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ルネサンスに幕を降ろした時代の寵児 ~カラヴァッジョ

2016年12月17日 | 美の偉人ものがたり

San Luigi dei Francesi教会のカラヴァッジョ作品


現代の著名画家の中で、存命中に売れた/売れなかった、いずれにしろ没後長い間忘れられ、カラヴァッジョのように20世紀になって改めて評価された画家は少なくない。

そうした画家は、日本画では今や展覧会が開催されれば最も集客力がある一人の伊藤若冲。存命中は京都で売れっ子画家だったが、明治以降は関心からはずれ、再び注目されたのはここ20-30年のことだ。西洋画ではフェルメール。彼も存命中はオランダのデルフトの上流階級の間で人気を誇っていたが、残した作品数が少なかったからか、19世紀後半まで忘れられていた。今や世界中で絶大な人気を誇り、贋作が最も多い画家の一人としても著名である。

今ではバロック絵画の扉を開けたことで著名なカラヴァッジョも、長い間忘れられていた画家の一人だ。工房も弟子も持たず、喧嘩は日常茶飯事で殺人まで犯した荒くれ者だったからか、1610年にこの世を去ると、賛否両論が激しかった彼の画風を周辺で継続しようとするものはいなかった。以来20世紀まで、肉体の写実表現とキアロスクーロ(明暗法)の絶妙なバランスが評価されることはなく、逆にリアルすぎて「醜い」と感じた人が少なくなかったようである。

彼はミラノ出身だが、1592年にローマに移ってから一躍脚光を浴びる。

時のローマ教皇シクストゥス5世がローマの街並みの大改造を行い、建築ラッシュの時代だった。宗教改革への対抗として、華美を好まないプロテスタントに対し、教会の建築や装飾の優雅さを誇ることで、信者を引き付けようとした。バチカンのサン・ピエトロ大聖堂の丸屋根が完成したのも、シクストゥス5世の治世の時で、カラヴァッジョはまさに絵画需要が旺盛なタイミングでローマにやってきたことになる。

カラヴァッジョにはもう一つの時代の流れの幸運があった。ミケランジェロやラファエロがローマで活躍した16世紀初頭の「盛期ルネサンス」以降、絵画の潮流は「マニエリスム」となっていた。偉大な盛期ルネサンスの画家の「マニエラ(=手法)」を模倣することで、レベルの高い絵画を描くことができると考えられた。ミケランジェロが「最後の審判」で描いた人体のくねりや引き伸ばしが多用され、当時のローマの人々からも「抽象的で時代遅れ」とみなされていた。ちなみに「マニエラ」は、現代の私たちが用いる「マンネリ」の語源であり、まさに革新的な絵画が求められていた時代だった。

2016年3月~6月に、国立西洋美術館で開催された「カラヴァッジョ展」には、11点の彼の作品が出品された。11点となると少ないように聞こえるが、まず彼の真筆は世界中で60点ほどしか確認されていない。また、ローマで彼の名を一躍有名にしたサン・ルイジ・デイ・フランチェージ教会にある「マタイ三部作(召命/天使/殉教)」のように、移動不可能な作品も多いため、世界でも有数の展覧会だ。


Rome, San Luigi dei Francesi教会 聖マタイと天使


ウフィツィ美術館「バッカス」、ブレラ絵画館「エマオの晩餐」、世界初公開の「マグダラのマリア」など、あたかも写真のように人間の一瞬の表情をとらえ、強調したいところにスポットライトを浴びせる手法は、同じ宗教画であってもルネサンスの画家の作品に比べて、理想の姿ではなく現実に近いよう描かれており、斬新さを明確に感じる。


Firenze, Uffizi美術館 バッカス


Milan, Brera絵画館 エマオの晩餐


カピトリーノ絵画館「女占い師」は、現実の人間の人生模様を題材とする「風俗画」であり、ジュルジュ・ラ・トゥールのように多くの画家が好んだ主題のはしりとなった。宗教画一辺倒だったローマの人たちを大いに驚かせたが、斬新すぎたのか彼の存命中は全く人気が出なかった。


Rome, Capitolini絵画館 女占い師


この展覧会に出品されている作品を見るだけで、ルネサンスの画風とは明らかに異なる表現を世に提案し、後世のバロック画家に影響を与えたことがよくわかる。

日本の美術館にカラヴァッジョ作品はなく、ローマに多くの作品がある。中でもサン・ルイジ・デイ・フランチェージ教会は最高傑作だ。1時間くらい時間がたつのを忘れて見ていることになるだろう。

カラヴァッジョが活躍しこの世を去った時期は、日本ではちょうど、狩野派と差別化し、豪華絢爛よりも「静けさ」の絶妙な表現で障壁画の絶品を多く残した長谷川等伯や海北友松の時期と重なる。「新しい絵を描きたい」という思いだけは共通であろう。



日本や世界には、数多く「ここにしかない」名作がある。
「ここにしかない」名作に会いに行こう。

公式サイト
サン・ルイジ・デイ・フランチェージ教会(ローマ)
http://saintlouis-rome.net/

 

 


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