「ゆるちょ・インサウスティ!」の「海の上の入道雲」

楽しいおしゃべりと、真実の追求をテーマに、楽しく歩いていきます。

僕がサイクリストになった、いくつかの理由(26)

2012年09月11日 | アホな自分
「はー、はー、はー、はー」

7月のとある金曜日の朝、6:20頃、僕は自転車で、鎌倉は、建長寺の坂をひとりで登っていた。

「はー・・・よし、ここからUターンだ・・・華厳寮に帰ろう・・・」

と、僕は建長寺の坂を登り切ると、今度は逆戻りで、寮に戻っていく・・・。


「はー・・・走った走った・・・」

僕は寮に戻ると、シャワーを浴び、汗をかいたトレーニングウェアを洗濯機にぶち込み、部屋着に着替えて、203号室へ戻った。

ガオは出張に出ていて、イズミは朝からタバコを吸っていた。

「おはよう・・・朝の自転車は、気持ちいいかい?」

と、イズミが聞く。

「ああ、建長寺の坂はけっこうキツイけど・・・帰り道を走る頃には、ランナーズハイのような感じになっていて・・・身体全体が、気持ちいいよ」

と、僕は言う。

「りっちゃん・・・どんどんパパに置いてきぼりにされるな・・・それ」

と、イズミは苦笑している。

「まあ、でも、朝の自転車が、こんなに気持ちのいいモノとは・・・正直知らなかった・・・りっちゃんにお礼を言わないと」

と、僕が言うと、

「それは違うよ。パパがアイリさんを思う気持ちが・・・朝の自転車につながっているんだろ・・・だったら、お礼はアイリさんに言わないと」

と、イズミは的確に指摘する。

「あー、そうだったね。確かに、それはそうだ・・・」

と、僕は素直に頷く。

「パパはそういうところ、素直だよなー・・・昨日は俺が俺である理由を話したんだから、今日はパパ、話してくれよ。なんで、そんな少年のように、素直なんだ?パパは」

と、イズミが聞く。

「そうだな・・・俺が少年のように、素直なところか・・・まあ、多分だけれど・・・」

と、僕は少し考える。


「俺さ、生まれてから、6歳になるまで、母方の祖父母の家に同居してたんだ。簡単に言うと、サザエさん家みたいだったの」

と、僕は説明する。

「サザエさん家?」

と、イズミは聞く。

「母方の祖父母は、下宿屋さんをやっていてさ。それで収入を得ていたんだけど、うちの母は同居しながら、その仕事を手伝ってたんだ。朝食と夕食を出してたから」

と、僕は話す。

「大きな家でさ。二階に、3畳とか4畳半の部屋が、7個くらいあって・・・そこに若い男性がたくさん住んでいて・・・広い台所で皆、朝夕、食事をとるんだ・・・」

と、僕は話す。

「祖母と母と母の妹が食事の用意を手伝って・・・俺はそこのアイドルだったらしい・・・下宿の皆にかわいがられていたんだそうだ・・・」

と、僕は話す。

「祖父は頑固で怖いひとだったらしいけど、僕にはメロメロにやさしくて・・・まあ、カツオくん抜きのサザエさん家のタラちゃん役だったんだよ。僕は・・・」

と、僕は話す。

「だから、ただでさえ、タラちゃん、素直だろ?それがさらに、下宿の若者達のアイドルをやっていたんだから、カツオくんが6人も7人もいるようなもんだから・・・」

と、僕は話す。

「タラちゃん以上に素直になった・・・そういうことさ。それに祖母、母、母の妹と女性3人にかわいがられたから・・・女性にやさしくされるの、慣れているんだ」

と、僕は話す。

「7歳直前まで、そういう生活だったからね・・・だから、未だに少年のように素直だし、年上の女性にやさしくされるのが普通になっちゃったんだろうな」

と、僕は話す。

「なるほど・・・「三つ子の魂百まで」とは言うけど・・・俺の人生とは、正反対だな・・・パパはたくさんのひとに愛されて育ったんだね・・・」

と、イズミは話す。

「だから、少年のようなところがあるし・・・年上の女性が、やさしくしたくなるのか・・・よーくわかったよ、パパ」

と、イズミは話す。

「子供の頃の環境って、ほんと、性格や、その後の人生に大きな影響を与えるんだな・・・俺、それが今日、よーくわかった。実感した」

と、イズミは話す。

「そうか。俺も自分の過去を話してみて、はじめて今とつながっているってことを理解したよ・・・そうか・・・俺、タラちゃん以上にタラちゃんなんだな。今現在も」

と、僕は素直に話す。

「パパのダイヤモンドは、その少年のような素直さ、だな。俺のように、歪んだところがひとつもない・・・そこは素直にうらやましいよ」

と、イズミが話す。

「うらやましい・・・なんて、イズミが珍しいな」

と、僕が言うと、

「いや、マジさ・・・今日のパパの話で、いかに子育ての環境が大事か、切実に感じたからね・・・俺、子育ては失敗しないように、したいんだ」

と、イズミは真面目に話す。

「俺みたいな子供を育てたくないから・・・母親に裏切られて、女性を恨むようになるなんて・・・自分の子供を、そういう状況にはしたくない・・・」

と、イズミは言う。

「実際、俺だって、こんな人間になりたくて、なったんじゃない・・・だからさ・・・子供は、パパみたいに、素直な、誰にでも愛されるような人間になってほしい」

と、イズミは言う。

「その点だけは、素直に認めたいんだ。俺は」

と、イズミはタバコの煙を吐き出しながら、言う。

「そこは、素直なんだな、イズミ」

と、僕が言うと、

「ああ・・・俺も、パパやガオと同居して、この頃、よく自分を見つめ直すんだ・・・ガオはデカいし、なんでも、突破出来る強い奴さ。パパは素直。女性に愛されるくらい素直」

と、イズミは言う。

「ガオは女性を愛する側だし、パパは女性に愛される側だ。それに対して、俺は、女性を恨んでいる・・・このまんまで、いいのかって、俺は思っているんだ。俺なりに」

と、イズミは言う。

「女性を好きにはなる・・・横にいて欲しいと思うし、美人なら、なおさらだ・・・でも、どの女性もつきあっているうちに、なんだろうな、嫌悪感が湧いてくるんだ」

と、イズミはタバコを吸いながら話す。

「飽きちゃうんだな、多分・・・だって、女性は数学のように、法則さえ守れば・・・皆同じように反応するし、同じように落ちる・・・」

と、イズミは中王大学数学科卒らしく分析する。

「つまらなくなるのさ・・・美人であれば、美人なほど、「こんな簡単に落ちちゃうんだ・・・」って思ってさ。美人は3日で飽きる・・・その繰り返しだよ」

と、イズミは、イズミなりに悩んでいる。

「つまりは、俺はまだまだ、女を恨んでいる・・・母親を恨み続けているって、そういうことなんだろうな・・・」

と、イズミは答えを出す。


「なんか、終りのない袋小路に迷い込んでる感じだな、イズミの話は・・・」

と、僕が言うと、

「そう。そうなんだ。ほんと、パパの言うとおりなんだ・・・どうしたら、いいと思う?パパだったら」

と、イズミは珍しく聞いてくる。

「今のイズミに、どんな女が惚れても結果は同じだろう・・・なら、根本的治療を施すしか、ないんじゃないの?」

と、僕は言う。

「根本的治療?」

と、イズミはポカンとした表情をする。

「いやかもしれないけれど・・・逃げた母親を見つけ出すとかさ・・・その母親に直接面と向かって、面罵したら、イズミの気持ちも収まるんじゃないの?」

と、僕は言う。

「収まる・・・」

と、イズミ。

「つまりさ、イズミは母親に甘えたかったのに裏切られたから、そのお返しをしたいんだろ?それをつきあってる女性に代償行為をしているに過ぎない」

と、僕は言う。

イズミは僕を黙って見つめながら静かに聞いている。

「だから、母親に直接、お返しをすることが出来たら・・・その時、イズミの心は解き放たれるんじゃないのかな」

と、僕は言う。

「子供っぽいかな、その発想・・・」

と、僕が言うと、

「いや、パパの言うとおりだと、思う・・・確かに、俺は母の裏切り行為が許せないだけなのかもしれない・・・それで女性を愛せないんだよ、きっと・・・」

と、イズミは言う。

「探すのいやだな・・・正直、顔も見たくないからな・・・だけど、そんな母親の呪縛にかかっているってのは、もっといやだ・・・」

と、イズミは言う。

「パパ、ありがとう・・・なんとなく、絡まっていた糸がほどけるチャンスを見つけたみたいだ」

と、イズミは笑顔になる。

「パパと友人になれて、よかったよ・・・また、相談に乗ってくれ」

と、イズミはいい笑顔になる。

「いやあ、こんな俺でよかったら・・・いつでも、ね」

と、僕も笑顔になる。


「さ、朝飯食いに行こうぜ」

と、僕が誘うと、

「了解!」

と、笑顔で立ち上がるイズミ・・・。


鎌倉の朝は、気持ちのいい時間が流れるのだった。


つづく

→前回へ

→物語の初回へ

最新の画像もっと見る