7月中旬の木曜日の八津菱電機華厳寮203号室では、珍しく夜の9時前に、3人が揃っていた。
「この時間に3人が揃っているのは、珍しいなあ」
と、ガオが笑う。
「そうだな。これはやっぱり、一杯いっとく?」
と、イズミ。
「そうだな。りっちゃんもいたから、りっちゃんも呼ぶか」
ということで、203号室は、たちまち飲み会の場所に変わったりする。
「ねえ、203号室はゴールデンルームに戻ったって、ほんと?」
と、りっちゃんが青い顔して、ガオに聞いている。
「ああ。もう、一ヶ月くらい前だったかなー。俺の彼女は藍ちゃん、イズミは愛ちゃんだよな。んで、パパは・・・」
と、ガオが言う。
「姉さん女房の、東堂アイリだ」
と、僕が言う。
「ひえー、ほんとだったのかー・・・俺出張してたから、知らなかったんだよねー。昨日、田村に聞いたんだけど・・・」
と、りっちゃんは同室のルームメイトの名前を挙げている。
「しっかし、こいつらは普通と違うとは、思っていたけど、3人共、早すぎじゃない?復活するの」
と、りっちゃんが呆れている。
「まあね・・・それだけ、皆、積極的ってことじゃないかな」
と、僕が言うと、
「いくら、積極的に行ってもさー・・・相手が自分のことを気にいってくれなければ、つきあえないじゃん!」
と、りっちゃんは、当然のことを言っている。
「でも、男から声をかけなければ、女性は絶対に動かないぜ」
と、イズミは当然のことを言う。
「そうだな。男はフラレてなんぼ・・・そのうちに、度胸も座ってくるし、女性にとって、好ましいってことは何かってのが、段々わかってくる。具体的にな」
と、ガオが言う。
「その具体的な何かって、何よ?」
と、りっちゃんは口を尖らせて言う。
「そうだな。女性を安心させる笑顔かな」
と、ガオは言う。
「うん。それはそうだな」
と、イズミも言う。
「確かに、笑顔は、重要」
と、僕も続く。
「それとさ、なんと言っても雰囲気さ。女性が好きになる雰囲気って、やっぱりある」
と、イズミは言う。
「うん。そうだろうな、自分を護ってくれる安心感とか・・・誰かさんは、女性に「守ってあげるから安心して!」って言われたらしいけどな」
と、ガオが笑う。
「え、それって・・・」
と、りっちゃんはちんぷんかんぷん。
「俺だよ。年上のアイリさんに「あなたのことを守るから、安心して」って言われたんだ」
と、少し照れながら、僕は言う。
「あのさ、それって、すごくない?・・・絶対に、そんなことを言ってくれる女性は、僕については、この世に存在しない」
と、りっちゃんは驚きながら、言う。
「まあ、パパは別格だよ。舞台女優のエイコさんには愛され・・・アイリさんって人も相当美人だぜー。パパ写真見せてあげれば・・・」
と、イズミが言う。
僕はアイリと二人で撮ったプライベート写真をりっちゃんに見せる。
「げ、なにこの美人・・・背もすらっとしていて、色も白くて髪の毛も長くて、ちょっとハーフっぽいじゃん・・・パパと二人、やわらかい笑顔で・・・うらやましい」
と、りっちゃんは、げんなりしている。
「まあ、パパは女性に愛される相なんだろうな。そうでなきゃ、そんなすごい美人達に、続けて、愛されるわけがない」
と、ガオは皮肉たっぷりに言っている。
「なあ、イズミ、このことは、どう考えればいいんだ?パパって、どういうところが、女性に愛されるんだ?」
と、りっちゃんが泣きそうになりながら、イズミに聞いている。
「そうだなあ。女性心理的に言うと・・・パパって守りたくなる要素を持っているんだよ。パパから聞いた話だと、いつも機嫌のいい少年みたいって言われているらしいから・・・」
と、イズミは話す。
「女性はそういう少年を守りたいものさ・・・だから、パパを守りたい女性がわんさか出てくる・・・そういうことだと思うね」
と、イズミは女性心理のプロだけに、現象の本質を見抜いている。
「ふうん・・・このパパがね・・・俺にはまったく理解出来ないよ・・・」
と、りっちゃんは、ビールをがぶ飲みしている。
「まあでも、男ってのは、女に惚れられて、なんぼだからな。女の扱いで、男の価値が決まってくる。だから、リッちゃんもがんばらないと・・・りっちゃんの浮いた話聞いたことないぞ」
と、ガオはツッコむ。
「そうだよ。いつも他人の話を聞いてばかりで・・・うらやましがっているだけじゃ、何も始まらないぜ」
と、イズミもツッコむ。
「そうだな。ガオもイズミも、動いているからな。一生懸命、彼女を作ろうと懸命に努力している。毎週末・・・俺だって自分で動いたから、彼女が出来たんだ」
と、僕は言う。
「リッちゃんは、動いている?誰かターゲットは見つけたの?」
と、僕が聞くと、
「いや、それが、仕事が忙しくて・・・」
と、りっちゃんは、口を尖らせる。
「それを言い訳にしていたら、この会社にいる限り、一生彼女なんて出来ないぜ」
と、イズミが強く言う。
「まあまあ・・・りっちゃんだって、彼女を作りたい気持ちはあるんだろ?まあ、りっちゃんの職場は長期出張も多いし、それはハンデになってる。これは確かだ」
と、ガオは、りっちゃんを擁護する。
「そうなんだよね・・・日々どうも仕事で一杯一杯になっちゃって・・・だいたい女性と出会うのって、どうすりゃいいの?」
と、リッちゃんは言う。
「ガオは趣味のサーフィンで、パパは大学時代の知り合い、俺は合コンで、それぞれ、彼女を見つけた・・・それを考えればいいんじゃん?」
と、イズミは言う。
「知り合いで、彼女になりそうな奴はいないから・・・趣味ったって、夜のドライブくらいだし・・・それじゃあ女性と出会えないし・・・」
と、りっちゃんは自分の可能性を確認している。
「あとは、合コンだけど・・・だいたい合コンでうまくいった試しがないんだよなあ・・・俺・・・」
と、りっちゃんは言う。
「俺みたいに、思い切って、女性が喜ぶような趣味をやればいいじゃないか。サーフィン、一緒にやるか?大自然の中、自然と格闘するんだ。楽しいぞ」
と、ガオが誘う。
「ガオさんは、そのいい身体があるから、いいけど・・・僕は女性の前で裸になれるような身体じゃないし・・・ほら、腹がぷっくり・・・」
と、りっちゃんは、すでに親父腹になった、お腹を見せる。
「うわ、やばいんじゃない、これ・・・」「うわ、どうしてこんなに・・・」「あちゃー・・・俺よりすごいな」
と、イズミも、ガオも、僕も言葉がない。
「あのさー、エッチする時って、相手の女性に自分の裸を見せる時なんだぜ・・・そのお腹を見たら、相手の女性、ヤル気無くすんじゃない?」
と、イズミは辛辣だ。
「やっぱ、そうかな・・・」
と、青い顔になって、汗をかくりっちゃん。
「わかった。まず、その腹をなんとかしよう。すべては、それからだ・・・」
と、ガオが叫ぶ。
「体脂肪を燃やすには、有酸素運動しかない。プールで毎日泳ぐか、自転車にある程度の時間乗るか、ウォーキングをするか・・・とにかく、毎日やること」
と、ガオは言う。
「毎日、少しずつでも、このどれかの運動をすれば、体脂肪が燃焼し、腹は、学生時代の頃に戻る。いいか、毎日が大事だ・・・」
と、ガオが言う。
「毎日か・・・」
と、リッちゃんが言う。
その時、僕は、アイリの言葉を思い出す。
「わたし、タケルを守りたいから、これから、毎朝、ウォーキングを始めるわ。まずは、15分から」
と、ある夜、ベッドの中で、アイリは僕に言った。
「俺を守るため?」
と、僕が聞くと、
「だって、タケルは私より年下だから、私はタケルより、長生きしなきゃいけないでしょ?だから、健康でいなきゃいけない・・・タケルをいつまでも守るためには!」
と、アイリはうれしそうに言う。
「わたし、タケルと長く一緒にいたいから、そのために、ウォーキングを始めるの。それで筋肉がついたら・・・ランニングをやるの!」
と、アイリはうれしそうに言う。
「ランニングが出来るようになれば・・・体力もつくし、タケルを本当の意味で、守ることが出来るようになる・・・だから、タケルの為に、走りたいの!」
と、アイリはうれしそうに笑った。
「僕の為に?」
と、僕が言うと、
「そう。愛するタケルの為に!」
と、アイリは幸福そうだった。
「りっちゃん、俺も毎朝、走るよ・・・とりあえず、自転車で・・・俺、付き合うよ・・・」
と、僕はリッちゃんに言っていた。
「おう、パパも走るのか・・・それはいい・・・パートナーが出来ると、長続きするからな・・・」
と、ガオはご満悦だ。
「パパ、ありがとう・・・でも、月曜日からでいいかな・・・俺自転車持ってないから、この週末で用意するよ・・・」
と、りっちゃんは言う。
「ああ、まずは、15分からだな・・・」
と、僕が言うと、
「ほう、パパ、始め方をよく知ってるじゃないか・・・」
と、ガオが言う。
「アイリがさ、毎朝、ウォーキングしてるんだ。俺より長生きしなくちゃって・・・俺を守るためにって・・・」
と、僕は言う。
「アイリさん、パパの為にウォーキングまで、してるんだ・・・長生きの為にって、どんだけパパを愛しているんだか・・・」
と、イズミが言う。
「ほんと、すごいな、アイリさんの愛は・・・」
と、ガオも感心する。
「ふうん・・・アイリさんの愛が、パパをどんどん変えてる・・・そういうことなのかな?イズミ」
と、りっちゃんが言う。
「うん。その通りだ。愛される人間というのは、どんどん、愛してくれる人間の為に変わっていく・・・そういうモチベーションになるんだ」
と、イズミは言う。
「だから、人生の中で、愛してくれる人間に出会うことは、絶対にやらなければ、いけないことなんだ」
と、イズミは確信を持って言う。
「ま、りっちゃんは、そういう人生で、とーーーっても、大事な仕事をこれまで、サボってきたことになるんだぜ」
と、イズミは辛辣に笑う。
「そうだな。恋人が自分の人生をドンドン良くしてくれる。それは真理だ。だから、俺達は恋人を持つようにしているんだ」
と、ガオは結論的に言う。
「それを知っているか、知っていないかが、大きいんだ。その差が、僕らとりっちゃんとの差なんだぜ!」
と、イズミが辛辣に言う。
「俺、がんばるよ。月曜日から・・・パパ頼んだぜ」
と、りっちゃんはしょんぼりしながら、僕に言う。
「ああ、がんばろう。俺もがんばらなきゃ、いけない。アイリの為に、身体を、もう少しシェイプしてあげたいからな」
と、僕が言うと、
「彼女の為に・・・か・・・モチベーションあがるだろうなー、それ」
と、りっちゃんが言う。
「ああ。そのために、彼女作ったんだし」
と、僕が言うと、
「よしわかった。とにかく、この三段腹をなんとかするところから、俺は、恋人探しを始めていこう!うん。それからだ、すべては」
と、りっちゃんは、自分の道を、ようやく見つけるのだった。
僕とガオとイズミは、静かに目を合わせて、微笑むのだった。
(つづく)
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「この時間に3人が揃っているのは、珍しいなあ」
と、ガオが笑う。
「そうだな。これはやっぱり、一杯いっとく?」
と、イズミ。
「そうだな。りっちゃんもいたから、りっちゃんも呼ぶか」
ということで、203号室は、たちまち飲み会の場所に変わったりする。
「ねえ、203号室はゴールデンルームに戻ったって、ほんと?」
と、りっちゃんが青い顔して、ガオに聞いている。
「ああ。もう、一ヶ月くらい前だったかなー。俺の彼女は藍ちゃん、イズミは愛ちゃんだよな。んで、パパは・・・」
と、ガオが言う。
「姉さん女房の、東堂アイリだ」
と、僕が言う。
「ひえー、ほんとだったのかー・・・俺出張してたから、知らなかったんだよねー。昨日、田村に聞いたんだけど・・・」
と、りっちゃんは同室のルームメイトの名前を挙げている。
「しっかし、こいつらは普通と違うとは、思っていたけど、3人共、早すぎじゃない?復活するの」
と、りっちゃんが呆れている。
「まあね・・・それだけ、皆、積極的ってことじゃないかな」
と、僕が言うと、
「いくら、積極的に行ってもさー・・・相手が自分のことを気にいってくれなければ、つきあえないじゃん!」
と、りっちゃんは、当然のことを言っている。
「でも、男から声をかけなければ、女性は絶対に動かないぜ」
と、イズミは当然のことを言う。
「そうだな。男はフラレてなんぼ・・・そのうちに、度胸も座ってくるし、女性にとって、好ましいってことは何かってのが、段々わかってくる。具体的にな」
と、ガオが言う。
「その具体的な何かって、何よ?」
と、りっちゃんは口を尖らせて言う。
「そうだな。女性を安心させる笑顔かな」
と、ガオは言う。
「うん。それはそうだな」
と、イズミも言う。
「確かに、笑顔は、重要」
と、僕も続く。
「それとさ、なんと言っても雰囲気さ。女性が好きになる雰囲気って、やっぱりある」
と、イズミは言う。
「うん。そうだろうな、自分を護ってくれる安心感とか・・・誰かさんは、女性に「守ってあげるから安心して!」って言われたらしいけどな」
と、ガオが笑う。
「え、それって・・・」
と、りっちゃんはちんぷんかんぷん。
「俺だよ。年上のアイリさんに「あなたのことを守るから、安心して」って言われたんだ」
と、少し照れながら、僕は言う。
「あのさ、それって、すごくない?・・・絶対に、そんなことを言ってくれる女性は、僕については、この世に存在しない」
と、りっちゃんは驚きながら、言う。
「まあ、パパは別格だよ。舞台女優のエイコさんには愛され・・・アイリさんって人も相当美人だぜー。パパ写真見せてあげれば・・・」
と、イズミが言う。
僕はアイリと二人で撮ったプライベート写真をりっちゃんに見せる。
「げ、なにこの美人・・・背もすらっとしていて、色も白くて髪の毛も長くて、ちょっとハーフっぽいじゃん・・・パパと二人、やわらかい笑顔で・・・うらやましい」
と、りっちゃんは、げんなりしている。
「まあ、パパは女性に愛される相なんだろうな。そうでなきゃ、そんなすごい美人達に、続けて、愛されるわけがない」
と、ガオは皮肉たっぷりに言っている。
「なあ、イズミ、このことは、どう考えればいいんだ?パパって、どういうところが、女性に愛されるんだ?」
と、りっちゃんが泣きそうになりながら、イズミに聞いている。
「そうだなあ。女性心理的に言うと・・・パパって守りたくなる要素を持っているんだよ。パパから聞いた話だと、いつも機嫌のいい少年みたいって言われているらしいから・・・」
と、イズミは話す。
「女性はそういう少年を守りたいものさ・・・だから、パパを守りたい女性がわんさか出てくる・・・そういうことだと思うね」
と、イズミは女性心理のプロだけに、現象の本質を見抜いている。
「ふうん・・・このパパがね・・・俺にはまったく理解出来ないよ・・・」
と、りっちゃんは、ビールをがぶ飲みしている。
「まあでも、男ってのは、女に惚れられて、なんぼだからな。女の扱いで、男の価値が決まってくる。だから、リッちゃんもがんばらないと・・・りっちゃんの浮いた話聞いたことないぞ」
と、ガオはツッコむ。
「そうだよ。いつも他人の話を聞いてばかりで・・・うらやましがっているだけじゃ、何も始まらないぜ」
と、イズミもツッコむ。
「そうだな。ガオもイズミも、動いているからな。一生懸命、彼女を作ろうと懸命に努力している。毎週末・・・俺だって自分で動いたから、彼女が出来たんだ」
と、僕は言う。
「リッちゃんは、動いている?誰かターゲットは見つけたの?」
と、僕が聞くと、
「いや、それが、仕事が忙しくて・・・」
と、りっちゃんは、口を尖らせる。
「それを言い訳にしていたら、この会社にいる限り、一生彼女なんて出来ないぜ」
と、イズミが強く言う。
「まあまあ・・・りっちゃんだって、彼女を作りたい気持ちはあるんだろ?まあ、りっちゃんの職場は長期出張も多いし、それはハンデになってる。これは確かだ」
と、ガオは、りっちゃんを擁護する。
「そうなんだよね・・・日々どうも仕事で一杯一杯になっちゃって・・・だいたい女性と出会うのって、どうすりゃいいの?」
と、リッちゃんは言う。
「ガオは趣味のサーフィンで、パパは大学時代の知り合い、俺は合コンで、それぞれ、彼女を見つけた・・・それを考えればいいんじゃん?」
と、イズミは言う。
「知り合いで、彼女になりそうな奴はいないから・・・趣味ったって、夜のドライブくらいだし・・・それじゃあ女性と出会えないし・・・」
と、りっちゃんは自分の可能性を確認している。
「あとは、合コンだけど・・・だいたい合コンでうまくいった試しがないんだよなあ・・・俺・・・」
と、りっちゃんは言う。
「俺みたいに、思い切って、女性が喜ぶような趣味をやればいいじゃないか。サーフィン、一緒にやるか?大自然の中、自然と格闘するんだ。楽しいぞ」
と、ガオが誘う。
「ガオさんは、そのいい身体があるから、いいけど・・・僕は女性の前で裸になれるような身体じゃないし・・・ほら、腹がぷっくり・・・」
と、りっちゃんは、すでに親父腹になった、お腹を見せる。
「うわ、やばいんじゃない、これ・・・」「うわ、どうしてこんなに・・・」「あちゃー・・・俺よりすごいな」
と、イズミも、ガオも、僕も言葉がない。
「あのさー、エッチする時って、相手の女性に自分の裸を見せる時なんだぜ・・・そのお腹を見たら、相手の女性、ヤル気無くすんじゃない?」
と、イズミは辛辣だ。
「やっぱ、そうかな・・・」
と、青い顔になって、汗をかくりっちゃん。
「わかった。まず、その腹をなんとかしよう。すべては、それからだ・・・」
と、ガオが叫ぶ。
「体脂肪を燃やすには、有酸素運動しかない。プールで毎日泳ぐか、自転車にある程度の時間乗るか、ウォーキングをするか・・・とにかく、毎日やること」
と、ガオは言う。
「毎日、少しずつでも、このどれかの運動をすれば、体脂肪が燃焼し、腹は、学生時代の頃に戻る。いいか、毎日が大事だ・・・」
と、ガオが言う。
「毎日か・・・」
と、リッちゃんが言う。
その時、僕は、アイリの言葉を思い出す。
「わたし、タケルを守りたいから、これから、毎朝、ウォーキングを始めるわ。まずは、15分から」
と、ある夜、ベッドの中で、アイリは僕に言った。
「俺を守るため?」
と、僕が聞くと、
「だって、タケルは私より年下だから、私はタケルより、長生きしなきゃいけないでしょ?だから、健康でいなきゃいけない・・・タケルをいつまでも守るためには!」
と、アイリはうれしそうに言う。
「わたし、タケルと長く一緒にいたいから、そのために、ウォーキングを始めるの。それで筋肉がついたら・・・ランニングをやるの!」
と、アイリはうれしそうに言う。
「ランニングが出来るようになれば・・・体力もつくし、タケルを本当の意味で、守ることが出来るようになる・・・だから、タケルの為に、走りたいの!」
と、アイリはうれしそうに笑った。
「僕の為に?」
と、僕が言うと、
「そう。愛するタケルの為に!」
と、アイリは幸福そうだった。
「りっちゃん、俺も毎朝、走るよ・・・とりあえず、自転車で・・・俺、付き合うよ・・・」
と、僕はリッちゃんに言っていた。
「おう、パパも走るのか・・・それはいい・・・パートナーが出来ると、長続きするからな・・・」
と、ガオはご満悦だ。
「パパ、ありがとう・・・でも、月曜日からでいいかな・・・俺自転車持ってないから、この週末で用意するよ・・・」
と、りっちゃんは言う。
「ああ、まずは、15分からだな・・・」
と、僕が言うと、
「ほう、パパ、始め方をよく知ってるじゃないか・・・」
と、ガオが言う。
「アイリがさ、毎朝、ウォーキングしてるんだ。俺より長生きしなくちゃって・・・俺を守るためにって・・・」
と、僕は言う。
「アイリさん、パパの為にウォーキングまで、してるんだ・・・長生きの為にって、どんだけパパを愛しているんだか・・・」
と、イズミが言う。
「ほんと、すごいな、アイリさんの愛は・・・」
と、ガオも感心する。
「ふうん・・・アイリさんの愛が、パパをどんどん変えてる・・・そういうことなのかな?イズミ」
と、りっちゃんが言う。
「うん。その通りだ。愛される人間というのは、どんどん、愛してくれる人間の為に変わっていく・・・そういうモチベーションになるんだ」
と、イズミは言う。
「だから、人生の中で、愛してくれる人間に出会うことは、絶対にやらなければ、いけないことなんだ」
と、イズミは確信を持って言う。
「ま、りっちゃんは、そういう人生で、とーーーっても、大事な仕事をこれまで、サボってきたことになるんだぜ」
と、イズミは辛辣に笑う。
「そうだな。恋人が自分の人生をドンドン良くしてくれる。それは真理だ。だから、俺達は恋人を持つようにしているんだ」
と、ガオは結論的に言う。
「それを知っているか、知っていないかが、大きいんだ。その差が、僕らとりっちゃんとの差なんだぜ!」
と、イズミが辛辣に言う。
「俺、がんばるよ。月曜日から・・・パパ頼んだぜ」
と、りっちゃんはしょんぼりしながら、僕に言う。
「ああ、がんばろう。俺もがんばらなきゃ、いけない。アイリの為に、身体を、もう少しシェイプしてあげたいからな」
と、僕が言うと、
「彼女の為に・・・か・・・モチベーションあがるだろうなー、それ」
と、りっちゃんが言う。
「ああ。そのために、彼女作ったんだし」
と、僕が言うと、
「よしわかった。とにかく、この三段腹をなんとかするところから、俺は、恋人探しを始めていこう!うん。それからだ、すべては」
と、りっちゃんは、自分の道を、ようやく見つけるのだった。
僕とガオとイズミは、静かに目を合わせて、微笑むのだった。
(つづく)
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