第八芸術鑑賞日記

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ノスタルジア(1983)[旧作映画]

2009-07-12 02:07:42 | 旧作映画
 08/7/13、シネマヴェーラにて鑑賞。6.5点。
 タルコフスキーの代表作(といっても寡作な人だから全てが代表作なのだが)で、カンヌで監督賞を獲得している。これぞタルコフスキーといった印象の作品で、催眠効果を最高度に発揮する緩慢なテンポによって、説明をすっかり排除した映像詩が126分間ひたすら綴られてゆく。160分の『ストーカー』('79)や149分の『サクリファイス』('86)よりは多少短いし、「タルコフスキーらしさ」を一作で体験してみたいという人には入門編としてこれを薦めればいいかもしれない(さらに短い『鏡』('74)は未見なので何とも言えない)。
 目的地にやって来たと思しき主人公が、なぜか「車に残る」と同伴者に言い出す、という冒頭からして意味がわからないので、「18世紀の音楽家サスノフスキーの足跡を辿ってイタリアを旅する詩人アンドレイ」……という基本設定すら、頑張らないと読み取れない。その後も、この作品は一体どこを目指して進んでいるんだろう……と不安になるほどの断片的な情景が映し出されていく。舞台は屋外の温泉を中心に、テンポは極端にゆったりと。時おり挿入される回想の中の故郷がセピア色で撮られていて、反則級に美しい。
 終盤、「演説とその後」のシーンから「蝋燭」のシーンへの流れで、ようやく物語の輪郭がはっきりしてくる。このあまりにも有名な「蝋燭」のシーンでの長回しは、タルコフスキーがいかに本気で映画に向き合っているかを示して感動的だ。翻って考えてみれば、作品の全編がこの熱意と真摯さに支えられた映像美によって埋め尽くされているわけで、この映像だけをとってみても巨匠の面目を保つに十分な強度を誇っている。
 だが、個々のモチーフ自体はかなり陳腐であるというのも否めない事実だろう。ドメニコの「1+1=1」とか、「蝋燭を消さずに往復できたら世界は救われる」とか、いかにも意味深そうに提示されるが、それに酔わせてくれるところまではいかない。しかしそれでも、「蝋燭」というアイテムはそれだけで人間のあらゆる営みを示せてしまう優秀なメタファーではあると思う。
 どうせ作品数も少ないことだしタルコフスキーは一通り見てしまえ、と踏ん切りをつけた上で、(眠くならないように)体調を整えて臨みたい。観て損はない力作である。


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