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寸借詐欺師と疑われて 【連載】呑んで喰って、また呑んで(71)

2020-11-12 06:57:54 | 【連載】呑んで喰って、また呑んで

【連載】呑んで喰って、また呑んで(71

寸借詐欺師と疑われて

●タイ/ウボン・ラチャターニー

山本徳造 (本ブログ編集人)  

 

 

 そうだ。前回はラオスのシーパンドンでのノンビリした日々を綴ったが、その後日談を記さなければならない。心の洗濯を終えてバンコクに戻る日がやって来た。まずはパクセに出て、タイ行きの国際バスに乗車した。目的地はラオス国境を越えたタイの街、ウボン・ラチャターニー(以下=ウボン)である。料金は確か1000円ぐらいだった。
 さあ、出発だ。時刻は午後3時を超えていた。バスは日本側の援助でつくられた「日本大橋」渡って、1時間少しでラオス側のイミグレーションに到着。バスを降りて、出国手続きだ。それが終わると、しばらく歩いてタイ側の入国手続きへ。そんな入出国の手続きを終えるのに1時間以上もかかった。
 タイの現金を持ち合わせていなかったのでクレジットカードで現金を引き出そうと、ATMを探すが、見当たらない。「ウボンに着いてからでもいいか」と思って、再び同じバスに乗り込む。
 それにしても、腹が減る。ウボンに着いたらすぐに美味しいタイ料理を味わいたい。そう思うと、余計に腹が減ってきた。私の一つ前の座席に日本人らしき若者が座っていたので、声をかける。やはり日本人だった。話を聞くと大学を1年前に卒業したばかりで、就職した会社の休暇を利用して一人で東南アジアを旅しているという。
 私はウボンに一泊してバンコクに戻ることにしていたが、ホテルは予約していなかった。その若者もウボンに泊まるらしい。
「で、ホテルは決まってるの?」
「ええ、ネットで予約しました」
 バスがウボンに到着したとき、もうすっかり日が暮れていた。これからホテルを探すのも面倒である。それに空腹も限界だった。そんなわけで、若者のホテルに着いていくことにした。一泊1000円ちょっとの清潔そうなホテルだったので、そのホテルに決める。しかし、私がクレジットカードで支払おうとすると、フロントの女性が、
「クレジットカードは受け付けないのです。現金でお願いします」
 と言うではないか。
 もう空腹で倒れそうである。隣に立っている若者に、
「これからATMに行くのも面倒だから、お金を貸してくれない?」
「はー、いいですよ」
 そう答えた若者の顔は引きつっていた。
 こうして無事にチェックイン。部屋に荷物を置いて、さあ、これから晩飯だ。若者と一緒に近くの屋台街に繰り出した。テーブルに座って、とりあえず空芯菜の炒め物と川海老の唐揚げを注文する。もちろん、屋台だからクレジットカードなんて使えない。
「ほんと悪いね」と私は神妙な顔で若者に詫びた。「明日の朝、お金を返すから、この晩飯も立て替えてね」
「は、はい、いいですけど……」
 心なしか若者の声に元気がない。
 せっかくの晩飯である。そう、ビールも注文しよう!
「ビール、呑むよね!?」
「はい」
 若者の表情が完全に曇っていた。
 最後はカオパッ(炒飯)で締めくくる。うん、満足、満足。
 そして翌朝を迎えた。
 ホテル近くのATMでクレジットカードを使ってタイ・バーツを2万円ほど引き出す。若者に返そうと、急いでホテルに戻り、フロントで若者の部屋に電話をつないでもらおうとしたところ、意外な返事が。
「あの日本人なら、今朝早くチェックアウトしましたよ」
「えーっ!」
 何でも6時ごろに慌ててホテルから立ち去ったという。どうやら、私のことを胡散臭い男と思ったようである。
(ホテル代もビール付きのメシ代も立て替えたが、翌日も何かと理由をつけてカネをせびるかも。寸借詐欺師に間違いない! それならまだましだ。ヤクザ関係の人物だったらヤバイぞ!)
 突然消えた若者の心理を私は想像した。部屋に戻って鏡で顔を見た。自分で言うのもなんだが、どう見ても上品なナイスミドルである。そんな私が寸借詐欺師やヤクザに見えるだろうか。疑問とともに怒りが込み上げてきた。
 ホテル代と夕食代は全部で3000円ほどだったが、借りは借りだ。いかんせん、すぐに返すつもりだったので、若者の名前も連絡先も聞いていない。彼には申し訳ないことをしてしまった。あの出来事を振り返ると、反省することしきりである。


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