とおいひのうた いまというひのうた

自分が感じてきたことを、順不同で、ああでもない、こうでもないと、かきつらねていきたいと思っている。

イスラム al‐Isl´m 6

2006年12月02日 15時28分18秒 | 宗教・哲学・イズム
[生活と文化]
 ムスリムの生活は,複数の暦をもとにして営まれた。 イードと呼ばれるイスラムの二大祭 (断食明けの祭と犠牲祭),あるいは預言者の生誕祭 (マウリド) などはヒジュラ暦に従って催されたが,農事や地租の徴収は各地に固有な太陽暦によって行われた。たとえばエジプトではナイルが増水する 8 月末を年初とするコプト暦が使われ,またシリアでは秋を年初とするシリア暦が,イラクやイランでは春分 (ノウルーズ) を年初とするペルシア暦が用いられた。近代以降はさらにグレゴリオ暦が加わり,多くの地域で 3 暦併用の状態が現在まで続いている。
 民族や宗教も決して単一ではなかったことが特徴である。歴史上重要な役割を演じたアラブ,ペルシア人 (イラン人),トルコ人,モンゴル人,ベルベル以外に, クルド,アルメニア人,ヌビア,スラブ人,グルジア人,ダイラムなどの,いわゆる〈少数民族〉も数多く存在した。宗教別にみれば,イスラム教徒のほかに,人頭税 (ジズヤ) の支払を条件に〈啓典の民〉として信仰の自由を保障されたキリスト教徒やユダヤ教徒,あるいはゾロアスター教徒などがおり,しかもイスラム教徒自体がスンナ派,シーア派,アラウィー派,ドルーズ派などの諸分派に分かれていた。これらの民族や宗派は,たとえばペルシア人は書記・文人として,トルコ人は軍人として,ユダヤ教徒は商人・金融業者としてとくに目だった働きをしたように,それぞれ固有な技術や才能を生かしてイスラム社会に独自な地位を占める場合が多かった。民族や宗教がこのように多様であったことに対応して,言語もまた複雑であった。もちろんコーランの言語であるアラビア語は長い間イスラム世界の公用語として用いられ,学問や文学活動もアラビア語によって行われた。しかし 10 世紀以後になるとイランでは近世ペルシア語が復活し,またトルコ民族の西進につれてトルコ語の使用地域も漸次拡大していった。しかもクルドやアルメニア人,あるいはグルジア人などの間では,それぞれの民族言語が現代にいたるまで絶えることなく使用され続けてきたのである。
 ところで,主たる生業が都市の商工業であるにしろ,田舎の農業や牧畜であるにしろ,生活の基礎となる単位はやはり家族 (家) であった。父系の血縁グループの集合体である家族は,その集合の度合に応じて大小さまざまであったが,現実の生活は比較的小規模の家族によって営まれた。家族の成員は父親の権威に従い,必要があれば遠い血縁の者にまで援助の手を差し伸べることが求められた。個人主義的な行動の原理が強く生きている社会にあって,家族や一族の緊密な結びつきは,都市やむらの共同体とともに,個人の自由な行動に対する規制力として働いていたといえよう。またイスラム社会には,現実の小家族とは別に,共通の祖先によって結ばれた〈家〉の意識も存在した。たとえばイラクのバルマク家やエジプトのマンマーティー Mamm´t ̄家は官僚の名家として長い伝統を誇り,マムルーク朝やオスマン朝のアミールはマムルークと擬制的な血縁関係を結ぶことによって一つの家を構成した。
 しかし 19 世紀以降,このような家族や家の観念は大きく揺らぎ始める。産業構造の変化に伴う都市化の進行とむら共同体の崩壊,あるいは西欧市民社会のイデオロギーの流入は,血縁による絆をしだいに弱めずにはおかなかった。また社会変動の波は,人々の行動の規範となっていたイスラムそのものにも及んだ。混合裁判所の設置によってシャリーアが適用される範囲は大幅に制限され,その担い手であるウラマーの役割もしだいに低下していった。イスラム社会の展開以後,ほとんど唯一の社会組織として機能していたタリーカも, 19 世紀以降は急速に解体化の方向をたどった。近代化を促進するために旧勢力のマムルークは一掃され,農村でもイクター制の施行以後初めての本格的な土地改革が実施されようとしていた。 10 世紀以降のイスラム社会は,マムルークによる支配とそれを支えるウラマーの社会的役割,イクター制の成立と発展,タリーカによる社会統合などによって特徴づけられる。西アジア,北アフリカの近代諸国家は,非イスラム化の方向をたどるにせよ,イスラム再生の道を選ぶにせよ,これらのすべてを改革の対象に取り上げ,新しい社会とそれにふさわしい価値意識とを模索し始めたのである。
佐藤 次高
【六信五行】
イスラムは信仰だけあれば足りるとする宗教ではなく,正しい信仰が行為によって具体的に表現されなければならないとする。その信仰 (イーマーン) の内容と,行為のうち,とくに神への奉仕にかかわるもの (イバーダート) を簡潔な箇条としたものが六信五行である。六信とは,(1) アッラー,(2) 天使,(3) 啓典, (4) 預言者,(5) 来世 (アーヒラ),(6) 予定 (カダル) を信じること,五行とは,(1) 信仰告白 (シャハーダ), (2) 礼拝,(3) 喜捨 (ザカート),(4) 断食, (5) 巡礼を行うことである。五行はアラビア語では,イスラムの信仰を支える 5 本の柱という意味で五柱 (アルカーン・アルハムサ al‐ark´n al‐khamsa) というが,日本では普通〈六信五行〉と言いならわす。
 信仰告白 (シャハーダ) は,〈アッラーのほかに神なく,ムハンマドはアッラーの使徒である〉という簡潔な言葉 (カリマ) を唱えることで,イスラムへの改宗の際や礼拝のたびごとに唱えられる。コーランでは,〈アッラーのほかに神なし〉と〈ムハンマドはアッラーの使徒である〉とは別々に記され,このカリマと同じ言葉は見られない。コーランで別々に記された言葉を結びつけたカリマが,最初,異教徒のイスラムへの改宗の〈証拠〉として用いられ始めたと考えるのは,きわめて穏当である。
 礼拝はアラビア語でサラートoal´tと呼ばれ,神への服従と感謝の念の行為による表明である( 図 )。義務としての礼拝oal´t al‐makt仝ba は夜明け (スブフoubh,ファジュル fajr),正午 (ズフルquhr),午後 (アスル‘ aor),日没 (マグリブ maghrib),夜半 (イシャー‘ ish´’) の一日 5 回であり,ほかに自発的礼拝oal´t al‐tapawwu ‘を行うことが推奨される。礼拝にあたっては,身を浄め (ウドゥー wuf仝’),意図 (ニーヤ n ̄ya) を明らかにし,キブラに向かって低頭 (ラクア rak ‘ a),平伏 (スジュード suj仝d) を含む定められた方法で行う。モスクのみならず,墓地,環殺場など不浄の場以外の任意の場所で個人で行いうるが,毎金曜日正午の集団礼拝oal´t al‐jum ‘ a はイマームの指導のもとに,マスジド・アルジャーミーで行われるのが原則で,礼拝の前にフトバ (説教) が述べられる。なおペルシア語では,礼拝をナマーズnam´sという。
 喜捨には,ザカートとサダカの二つがあり,前者はイスラム法の定めるムスリムの義務としてその所有する財産に課せられる一種の税で,貧者の救済,援助に用いられ,後者は,これに対し自発的な喜捨をさす。
 断食は,ヒジュラ暦のラマダーン月 (9 月) の 1 ヵ月間,日の出から日没までいっさいの飲食を断つ (日没後は許容される) ことで,義務としての巡礼はハッジュhajj と呼ばれ,ズー・アルヒッジャ月 (12 月) の 8 日から 10 日までの間,定められた順序と方法でメッカのカーバとメッカ東方の聖地を訪れることである。いずれもムスリムとしての連帯を確認する共同体的行事で,二大祭 (イード) と結びついている。 ⇒ザカート ∥巡礼 ∥断食
嶋田 襄平
【祭り】
イスラムの祭りは外形上,(1) 神聖・厳粛・勤行型, (2) 殉教記念・悲痛型,(3) 歓喜闊達・解放型の三つのタイプに分けられる。宗派の別なくイスラム法に定められた二大祭 (イード) は,断食明けの祭 (イード・アルフィトル) と犠牲祭 (イード・アルアドハー) である。このほかに,(1) ヒジュラ暦の元日,(2) ムハンマドの生誕祭 (ラビー・アルアッワル月の 12 日), (3) 夜の旅と昇天 (イスラー・ワ・ミーラージュ) 記念の夜 (ラジャブ月の 27 日の前夜), (4) シャーバーン月の 15 日 (ニスフ・シャーバーン) の前夜, (5)ライラ・アルカドルlayla al‐qadr (コーランが下されたとされるラマダーン月の下旬の一夜) などがある。シーア派ではこのほかにムハンマドがアリーのカリフ権を暗に表明したと主張する事件を記念するカディール・フンムの祭 (ズー・アルヒッジャ月の 18 日) や,アリー,ハサン,フサインの殉教記念日を重視する。とくにフサインの殉教記念日アーシューラー (ムハッラム月の 10 日) は,シーア派最大の行事である。このほかシーア派においては,歴代イマーム (6 代,8 代,12 代など) の生誕祭 (マウリド) や命日が重視される。また宗派の別なくイスラム神秘主義の聖者の生誕祭が地方的な祭りとして広く行われている。 ⇒アーシューラー ∥イード ∥マウリド
飯森 嘉助
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« イスラム al‐Isl´m 5 | トップ | 悲しみのカミーユ・サン=サ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

宗教・哲学・イズム」カテゴリの最新記事