、カナダとフランスへの留学も経て、若くして国際的に名の知れた法学者となった。そんな本省人(戦前からの台湾住民とその子孫)エリートを、蔣介石総統が率いる中国国民党(国民党)政権は重用した。権力に逆らわなければ、彭明敏は恐らく、李登輝より先に本省人として初の総統になっていただろう」
 彭明敏氏がいかに偉大な台湾人だったのか、著者の近藤伸二氏はプロローグの中でこう記した。昨年亡くなった李登輝元総統ならまだしも、彭明敏という名を知っている日本人は一体どれほどいるだろうか。よほどの台湾通でないと、おそらくほとんどいないに違いない。
 ちなみに李登輝氏と彭明敏氏は二人とも1923年生まれの友人同士だった。しかし、前者は後に中華民国総統に、そして後者は亡命者に。日本人の宗像隆幸氏(昨年7月死去)の協力で軟禁中の台北から変装してスウェーデンに逃れた話はあまりにも有名だ。まさにスパイ映画もどきではないか。
 そんな波乱万丈の人生を送った彭明敏氏に毎日新聞台北支局長だった近藤氏が注目した。一冊の本にまとめるべく、彭明敏氏にコンタクトをとることに。その紹介役となったのが、私の友人でもある大阪日台交流協会会長の野口一さんだった。彭氏がもっとも信頼を寄せている日本人の一人である。
 野口さんとは数年前、一緒に台湾に行ったのが縁で交流が続いている。昨年3月、アメリカから毒物の世界的権威で本ブログにも再三登場するアンソニー・トゥー(台湾名=杜祖健、この人も野口さんの紹介である)博士が来日したときには、大阪から上京した野口さんが白井の拙宅にも。
 近藤氏の数回にわたった彭氏へのインタビューには、野口さんも同行した。野口さんが彭明敏氏のことを熱く語る。
「本当に台湾を守った人です。この人がいなければ、今の台湾はなかったでしょう。アメリカが台湾関係法をつくったのも、彭さんが働きかけたおかげです。建国でも独立でもない。まさに台湾『肇国(ちょうこく)』の人ですよ」
 肇国とは、新しく国家をたてることである。彭明敏氏なくして台湾現代史を語ることはできない。本書は貴重な歴史的資料でもある。彭明敏氏は今も台北で健在だ。何はともあれ、ぜひ一読をお勧めしたい。(本ブログ編集人・山本徳造)
 

[目次]
プロローグ

第一章 独裁政権に挑んだ闘い
一.日本で教育を受ける
(一)裕福な家庭で育つ/(二)京都・三高から東京帝大へ /(三)過酷な戦争体験
二.将来を嘱望されたエリート
(一)台湾大学で学ぶ/(二)研究者として名を上げる/(三)蔣介石の知遇を得る 
三.蔣介石の神話を打ち崩す
(一)自宅で政治問題を議論/(二)拡大する矛盾/(三)謝聡敏、魏廷朝との出会い 
四.「自救宣言」を作成
(一)教え子と一緒に起草/(二)英知を結集した文章/(三)日本人外交官との対話 
五.あと一歩のところで逮捕
(一)始まった「現実の一戦」/(二)踏み込まれた現場/(三)密告を奨励する制度

第二章 抑圧と絶望に耐えて
一.政治犯としての獄中生活
(一)厳しい取り調べ/(二)疑われた背後の組織/(三)海外からの圧力 
二.軍事法廷での判決
(一)国民党による再教育/(二)たった二回のスピード裁判/(三)特赦で釈放 
三.明日なき自宅軟禁の日々
(一)監視と尾行/(二)アメとムチの手法/(三)司法行政部調査局に担当替え
四.迫る「抹殺」の危機
(一)送り込まれたスパイ/(二)本性を現した調査局/(三)拒否された出国申請

第三章 自由への逃避
一.命懸けの脱出計画
(一)海外逃亡を決意/(二)合法的出国の望みが絶たれる/(三)日本パスポート所持者になりすます 
二.日本の支援者たち
(一)苦心の末の割印作り/(二)現れた格好の実行役/(三)特務の監視をかいくぐる準備を進める 
三.さらば祖国よ
(一)家族や友人との別れ/(二)Xデーを迎えて/(三)ついに果たした出国/(四)ようやく届いた「SUCCESS」の知らせ 
四.衝撃と余波
(一)地に落ちた国民党政権の権威/(二)暴露された宣言の内容/(三)台湾内では広まらず 
五.謝聡敏を救った日本人
(一)台湾で反国民党政権のビラをまく/(二)警備総司令部の取り調べ/(三)靴下に隠して手紙を持ち帰る

第四章 再び台湾の地で
一.独立運動の精神的指導者
(一)スウェーデンでの亡命生活/(二)「台湾関係法」制定に貢献/(三)台湾民主化の外堀を埋める 
二.二二年ぶりの帰国
(一)英雄の凱旋/(二)民進党の総統候補に/(三)総統選挙で二位につける 
三.李登輝との友情と生き方の違い
(一)台湾大学時代からの親友/(二)米国から支援/(三)二人が歩んだ対照的な人生/(四)しがらみを乗り越えて 
四.見果てぬ夢
(一)初の政権交代/(二)蔡英文政権との距離/(三)台湾独立への思い

あとがき

 

近藤伸二(こんどう・しんじ)さんの略歴
1956年神戸市生まれ。1979年神戸大学経済学部卒業、毎日新聞社入社。香港支局長、台北支局長、大阪本社経済部長、論説副委員長などを歴任。1994~1995年、香港中文大学に留学。2014年追手門学院大学経済学部教授、2017年同大学オーストラリア・アジア研究所長兼任。著書に『米中台 現代三国志』(勉誠出版、2017年)、『交錯する台湾認識――見え隠れする「国家」と「人々」』(共著、勉誠出版、2016年)、『アジア実力派企業のカリスマ創業者』(中公新書ラクレ、2012年)、『反中vs.親中の台湾』(光文社新書、2008年)、『続・台湾新世代――現実主義と楽観主義』(凱風社、2005年)、『台湾新世代――脱中国化の行方』(凱風社、2003年)など。


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