渇いたのどは、水を待ってましたと言わんばかりに一気に飲み干した。今までかかっていた草刈機のエンジン音は止み、聞こえてくる音と言えば、時々通る車の音がかすかに聞こえるだけだ。人工的な音と比べ、森から稲葉へと流れてくる風はさわさわと音を奏でている。「なんて気持ちいいのだろう。」名も知らぬこの木は自分に木陰を提供してくれ、「少し休んだらいい」と言ってくれているかのように熱くなった体を心地よく冷ましてくれる、愛情あふれる存在に感じられる。遠くではサギが餌を求めてしのび足でゆっくりと歩く。なんともおかしな格好だ。気づけば、自分の周りにもたくさんの生き物が－－蜉蝣、とんぼ、もんしろ蝶、くろアゲハ。周りに当りまえのようにいるこれら虫たちのことを、自分はどれほど知っているだろうか。彼らが自然界の中でどんな役割を果たしているのかなどほとんど知らない。－－ああ体が冷えてきた。名も知らぬ木さん、ありがとう。またひと働きしてくるよ。
