【監督賞】
■若松孝二(実録・連合赤軍 あさま山荘への道程)
□阪本順治(闇の子供たち、カメレオン)
□是枝裕和(歩いても 歩いても)
□黒沢清(トウキョウソナタ)
□橋口亮輔(ぐるりのこと。)
※この一年に関しては若松孝二を立てる一択しかない。毛色の違う二作を送り出してきた阪本順治の職人芸はお見事。是枝、黒沢、橋口と、すでに評価の高い中堅監督たちではあるが、それぞれ優れた新作を見せてくれた。
【主演男優賞】
■佐藤浩市(ザ・マジックアワー)
□藤原竜也(カメレオン)
□本木雅弘(おくりびと)
□香川照之(トウキョウソナタ)
□江口洋介(闇の子供たち)
※佐藤浩市なくして『ザ・マジックアワー』という映画は成立しなかっただろう。色々言われた藤原竜也だが、「主演」が似合う数少ない若手男優として貴重だと思う。松田優作を想定して書かれたキャラクターのアクションを演じるなんて並大抵の度胸じゃできない。本木雅弘、江口洋介はそれぞれ熱演で素直に好感度高し。香川照之はさすが。
【主演女優賞】
■坂井真紀(実録・連合赤軍 あさま山荘への道程)
□永作博美(人のセックスを笑うな)
□小池栄子(接吻)
□アヤカ・ウィルソン(パコと魔法の絵本)
□木村多江(ぐるりのこと。)
※坂井真紀は主演とは言えないかもしれないが……一応タイトルロールで最初にクレジットされてるので。スルーしてしまったけど『ノン子36歳』でも熱演だったようで。永作博美は井口奈巳の長回し演出の中で存分に魅力を発揮。橋口亮輔作品での木村多江も同じく。小池栄子はテレビでのイメージを覆す名演技を見せてくれた。逆に、演技力云々は全くわからないものの、映画俳優の命といえるオーラだけで完璧に役割を果たしたアヤカ・ウィルソンも素晴らしい。次点は『トウキョウソナタ』の小泉今日子か。
【助演男優賞】
■豊川悦司(接吻)
□松山ケンイチ(人のセックスを笑うな)
□浅野忠信(母べえ)
□佐々木蔵之介(アフタースクール)
□山崎努(おくりびと)
※この部門にはあまり強く推したい人がいないのだが、『接吻』での豊川悦司の存在感が頭一つ抜けていたか。松山ケンイチも良かった。『デスノート』や『デトロイト・メタル・シティ』でのコスプレイヤーとしての印象が強い中で、長回し演出による作品での健闘が光っていたと思う。浅野忠信は吉永小百合に恋するという難役(?)ながら、作品の質を上げるのに貢献。佐々木蔵之介は助演として最適な存在感できっちりした仕事。山崎努は安心して観ていられる。
【助演女優賞】
■YOU(歩いても 歩いても)
□市川実和子(悪夢探偵2)
□樹木希林(歩いても 歩いても)
□広末凉子(おくりびと)
□蒼井優(人のセックスを笑うな)
※とにかく『歩いても~』のコンビが素晴らしすぎる。普通なら樹木希林の方だろうが、個人的にはYOU。他に替えがきかないという意味では極めて貴重な役者だと思う。サバサバした人物造形は、『東京物語』('53)での杉村春子を引き合いに出したいくらい魅力的。市川実和子は怖すぎる。顔のパーツの配置がホラー向き。と同時にちゃんと感動的なシーンも演じていて、とにかく印象に残る。広末は演出過多で少しやりすぎた感があるが、良かったのではないかと。蒼井優は相変わらず最高の助演ぶりを見せる。他には、『闇の子供たち』での宮崎あおいが優等生的なイメージをうまく使っていて秀逸。
【脚本賞】
■歩いても 歩いても
□アフタースクール
□ハッピーフライト
□ぐるりのこと。
□闇の子供たち
※内田けんじの『アフタースクール』ももちろん悪くないのだが、『歩いても 歩いても』のような形式のドラマでこれだけ巧くまとめられるという事実に心底感動したので。『ハッピーフライト』はもう少し評価されてよいと思う。『ぐるりのこと。』は、最初に目が向くのは長回しや演出なのだが、全体のプロットも巧い。『闇の子供たち』は真っ向勝負の社会派として買いたい。次点は『トウキョウソナタ』か。評判の『おくりびと』はむしろ脚本が足を引っ張っていると思うので除外。三谷の『ザ・マジックアワー』は後半での失速が大減点。
【撮影賞】
■トウキョウソナタ
□悪夢探偵2
□歩いても 歩いても
□実録・連合赤軍 あさま山荘への道程
□人のセックスを笑うな
※『トウキョウ~』、最初のカットから最後まで全編完成度の高い画で攻め続けて見事。クライマックスの海岸もいい。『悪夢探偵2』は前作と異なり、正統派Jホラー的な構図で勝負。結果は勝利だろう。『歩いても~』は夏休みの空気を写し取っていて素晴らしい。『実録~』の雪原のシーンは、大作のクライマックスとして十二分なダイナミズムを湛えていたと思う。『人の~』、妥協なき長回し撮影をきっちり貫いていて、満腹にさせてくれる。
【音楽賞】
■崖の上のポニョ
□スカイ・クロラ
□悪夢探偵2
□実録・連合赤軍 あさま山荘への道程
□トウキョウソナタ
※『ポニョ』の中盤における大活劇は、久石譲のワルキューレ風スコアによってこそ最大限に盛り上げられたと言っていいだろう。もちろん一瞬で覚えられる主題歌のインパクトも凄かった。『スカイ~』での川井憲次もいい仕事。『悪夢探偵2』での探偵登場時に流れるテーマは、ヒーローもののケレンを持ちつつ、ホラーとしてのシリアスな雰囲気も損なわない絶妙さ。好きだ。『実録~』のジム・オルークのスコアは、後から意外なほど良かったと思えてきた。『トウキョウ~』は少々あざといにしても、やはり音楽の力を活かした逸品。
【美術・衣装賞】
■ザ・マジックアワー
□パコと魔法の絵本
□歩いても 歩いても
□ぐるりのこと。
□悪夢探偵2
※『ザ・マジックアワー』での作り物感をあえて押し出したセットはやっぱり好きだ。『パコ~』の肝である過剰さは、一つにはポストプロダクションが生み出しているものだが、やはり美術・衣装の貢献も大きい。『歩いても~』と『ぐるりのこと。』が持ちえた空気は、あらゆる部分でのスタッフたちの優れた仕事によって用意されたものだろう。『悪夢探偵2』、夢のシーンが素晴らしい。
【編集賞】
■カメレオン
□悪夢探偵2
□トウキョウソナタ
□ハッピーフライト
□接吻
※『カメレオン』におけるアクションシーンの編集には、本当に興奮させられた。拙いアクションを誤魔化すためのものなどではなく、素材を最大限まで引き立てて、なおかつ映画的なモンタージュの凄みを見せてくれる。『悪夢探偵2』、この部門は塚本晋也の指定席。『トウキョウ~』や『接吻』のバランス感覚はさすがの一言。『ハッピーフライト』のリズムの快適さはもう少し評価されていい。
【視覚効果賞】
■悪夢探偵2
□パコと魔法の絵本
□K-20 怪人二十面相・伝
※あの手この手を駆使して視覚へ訴える『悪夢探偵2』。塚本節炸裂で満足。『パコ~』は中島哲也の前作『嫌われ松子の一生』の延長線上にあるといえばあるが、しかし一線を越えた作品かもしれない。ある意味では記念すべき作だが、しかし評価は難しい。『K-20』はアクション大作を日本映画でどう実現するかということの一つの見本になりうるだろう。逆に、この部門で残念だった作品としては、押井守の二作(『スカイ・クロラ』と『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0』)がある。押井自身の意識としては、VFXの発達過程における過渡期的表現ということかもしれないが、現時点での各作品の完成度としては、やはりCGが浮きすぎている。
【音響賞】
■スカイ・クロラ
□悪夢探偵2
□トウキョウソナタ
※VFXに関しては手放しで褒められない『スカイ~』だが、この部門では文句なし。さすがスカイウォーカー・サウンド。やりすぎでちょっとあざとくなったのが玉に瑕。『悪夢探偵2』の塚本、『トウキョウ~』の黒沢は、音の使い方に関してさすがのこだわりを見せてくれる。