「ゆるちょ・インサウスティ!」の「海の上の入道雲」

楽しいおしゃべりと、真実の追求をテーマに、楽しく歩いていきます。

僕がサイクリストになった、いくつかの理由(25)

2012年09月10日 | アホな自分
「はー、はー、はー、はー」

7月のとある木曜日の朝、6:20頃、僕は自転車で、鎌倉は、建長寺の坂をひとりで登っていた。

「はー・・・よし、ここからUターンだ・・・華厳寮に帰ろう・・・」

と、僕は建長寺の坂を登り切ると、今度は逆戻りで、寮に戻っていく・・・。


「はー・・・走った走った・・・」

僕は寮に戻ると、シャワーを浴び、汗をかいたトレーニングウェアを洗濯機にぶち込み、部屋着に着替えて、203号室へ戻った。

ガオは出張に出ていて、イズミは朝からタバコを吸っていた。

「おはよう・・・パパ、ひとりで走っているんだって?」

と、イズミが聞く。

「ああ、りっちゃん、また、出張だって・・・8月末にならないと帰れないって言うから・・・」

と、僕は言う。

「リッちゃんの為の朝の自転車なのにな・・・ま、パパは理由があるから、いいんだろうけど」

と、イズミは僕がアイリの為に走っていることを理解している。

「まあ、そうだな・・・」

と、僕が言うと、

「ふ。パパ、今、アイリさんのこと、思い出してるだろ・・・朝から、さわやかな笑顔しちゃって・・・」

と、苦笑するイズミ。

「パパがうらやましいよ・・・恋人は人生を変えるって言うけど、パパを見てると、それがよくわかるよ」

と、イズミは言う。

「イズミ・・・お前、この間から、少し変だぞ・・・ひとのことをうらやましい・・・なんて、口が裂けても言わないお前が・・・」

と、僕が言うと、

「ん・・・ああ・・・さすがに友人の心情を見抜くのは鋭いな、パパは・・・」

と、イズミは言う。

「どういうことなんだ?」

と、僕が言うと、

「最近、愛とうまく行ってないんだ。少し歯車がきしみ始めている・・・そんな感じでね・・・」

と、イズミはしれっと言う。

「なにかとわがままを言い始めている・・・女性が今の関係に満足していない時に出てくる、よくある症状だよ・・・」

と、イズミは女性心理をしっかりと理解している。

「愛ちゃん・・・何に満足していないんだろ?」

と、僕がイズミに振ると、

「俺はどちらかと言うと、猫みたいなタイプだからな。楽しい時にはやさしくなるが・・・雰囲気がよくないと逃げ出す癖がある・・・それに満足してないんだろ」

と、イズミはちゃんと自分の事を分析している。

「ふーん、それを治すことは、出来ないの?」

と、僕がイズミに聞くと、

「癖は治すこと、出来ないだろ?」

と、イズミはタバコの煙を吐き出しながら、しれっと言う。

「ガオみたいに、「俺についてこいよ。楽しいもの見せてやるぜ」っていうタイプではない」

と、イズミは言う。

「パパみたいに、少年のように、女性から可愛がられるタイプでもない」

と、イズミは言う。

「俺は猫なんだ・・・楽しい時に楽しくして、辛い時はさっさと逃げ出すんだ。いいとこ取りしか、しないタイプなんだ」

と、イズミは言う。

「そういう意味じゃ、ガオは愛するタイプ。パパは愛されるタイプなんだよな。どちらも女性の固定ファン層がいる」

と、イズミは言う。

「イズミはプレイボーイ・タイプだろ。多くの女性から愛され、あこがれられ・・・好きな女を手当たり次第・・・見方を変えれば、そういうことなんじゃないの?」

と、僕が言うと、

「ポジティブに見ればね・・・でも、物事には必ずオモテとウラがある。僕をウラ的に見れば・・・責任を決してとらない、逃げ出し男さ・・・」

と、イズミは言って笑う。

「今はこれでいいと思っている。パパはアイリさんを心から愛しているだろ?俺はまだ、こころから愛せるおんなに出会っていない・・・」

と、イズミは辛辣に言う。

「え?愛ちゃんは、その程度のおんななの?イズミにとってさー」

と、僕が言うと、

「うん。今までつきあってきたおんな達と、さほど、変わらない・・・僕自身が「変わらなければ!」と思えるような、おんなでは・・・まだないね」

と、イズミは素直に言う。

「ふーん・・・そういうもんか・・・じゃあ、イズミは、本物のおんなを探す旅に出ている・・・そういうことなの?」

と、僕が言うと、

「そうだな・・・俺自身が「変わらなければ!」と思えるような女に出会う為の・・・それまでの長い旅を旅しているような、そんな感じかな・・・」

と、イズミはタバコを吸いながら、しれっと答える。

「そういうイズミの思いを、愛ちゃんが感じてるから、わがままを言って、反応を見ようとしているんじゃない?愛ちゃん」

と、僕が言うと、

「うん。それはそうかもしれないな・・・となると、そろそろ、別れドキ・・・ということになるんだけど・・・俺の中では、ね」

と、イズミは言う。

「ふーん・・・イズミの恋愛観って、俺とは違うな・・・まあ、そんなに焦らなくても、恋人は簡単に出来るイズミだから、こその・・・恋愛感なんだろうな」

と、僕が言うと、

「いいか、悪いかは、別としてね」

と、しれっと笑うイズミ。


「ガオはあの性格だろ。女を強く守ってやるぞタイプ。だから、モテる。パパは真逆で、真面目で素直な少年タイプだから、女性が思わず守ってやりたくなるタイプ。だから、固定層がいる」

と、イズミは解説する。

「ガオもパパも、真面目ってところが味噌でさ、責任感が強いんだよな。だから、女性は安心して尽くすのさ」

と、イズミは説明する。

「それに対して俺は、女性に真面目じゃない・・・むしろ憎んでいるところさえ、あるんだ・・・だから、女性に対して真面目になれない・・・だから、自然、一回の恋愛が短くなる」

と、イズミは言う。


「あのさ・・・イズミは、なんで、おんなを憎んだりしているの?イズミのどんな過去が、お前をそうさせているんだ?」

と、僕が聞くと、

「そうか。パパには・・・まあ、ガオにもだけど、話していなかったな、その話は・・・」

と、イズミは言う。

「まあ、難しい話ではないんだ。オレの母親、オレが中学1年生の時に、オレと父親を捨てて、男と逃げたのさ。それだけのことさ」

と、イズミはしれっと言う。

「俺の家庭はごく普通の家庭だった。親父は長野のホテルマンできっちりとして真面目な人間だった。母親は、そんな父と見合いで結婚したんだが・・・」

と、イズミは説明する。

「けっこう綺麗な母親だった。父親のいるホテルのレストランで働き出したんだが、母親の綺麗さが話題になって、客が増えたりしたんだ、そうだ」

と、イズミは言う。


まあ、イズミのイケメンぶりを思えば、その母親の美しさというのも、ある程度想像がつく。


「そしたら、母親は自分に自信過剰になっていったんだろうな。真面目だけがとりえの父親と喧嘩が増えて・・・そのうち、レストランの客だった若い男と逃げたんだ」

と、イズミはしれっと言う。

「それから地獄だったな。俺は早く独立したくて、勉強して中王大学に入学したんだ。父との同居を解消したくて、とにかく逃げるように東京に出た」

と、イズミは言う。

「それから、俺がイケメンであることが、女性を惑わすことを知った。俺は母親が憎かった。だから、その面影を利用して、女性に復讐してやろうと思ったのさ」

と、イズミは言う。

「だから、俺は、未だに女性に復讐し続けているのかもしれない。女性を惑わしてから、冷たくすることで、ね」

と、イズミは語った。

「そんな話があったのか・・・そんな背景が・・・」

と、僕が少し唖然とすると、

「その話がわかりゃあ、俺の行動の意味・・・パパなら読めるだろ、簡単に」

と、イズミはけろりとしている。

「確かに・・・イズミの行動のウラには、女への復讐心が色濃く見える・・・逃げるというのは、復讐だったんだな」

と、僕が言うと、

「ああ・・・多分、俺の中では、まだ、母親への復讐は、終わっていないんだと思う・・・それが終わった時にこそ、俺は変われる・・・今は、そう思っている」

と、イズミは少し晴れやかな顔で、僕に言う。


「人に歴史ありって、ほんとのことなんだな」

と、僕が言うと、

「まあな。俺もただ、生きてきただけじゃないんだ」

と、タバコを美味そうに吸う、イズミ。


「よし、そろそろ、朝飯いくか?」

と、僕が誘うと、

「了解」

と、立ち上がるイズミ。


お互い、朝の仕事が待っていた。


つづく

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