カラヤンにまつわるエピソード本や伝記は数知れないが、今までまともに読んだことはなかった。
新書の棚に置いてあったこの本をたまたま手に取ってパラパラとページをめくっていたら、止めたページにこう書かれていた。
「だが、アバドは決して静かにベルリンを去っていったわけではなかった」
これを目にしてしまった以上、棚に戻せるはずがあるまい(笑)。
きっとカラヤンファンなら(いや、ひょっとするとファンででなくても)誰もが知っているようなエピソードばかりなのかもしれないが、自分には興味深くそのひとつひとつが新鮮だった。
大賀氏との交友関係や有名な山下一史の第九事件、そしてサントリーホール秘話などを通じてカラヤンという人間の魅力が見えてくる。
ちょうどこの本を読んだ日がたまたまカラヤンの命日(7月16日)だったのは驚きだった。帝王を偲んでウィーンフィルとの「悲愴」を聴いた。
アバドは "「後継者」たち" という章で取り上げられている。
どこかで読んだり聴いたりした話がほとんどだが、大好きなマエストロのことが様々な角度から語られるのは嬉しいものである。
それにしても、アバドにとってベルリンフィルの音楽監督12年間の集大成ともいうべき最後のコンサートを聴きに行けなかったことが今更ながら悔やまれる。