虚構の世界~昭和42年生まれの男の思い~

昭和42年生まれの男から見た人生の様々な交差点を綴っていきます

人生のターニングポイント~葛藤~

2017-06-01 18:14:26 | 小説


 1987年夏の講習が始まった。
 彼には昨年から顔見知り程度の友達がいた。名前を井上といった。
 井上は、嘘と自慢をよくつく男だった。一浪目から「明治には受かったけど早稲田に行きたいのでけった」と会う人に自慢していた。

 また、女性のこともよく自慢していた。「昨日は〇〇大学のおねえちゃんとやった」とか日替わりでいろいろな話題をしていた。

 当然、嫌われる。一浪目もほとんど相手にされなかった。しかし、数少ない二浪目の中で井上は彼を見ると馴れ馴れしく声をかけてくる。彼もまた井上の自慢話をよく聞いていた。

 

 しかし、あまりに大きなことを言うので、彼は「模試の結果を見せて」と言ってみた。井上の顔は引きつっていた。そして、子供らしい嘘をついて逃げていった・・・。


 講習会では「夏を制する者が受験を制する」と繰り返し講師たちが叫んでる。1987年の夏・・・。

 本当ならば、二十歳の夏、女性と過ごしたい、彼女がほしい、車がほしい・・・。彼はある日、魔が差したように、高校時代の女性の友人に電話をした。彼女は彼が二浪目をしていることを知り、驚いていた。

 そして、話が合わなくなっていることにも気づいた。彼女は早く電話を切りたがっていた。何だか、さみしくなり、今度は男性の友人に電話をした。彼のアパートには電話はない。電話ボックスの中から・・・。

 当たり前のような大学生活、二十歳の生活、彼女、車・・・。そんな話題を彼にぶつけてきた。悪意はないのだけれども彼の心には鋭くえぐられた。

 一人アパートに戻ると、何だか涙があふれてきた。ちょうど仙台の七夕祭りが開催されているころ・・・。にぎやかな駅前の音が彼の住む駅裏の街にも鳴り響いていた。

 そんなとき、母親から手紙が来た。

 「しっかりがんばりなさい」、カップラーメンや缶詰と一緒に短い手紙が入っていた。
その言葉にまた涙があふれた。

 いろんな思いが交錯していた1987年の夏・・・。

 彼は少しだけ大人になっていった・・・。自分の弱さを知り、人の優しさを知ったことで彼は階段を上り始めていた・・・。

 

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