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800年前のパワースポット ~熊野本宮大社

2017年04月15日 | お寺・神社・特別公開

熊野本宮大社

 

熊野本宮大社は、紀伊半島の先端部に近いところにあるがゆえに、訪れるには難儀な地である。2017年時点でも高速道路は通っておらず、訪問の拠点となる新宮までは、JR在来線特急で新大阪駅から4時間、名古屋駅から3時間30分を要する。

 

そんな難儀な地も2004年に世界遺産に指定されると、わざわざ訪れる価値のあるスポットに変貌を遂げていく。人手の入る開発から縁遠かったこともあり、人の往来の多かったいにしえの参拝道の風情から全く変わっていない印象を与える。森の空気のイオンも中世と全く変わっていないと感じさせる。

 

新宮より大阪に近い田辺を拠点に、紀伊半島の深い山を横切って熊野本宮大社に入り、太平洋岸の新宮に抜ける中辺路(なかへじ)と呼ばれる熊野古道を歩いて踏破する人も少なくないという。そんな人の中にはここでも外国人が目立つ。

 

2005年に田辺市の官民共同の観光プロモーション団体がカナダ人のブラッド・トウル氏を採用。旅館の指差し会話ツールや地図の英語表記の統一といった、外国人にとっての基本的なコミュニケーション環境作りから始めた。また熊野古道を、エルサレム/バチカンと並ぶキリスト教三大巡礼地のひとつで同じく世界遺産であるスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼道と同様の道とPRし、世界遺産への関心が強い欧米を中心とした外国人観光客をうまく取り込んだ。

 

この田辺市の取り組みは、外国人観光客を誘致した成功例として観光業界では著名で、JR田辺駅に隣接する観光センターはパンフレットやスタッフの案内が充実しており、ぜひ訪ねてみる価値がある。

 

田辺市観光センター

 

熊野本宮大社は、新宮から車で40分、熊野川をさかのぼったところに鎮座する。道はほぼ100%熊野川に沿って走っており、雄大な水の流れとどこまでも奥深い木々の緑が目を飽きさせない。まさに聖地に近づいていることを実感させる圧巻のビューが続く。

 

この神社、明治22年に熊野川の洪水で社殿が流されるまで、熊野川の中州で巨大な鳥居がたっている「大斎原(おおゆのはら)」にあった。再建された現在地は洪水被害に備えやや高台にある。

 

熊野本宮大社 大斎原 大鳥居

 

 

本殿前の空間では赤い鳥を象った紋章が目に入る。神武天皇が日向の国から熊野を通って大和に遷都する際に道案内をしたとされる「八咫烏(やたがらす)」だ。神武天皇にゆかりのある和歌山県や奈良県の神社でよくみられ、サッカーの日本代表のエンブレムとしても採用されている。よく見ると鳥なのに三本足であり、神秘的に見えてしまう。

 

現本殿は、明治の大洪水を耐え抜いたものだけが移築されたもので、江戸時代後期の建築で重要文化財である。檜皮葺の屋根の茶色が借景の森の緑に映え、聖地としての品格を醸し出している。訪れた人の多くは会話を中断し、静かに神が鎮座する社と向き合っている。

 

熊野詣での最初のピークは平安末期~鎌倉初期にかけて、都の法皇や貴族によるものだ。田辺市がなぞらえたサンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼道も、偶然なのか日本の熊野詣と同じく12世紀にピークを迎えている。

 

当時は十字軍の時代でキリスト教徒がイスラム教徒への対抗心をあらわにしており、イベリア半島からイスラム勢力を駆逐しようとした「レコンキスタ」が徐々に優勢になったこともあり、信仰の正しさを実感すべく、スペインへの巡礼者が急増した。

 

スペインと日本、二つの巡礼道は800年以上の時を経た今も巡礼者が絶えず、人々に愛され続けている。迷いがあろうとなかろうと、訪れるときっと心が軽くなったと感じるパワースポットだろう。

 

 

日本や世界には、数多く「ここにしかない」名作がある。

「ここにしかない」名作に会いに行こう。

 

 

 

 世界各地の聖地巡礼に詳しい著者が、

熊野古道で体験できる「癒しとよみがえり」を女性の視点で興味深く解説

(説話社)

 

 

休館日 なし(例外が発生する可能性もあるので訪問前にご確認ください)

公式サイト http://www.hongutaisha.jp/

 

 


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