美の五色 bino_gosiki ~ 美しい空間,モノ,コトをリスペクト

展覧会,美術,お寺,行事,遺産,観光スポット 美しい理由を背景,歴史,人間模様からブログします

奈良 新薬師寺は国宝美仏の宝庫 ~十二神将!薬師如来!香薬師!

2018年11月02日 | お寺・神社・特別公開

奈良の春日山の麓にある新薬師寺(しんやくしじ)は、いつ訪れても国宝の十二神将に魅了されます。小さいお寺ですが、仏像から建物まで仏教美術の宝庫です。奈良では絶対に外せない古刹の一つです。

春日大社の南側、高畑(たかばたけ)の閑静な山手の住宅街の中にあります。駅から距離はありますが奈良公園やならまちを通ってゆっくり歩くと、大きな空と素朴な空間を楽しむことができます。世界遺産に登録されていないこともあり、訪れる人は少なめです。その分間近でじっくりと仏様にお会いすることができます。

とても奈良らしい寺です。


国宝の本堂の瓦屋根の居心地は?

よく聞かれますが、新薬師寺は同じ奈良の西の京にある薬師寺とは一切関係がありません。「新」は”あたらしい”ではなく、ご利益がある”あらたかな”を意味します。お薬師の霊験がすごいお寺という意味は、創建のきっかけに由来します。

新薬師寺は、奈良時代の聖武天皇の病気平癒を薬師如来に祈る法要を行うために、光明皇后によって創建されたと伝えられています。奈良時代には7体の薬師如来を祀り、現在の東大寺大仏殿に匹敵する幅60mもの巨大な金堂がある大寺院でした。

この金堂が平安時代に台風で倒壊してからは、寺勢は縮小していきます。しかし平安末期の平重衡の焼討で難を逃れたことが、素晴らしい文化財を今に伝えることになったのでしょう。


国宝の本堂

国宝の本堂は奈良時代の建築ですが、後世に本堂として転用されたものです。瓦葺きで屋根の傾斜が緩い奈良時代の寺院建築の美しい姿を今に伝えています。屋根が低いですが堂内に天井はなく、座像でも2m近い像高のある巨体の国宝の本尊・薬師如来に圧迫感はありません。

土間の堂内の中心に直径9mの土壇が築かれ、この上に本尊とそれを取り巻く十二神将(じゅうにしんしょう)が安置されています。

十二神将は、現存最古の天平時代に造立された、土を固めて造った塑像です。もちろん国宝です。ただし国宝指定名:宮毘羅(くびら)大将(寺名:波夷羅(はいら)大将)だけは、江戸末期の安政の大地震で倒壊したため、昭和になってから補作されたものです。この1体だけが国宝指定を外れています。

地震に弱い塑像ですが、他の現存する奈良時代の塑像の強運には敬意を表します。現代の最新技術で倒壊だけは絶対に避けてもらいたいものです。

一部の像は国宝指定名と寺名が異なります。国宝指定名は古い文献の名称を採用したためですが、なぜ異なるのかはよくわかっていません。十二神将は干支と対応することでも知られますが、この干支との対応も寺によって異なるケースがよくあります。文書によらずあいまいに伝承していった結果、どれが本家本元かわからなくなってしまった典型例でしょう。

【公式サイトの画像】 十二神将

十二神将は近隣の別の寺から移されたとする説もあるようで、創建当初からあったものかはよくわかっていません。同じ天平時代の塑像として著名な東大寺・戒壇堂の四天王と比べ、動きやお顔の表情がダイナミックです。

東大寺・戒壇堂・四天王は鋭い眼光で静かに。新薬師寺・十二神将は俊敏な動きで豪快に。本尊を護るボディーガードとして役割は同じですが、護衛の仕方が違うように見えるのが興味深いところです。いずれも天平仏の最高傑作であることは間違いありません。

創建当初は、奈良時代の天像に多く見られるように、こちらもド派手な極彩色だったと考えられています。境内の庫裏では再現された極彩色の姿を含め、十二神将の魅力を解説する映像が常時流されています。大変参考になります。

【公式サイトの画像】 香薬師如来

本堂にはもうお一方、必ずお会いしてほしい仏様がらっしゃいます。通称:香薬師(こうやくし)として知られる銅造薬師如来立像です。白鳳時代を代表する美仏ですが、1943(昭和18)年の盗難後行方不明です。本堂にいらっしゃるのは盗難前の写真と石膏型から再現された忠実なレプリカです。

お顔の表情や流れるような衣のひだの造形は見とれてしまうほどの美しさです。あどけなさを残したお顔は、東京・深大寺の白鳳時代の国宝の釈迦如来と共通点があります。

像高75cmと小さいため盗難にあいやすいのですが、実は明治時代にも2度盗難にあい、都度戻ってきていました。戦前の仏像に対する防災意識は、信仰よりも後回しだったというのが現実でした。盗難前は旧国宝でした。保存状態良く発見されれば、深大寺像のように国宝指定される価値は充分あるでしょう。

11/12までの2週間ほど、盗難にあった香薬師の右手が展示されています。明治時代の盗難の際に切断されていたもので、2015年になって鎌倉の寺で発見されました。中宮寺の半跏思惟菩薩のように女性的でなまめかしくもある指の動きの造形が絶品です。


奈良公園の飛火野(とびひの)エリア

新薬師寺の近くには、志賀直哉旧居や入江泰吉記念奈良市写真美術館など奈良の魅力を満喫できる施設もあります。奈良公園の秋化粧も楽しめます。ぜひお出かけください。

こんなところがあります。
ここにしかない「美」があります。



右手の所在をつかんだ新聞記者の著者による迫真のルポ

________________________________

新薬師寺
【公式サイト】http://www.shinyakushiji.or.jp/

原則休館日:なし
入館(拝観)受付時間:9:00~17:00

※公開期間が限られている仏像や建物・美術品があります。
※「香薬師様の右手を特別公開」は2018年10月27日(土)〜11月12日(月)



◆おすすめ交通機関◆

近鉄奈良線「近鉄奈良」駅下車、東改札口C出口から徒歩30分
西北出口から奈良交通バス1番のりば、市内循環バス「破石町」下車、徒歩10分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:1時間30分
JR大阪駅→JR環状線→鶴橋駅→近鉄奈良線→近鉄奈良駅→市内循環バス→破石町

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。
※現地付近のタクシー利用は事前予約をおすすめします。


________________________________

→ 「美の五色」とは ~特徴と主催者について
→ 「美の五色」 サイトポリシー
→ 「美の五色」ジャンル別ページ 索引 Portal


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 三菱一号館 フィリップス・コ... | トップ | 東寺 立体曼荼羅 背中が見れ... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

お寺・神社・特別公開」カテゴリの最新記事