銀の匙 (角川文庫) | |
中 勘助 | |
角川書店 |
先月、「鋼の錬金術師」の作者荒川弘のコミック「銀の匙」を紹介しましたが、今回は本家本元の中勘助の「銀の匙」を。もちろん荒川弘がタイトルをパクったとか、そういう意味ではありませんので念のため。
「銀の匙」の名前を初めて知ったのは、阿刀田高のエッセイだったかなぁ・・・どのエッセイ集だったかは忘れたけど、彼が今までに一番感動した本はこの「銀の匙」だってことを力説していました。お恥ずかしいことに私はこの「銀の匙」を全く知りませんでしたが、およそ100年前に新聞小説で発表されたこの作品、岩波文庫などでも発行され、長い時間をかけて100万部以上売れているという、大ベストセラーってことを、今回色々調べてみてわかりました。私は読んだことはなかったんだけど、このブログを覗きに来てくれている人の中では「中高校生くらいの時に読んだ」なんて人もいらっしゃることでしょう。
タイトルの「銀の匙」とはなにか?
これは幼い頃から病弱だった主人公を我が子のように慈しみ育ててくれた伯母が、彼に薬を飲ませる時に用いたとても可愛らしい銀色のスプーンのことなんですね。物語はこの作者中勘助の自伝小説という感じで生まれた時から17歳ぐらいまでの17年間を文庫本で190ページほどで書かれている中編小説です。物語の舞台は明治20年代~30年代くらいの東京です。
「のんのんばあとオレ」や「佐賀のがばいばあちゃん」とはまたちょっと違うかもしれないけれど、男の子にとって、何らかの事情で産みの母親の代わりに育ててくれた、おばあちゃんなり、おばさんなりがいて・・・そういうシチュエーションだけで、私は泣けてきます。それはなにも悲しいってことではなく、私自身の思い出として、このブログにも過去になんどか書いたことのある「米田のおばちゃん」を思い出すからなのですが。また彼女の思い出については記事を書きます(笑)
さて、この「銀の匙」ですが、舞台が明治中期の東京で、その当時の東京下町の色々な生活風景が、怖がりで病弱な主人公の目を通して、いきいきと描かれています。物語は新聞連載当時の分け方っていうか、前篇と後編にわかれていますが、主人公と伯母の生活が中心に描かれている前篇のほうが私は好きですね。後篇には伯母はほとんど登場しません。これは伯母の手助け無くたくましく育っていった主人公の成長を中心に書かれているからです。
また、主人公の淡い初恋も描かれています。これがまたいつの時代も同じなんだなぁって思いました。今の小学校低学年の子どもたちも、今から120年も昔の子どもたちも基本は同じです。
また文中に出てくるオノマトペもすごく素敵です。
「ぽちゃぽちゃ」「ひょんひょん」「じゃんじゃん」「ねじねじ」「たおたお」「ぽくぽく」こういう表現は作者自身が作ったものか、明治時代には普通に使われていたものかはわかりませんが、なかなか面白く感じました。
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