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室町時代に伝わった都の最先端文化 ~医光寺(益田)

2016年12月29日 | お寺・神社・特別公開

医光寺庭園の案内文


益田市は、日本海側で東西に細長い島根県の西の端に位置する。近年は「石見神楽」への注目度が高いようで、私はまだ拝見していないが、ダイナミックな踊りと音楽で外国人観光客にも人気が高いと聞く。島根県は出雲大社があることから、やはり「神々が降臨する地」に関連するものは人々に知られやすい。

「神々」ではなく「仏様」に関するものになるが、益田市にはぜひ見ておきたいところがある。雪舟が作庭したと伝わる庭がある医光寺と萬福寺だ。

雪舟は、活躍した室町時代ではもとより、日本の絵画の歴史を通じておそらくもっとも有名な画家である。作品の中で国宝に指定されているものは6点。絵師が認定されている絵画の制作者としては、2番目に多い俵屋宗達と池大雅の各3点の2倍ある。それほど日本人にとってはスーパースターの画家なのだ。

雪舟は1420年に備中(岡山県)に生まれ、絵師を志して京都の相国寺に入り、足利将軍家の御用を務める最高クラスの禅僧画家であった周文に絵を学ぶ。しかし時の京都では1440年に6代将軍義教(よしのり)が暗殺され、足利将軍家の権威はかなり失墜していた。義政が8歳で8代将軍に就き、応仁の乱の足音が近づきつつあった1454年ごろ、有力な守護大名大内教弘(のりひろ)に招かれ、山口に居を移した。

京都の政情から絵師としての活躍の可能性に不安を感じたのか、幕府に代わって明との貿易に触手を伸ばしていた大内氏の庇護があれば明に渡海して絵を学べると考えたのか、様々な理由はあったであろう。しかし都のきな臭さが目立つ当時は、文化人が地方の有力大名に招かれ、地方に移ることは珍しくはなかった。地方大名は都の文化を吸収し、街づくりも京都に似せて行うようになった。これが現代全国に点在する「小京都」の起源と言われている。

雪舟は、教弘・政弘の2代にわたって山口に滞在した。私が日本で最も美しいと思う瑠璃光寺の五重塔に代表される「大内文化」の礎を築いた当主で、文化が“大好き”だったのである。雪舟は念願かない1467年に遣明船で渡海する。2年の滞在中には、明の画家に飽き足らず元や宋代の画家の作品を多く模写するとともに、大陸の雄大な風景に大きな刺激を受け、写生を続けた。雪舟の作品を見れば、雄大なスケールをこよなく愛していたことが理解できる。水墨画でよく知られる作品は、ほとんどが明からの帰国後の作品である。


瑠璃光寺 五重塔(山口市観光情報サイト)


益田には、雪舟が国人領主・益田兼堯(ますだかねたか)を描いた肖像画(重要文化財)が残されており、親交があったと考えられる。1480年ごろに益田を訪れ、医光寺で作庭した模様と医光寺で説明されている。

医光寺の庭園は、本堂裏にすぐ迫る山を利用して作られており、広くない空間に二段構えで石組と木々を配置され、縁側のすぐ下には池の水面が木々の緑を写している。ダイナミックながらも緊張感のある空間にしつらえられており、縁側から眺めると非常に凛としている。四季の花も美しい。


凛とした医光寺の庭


京都や山口から距離があるところに、こうした見事な庭園があることは非常に価値がある。山口市の常栄寺にも雪舟が残したとされる庭園があるが、都から最新の文化が地方に広がっていった痕跡をきちんと確かめることができる。

雪舟が周防や豊後・石見で制作に励んでいたころ、狩野派の始祖で中国系水墨画の狩野正信が、都で足利義政に寵愛されていた。雪舟のスケールの大きさとは対照的に、東山文化の影響であろうか、幽玄な画風が特徴である。都と地方で日本の水墨画がそれぞれの道を歩んでいったことは、混迷の時代にもかかわらず、かけがえのない名作を現代に伝えた二人の絵師による、時代と向き合う真剣さがあったに他ならない。



日本や世界には、数多く「ここにしかない」名作がある。
「ここにしかない」名作に会いに行こう。

医光寺
休館日 なし(例外が発生する可能性もあるので訪問前にご確認ください)
益田市観光協会による案内
http://masudashi.com/app/webroot/index.php/ikouji

 

 


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