「ステレオサウンド」の愛読者にはお馴染みのはずのこの本。
これを読んでシューベルトのピアノソナタ ニ長調のCDを買い求める人が果たしてどれくらいの確率で存在するのかはわからないけど、ともかく私はその一人だ。
迷うことなく(&"ある期待" も込めて)カーゾン盤(DECCA BEST)を購入。その期待を裏切ることなく、ニ長調ソナタとカップリングされている私の大好きな即興曲集(3、4番)が愛聴盤のホロヴィッツ盤、グルダ盤に並ぶ素晴らしさで、特に3番は素朴なタッチに込められた歌心とダイナミックな部分のバランスが絶妙。ニ長調ソナタは2楽章以降に惹かれた。
ゼルキンとルービンシュタインについて書かれた章も面白かった。
"マールボロ音楽祭で毎日朝早くからたどたどしくスケール練習を繰り返しているピアニストが後日ゼルキンだったと知り仰天した" というアーノルド・スタインハートによる回想の部分や、それとまったく対照的なルービンシュタインの華々しいエピソードの数々・・・どれも村上春樹というフィルターを通して読むと新鮮で実に面白い。
プーランクやスガシカオへの熱い想いやこだわりも他人事とは思えず本当に楽しい。
お昼時、人気のないイタリアンレストラン(最近の隠れ家のひとつ)で時にニタニタ、時に涙を浮かべながら読んでいた自分は端から見てきっと不気味だったに違いない。