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兵庫県・香住・大乗寺 ~建物全部で応挙ワールドを空間体験

2018年08月21日 | お寺・神社・特別公開

兵庫県の香住は、城崎温泉から列車で鳥取方面へ30分ほどのところにある港町で、ズワイガニの水揚げが日本一です。港や駅からほど近いところにある大乗寺(だいじょうじ)は、円山応挙と弟子たちが描いた障壁画が165面も残されており、応挙ワールドを堪能できる一大空間になっています。

都から遠く離れた香住になぜこれほどの作品をのこしたのでしょうか。とても深い背景がありそうです。


石垣で囲まれ、境内は立派

大乗寺は奈良時代に行基が開いたという伝承がありますが、永らく荒廃していたようです。本格的に中興されたのは江戸時代半ばになってからです。中興の祖となった密蔵(みつぞう)が京都を訪れた際、若き日の応挙に学資を援助し、応挙はその恩を一緒忘れなかったというエピソードが伝えられています。この恩返しのために大乗寺の襖絵を描いたというのですが、これを裏付けるような記録は見つかっていません。

大乗寺の障壁画制作には応挙一門の主力の弟子たち、呉春や長澤芦雪が参加しています。完成まで8年もかかったビッグプロジェクトです。製作が始まった1787(天明7)年は、円山応挙とその一門は京都画壇を席巻する人気絵師集団でした。都の中でもさばききれないほどの絵の制作依頼があったにもかかわらず、なぜ遠く離れた大乗寺の話を引き受けたのでしょうか。

応挙一門の障壁画が残る建物は客殿(きゃくでん)です。客殿とは文字通り来客を迎えるための建物で、通常は都を中心に高貴な来客がある大規模な寺にしか作られません。大乗寺の客殿にも高貴な来客を通す一段高い上座が設けられています。大乗寺の客殿は地方の寺の建物としてはかなり大きいことも目立ちます。165面もある障壁画は客殿のほぼすべての間を埋め尽くしています。

密蔵のエピソードが事実だとしても、恩返しだけでこれだけの仕事を引き受けたとは考えにくいと思えてなりません。

  • 単品の絵ではなく大規模な客殿の空間全体をプロデュースできるような機会は都でも多くない
  • 大乗寺の客殿の規模からして、応挙一門が平伏するような来客が想定され、大乗寺も都で一番の絵師集団に依頼するのがふさわしいと考えた

都で一番だった応挙一門が、粋に感じる背景があったと考えるのが自然です。


客殿の応挙像

現在障壁画の原本はすべて収蔵庫で保管されて、公開されていません。客殿内には完成時の姿を可能な限り再現したデジタル複製画がはめられており、空間として立体的に応挙ワールドを楽しむことができます。ガラスケースの中で単品の作品として一部の原本を鑑賞するのでは味わえない、空間としての鑑賞を可能にすることがデジタル複製画の大きな利点です。

大乗寺の公式サイト上には、襖をあけて部屋を歩きながら空間を鑑賞できるバーチャルミュージアムが用意されています。空間としての印象がとてもよくわかります。

【公式サイト】 円山派デジタルミュージアム

客殿の中央には仏間があり、平安時代作の重文・十一面観音が祀られています。この仏間を取り囲むように各部屋が宗教的な意味を持ったテーマで描かれていることが近年になって明らかになっています。

【公式サイトの画像】 山水図

仏間の北側「山水の間」は応挙が担当した天橋立などを思わせる「山水図」が描かれています。あたかも床の畳が水面となり、雄大な水の流れが隣接する庭へとつながっているように見えます。庭のあるのは北側で日本海がある方向です。見れば見るほど絵に引き込まれるようになります。空白部分が大きいだけに緻密に構図が計算されていると感じさせます。

この山水の間は十一面観音を守護する四天王のうち、広目天が立つ位置にあたります。広目天は文化・芸術をつかさどります。高貴な人が座る上段が設けられた部屋に、最も立体的に芸術を感じさせる構図を配置したのです。

【公式サイトの画像】 四季耕作図

他にも、呉春が担当した「農業の間」には生産をつかさどる持国天をイメージさせる「四季耕作図」が描かれています。子供が楽しそうに農作業にいそしんでおり、呉春らしい情緒的なやさしさを感じさせる描写です。

多聞天と増長天をイメージしたと考えられている部屋もあります。本尊を四天王が守護する構図が見事に表現されています。


客殿

香住の近くには、夢千代日記の舞台で知られる湯村温泉、鉄道ファンでなくても絶景スポットとして楽しめるJR山陰線の餘部(あまるべ)鉄橋などがあり、観光スポットには恵まれています。グルメもカニだけでなく、近年は但馬ビーフの産地としても注目を集めています。

応挙一門の作品をこれだけまとまった空間として鑑賞できるところは、南紀串本の無量寺とここ大乗寺くらいです。いずれも「行きにくい」ところですが、わざわざ出かける価値は充分にあります。

こんなところがあります。
ここにしかない「美」があります。



江戸時代の京都画壇が専門の京博館長が大乗寺の応挙作品を徹底分析


大乗寺
【公式サイト】http://www.daijyoji.or.jp/main/

原則休館日:法要等による臨時休館あり(公式サイトでご確認ください)
入館(拝観)受付時間:9:00~15:40

※靴を脱いで室内を見学します。床汚れ防止のため、裸足の場合は靴下を持参しましょう。



おすすめ交通機関:
JR山陰線「香住」駅下車、クルマで5分
JR大阪駅から城崎駅で在来線特急電車から普通列車に乗り換えた所要時間の目安:3時間30分以上
JR京都駅から城崎駅で在来線特急電車から普通列車に乗り換えた所要時間の目安:3時間10分以上

【公式サイト】 アクセス案内

※列車は本数が少ないため、事前にダイヤを確認の上、利用されることをおすすめします。
※現地付近のタクシー利用は事前予約をおすすめします。


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