第八芸術鑑賞日記

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狼と豚と人間(1964)[旧作映画]

2008-02-15 03:14:47 | 旧作映画
 08/1/12、シネマヴェーラにて鑑賞。7.5点。
 『仁義なき戦い』との二本立てだったから、というだけの理由で気楽に見始めたのだが、これが思わぬ傑作であった。個人的には深作のベスト候補。これだから名画座の二本立ては侮れない。
 題材に関しては、『豚と軍艦』('61)に『現金に体を張れ』('56)を放り込んだような、と形容すればいいだろうか。スラム街に生まれた三兄弟がそれぞれにドン底人生からの脱出をはかり、そのために敵対し、袋小路に追いつめられていく。実際のスラム街のロケ撮影だという話も聞いたが、そのリアリティは今村演出の力強さをすら連想させるのだ。さらに、物語の核となるのはヤクザからの現金強奪という事件だが、白昼、駅の雑踏の中で行なわれるその犯罪劇はまさに『現金に~』の競馬場そのままであり(もちろん一場面だけの類似であって、緻密さは天と地だが)、それがアクションの人である深作によって演出される(ちなみに渋谷駅でのゲリラ撮影だという)。
 全体のプロットとしては、スピーディに急展開する前半から粘っこい密室劇である後半へ、という流れが実にお見事。まずはオープニング、スタッフ・キャストのクレジットを出しつつ、静止画にナレーションをかぶせて三兄弟の生い立ちを無駄なく簡潔に説明してしまう。BGMは軽快なジャズだ。この速度で期待は高まる一方。さらに続く序盤の数分で、「母の死」という一つのエピソードによって三兄弟の確執とそれぞれの選んだ道が示される。長男のイチローはヤクザ組織の幹部。上下関係に気を配って地位を守ろうと必死である(豚?)。次男のジローは刑務所帰り。兄の組から現金と麻薬を奪取せんと計画を練る(狼?)。三男のサブは実家で母の面倒を見ていたが、その母も死んだ。未来を切り拓けないものかと仲間たちと息巻くが、何一つ具体的な道は見えてこない(人間?)。そして前半の山場となるのが、サブと仲間を計画に引き入れたジローによる現金強奪事件である。ここまでのスピーディな展開は現代のクライムサスペンスとしても通用する流麗さで素晴らしい。
 後半。事前に約束されていた分け前の額と手に入れた大金とのギャップから、兄に利用されたことを知ったサブが金を隠し、ここから陰湿極まる後半が始まる。サブとその仲間を隠れ家でひたすら拷問し続けるジロー。序盤でスラム出身の悲哀を強調しているだけに、互いの必死さにも十二分に説得力がある。そして弟の不始末を解決するために長男がやって来るに至って、三人の運命が交錯することになる。仲間ともども実の兄に拷問されながら、二度とはないかもしれぬ未来への希望のために決して口を割らないサブ。ヤクザに隠れ家を見つけられて進退窮まったジロー。もはや組での栄達の道は閉ざされたも同然のイチロー。どう転んでも絶望的な事態に陥った三人の運命はさていかに……
 というわけで、いつになくストーリーの紹介をごちゃごちゃと書き連ねてしまったが、とにかく脚本が素晴らしいんである。スタイリッシュな和製フィルムノワールと土着リアリズムに基づく人間ドラマとの融合。これを95分の尺できっちりまとめたのが深作の力量を示しているように思う。あくまでも大衆娯楽映画の枠にとどまりつつ、実に見事な完成度だ。
 しかし、九割がた完璧であるためにこそ、残りの一割に深作の限界が見えてきてしまうのも否定できない気がする。特に、最後の最後でどうしようもない「甘さ」が出てくるのには大いに脱力してしまった。それまでのシビアさは何だったんだ、と。「黒澤明と深作欣二は説教臭い」とはよく言われるが。ある意味、「実録もの」としてその手の甘さを初めから排除してしまった『仁義なき戦い』こそはその点を克服しえたものだったのかもしれない。そして、やはり深作映画にはスターのスター性に支えられている面が大きい、という事実は無視できないだろう。たとえば先に引き合いに出した『豚と軍艦』であれば、長門裕之も丹波哲郎も物語と今村演出の骨太さの前に一登場人物としてかしこまる他ない。しかし本作では、三兄弟それぞれのキャストによって物語を支えている部分が極めて大きいのだ。すなわち、高倉健のジロー(ちなみに、いつもいつも義理人情ある男ばかりを演じている高倉健が「弟を拷問しまくる」という本作での役柄を演じているのはなかなか貴重な姿だ)、北大路欣也のサブ、さらに三國連太郎のイチローである。
 とはいえ、現在の知名度はあまりにも過小評価だと感じる。どのような批判があるのだろうと少しネットを検索してみたところ、散見されたのは「図式が観念的すぎる」とのもの。脚本を絶賛していた俺としては思いがけない指摘だったのだが、確かにこれは一理ある。一理あるが、しかしなぜ俺はそのようなことを感じずノレたのか。おそらく、ノワールを観るような気分で前半に臨んでいたのが功を奏したのだろう。多少図式的であることはジャンル映画として当然だし、それを理解したうえでリアリティの線引きをすることになるから、製作者側の用意した設定を素直に受け入れられたわけだ。そして、俺としては「そうやって観るのが正しいのだ」と少々無茶な主張をしてでも擁護しておきたい。
 いずれにせよ、観るべき価値の十二分にある力作であり、日本映画史に残すべき傑作の一つだと思う。


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1 コメント

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Unknown (Unknown)
2019-04-30 11:31:06
 くそ最低の映画やな!

金返せレヴェルやな1
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