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回教国で味わう中華料理 【連載】呑んで喰って、また呑んで⑨

2019-08-28 08:27:50 | 【連載】呑んで喰って、また呑んで

【連載】呑んで喰って、また呑んで⑨

回教国で味わう中華料理

●パキスタン・ペシャワール

山本徳造 (本ブログ編集人) 

 

 

 

 ソ連軍がアフガニスタンに侵攻して数カ月後のことである。カメラマンのT氏と私はバンコクからパキスタンのペシャワールに向かった。アフガニスタンに潜入するためである。アフガン国境の街なので、ソ連軍と闘うムジャヒディン(「自由戦士」と呼ばれるゲリラ組織)各派のアジトも、ここペシャワールに置かれていた。
 私たちはムジャヒディン各派の中でも一番大きな組織と接触した。彼らと一緒にアフガンに入るためである。まずは彼らの信頼を得ることだ。それには一緒に飯を喰うのが手っ取り早い。こうして毎日、昼飯前になると、いい匂いが立ち込めるアジトにひょいと顔を出す。絨毯が敷かれた床にゲリラたちと車座になって座る。すでに真ん中には羊肉料理の大皿が。それをナンと一緒に手づかみで喰うのだ。美味い! 
 ビールを呑みたいところだが、パキスタンは回教国である。アルコールはご法度だ。チャイで口を潤すしかない。連日のアジト通いが功を奏したのか、ゲリラたちとも仲良くなったものである。中にはホテルの部屋をふらりとやって来て、
「マネー、欲しい」
 と金品をねだる奴も。けっ、誰がやるか!
「帰れ、帰れ」
 さて、夕刻になると、楽しみが始まる。部屋でバンコクから持ってきたウイスキーをチビリチビリとやるのだ。少しいい気持になった頃を見計らってホテルの前で馬車を捕まえる。そう、当時のペシャワールにはタクシーが走っていなかった。二人乗りの馬車しかない。馬車から歩道を見ると、ヒジャブを被った女がちらほら。ヒジャブとは、ムスリム女性が被る布で、目だけが開いている。まるでアラビアンナイトの世界か、少なくても百年はタイムスリップしたような気持ちになってしまう。
 さてと、馬車の目的地は「香港」である。油ギトギトの現地の料理に飽き飽きしてきたとき、ホテルのフロントマンに教えてもらった店で、街でたった一軒の中華料理屋だ。20分ほど馬車に揺られると、「香港」に着く。いつも焼売から注文することにしている。それから肉料理を中心に3皿ほど食した。悲しいことに、ここでもビールは呑めない。ひたすら食べるのみである。
 最初にこの店を訪れたとき、隣のテーブルに超デブが座っていた。150キロは優に超えているだろう。よく見ると、アルゼンチンから来た高名なジャーナリストだった。
「まだアフガンには行かないの?」
「うーん、まだ」と口を濁す。「ま、とりあえず明日はカイバル峠まで行く予定だ」
 そう答えるなり、大盛りの焼きそばをフォークでくるりと器用に巻いて口に運んだ。そのスピードたるや驚くほど速い。あっという間に一皿平らげた。前もって予約していたのか、次の一皿が。なんと同じ焼きそばだ。これも、ものの2分も経たないうちに片付ける。何という胃袋だ。
 しかし、驚くのはまだ早い。なんと3皿目の焼きそばが運ばれてくるではないか。こいつはバカか。まさか中華料理は焼きそばだけだと思っているのではないだろうな。
「そんなに美味いか?」
 と私が彼の顔を覗き込む。
「君、ここの焼きそばを食べたことがないのか」とデブ、いや高名なジャーナリストが怪訝そうな表情を浮かべた。「私はいろんな国を回ってきたが、ここの焼きそばが世界で一番美味い!」
 やっぱり、こいつはバカだ。
 さて、中華料理に豚肉は欠かせない。もう一度言う。パキスタンは回教国である。つまり、アルコールだけではなく、豚肉もご法度なので、この国の中華料理には豚肉が一切使われない。早い話が、「中華料理もどき」なのだ。代わりに使われるのが羊肉である。が、「中華料理もどき」に慣れると、「別に豚肉がなくてもいいか」と思ってしまう。「郷に入れば郷に従え」である。今思うと、私が毎週のように羊肉を食するようになったのは、このペシャワールでの体験が影響しているのかも。

 


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