くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

大魔人(52)

2021-07-31 19:43:08 | 「大魔人」
 父親からは、携帯電話に、急な残業で遅くなる、とメッセージが入れられていた。虫の知らせか、胸騒ぎがしたのか、タイミングを同じくして、携帯電話の画面には、キクノさんや、アマガエルからの着信を知らせる通知が、何度も浮かんでは、消えていった。
 明かりの灯されていない部屋の一角には、明日10才になる真人の誕生会のため、用意されていた部屋の飾りが、手つかずのまま、袋に入れられていた。
 母親は、急に我に返ると、不審に思いながらも、インターホンの呼び出しに応えた。

「――はい。どちら様でしょう」

 聞き取れないほど低い声が、なにかの呪文のように、もごもごと聞こえてきた。
 まるで意味がわからなかったが、母親は、急に背筋を伸ばすと、「はい」と言って、玄関の鍵を開けた。
 ドアの外に立っていたのは、金色のあごひげを生やした、外国人だった。
「こんばんは」と、訪れた外国人は、きれいな標準語で、ネイティブと遜色のない発音で言った。
「――」と、母親はまばたきもせず、じっと外国人の目を見ていた。
「これを、あなたに」と、外国人は、神の奇跡が書かれた布教用のパンフレットを、母親に手渡した。「あなたの信仰に、全能の神が祝福を与えられますように……」
 と、最後はまた、もごもごと、呪文のような言葉を小さく唱えていた。
「――」と、母親は、ゆっくりと閉じられていくドアの前に、じっと立ちつくしていた。
 よく見ると、母親の口元がかすかに動き、ブツブツと、聞き取れないほど小さく、繰り返しなにかを言っているようだった。

 ブツブツブツブツ――……
 ブツブツブツブツ――……

 と、繰り返される言葉が、次第にその大きさを増していった。

 燃やせ燃やせ燃やせ、悪魔の住処を燃やせ――……
 倒せ倒せ倒せ、この世の悪魔を地獄に帰せ――……

 母親は、本人も気がつかないうちに、教団の使者から洗脳を受けていた。
 二人の姉弟も、父親も、おばあちゃんのキクノさんも、誰もが気がつかないうちに、計画は進められていた。
 恵果が誕生日を迎え、異常な行動を見せるようになった去年の、さらに1年前には、水面下ではあったが、すでに教団は動き出していた。
 弟の誕生日会が開かれる前日。家族が全員そろうこの日を待って、最終的な儀式が行われるはずだった。
 悪魔の化身といえども、その力が完全に発現していない子供の時分なら、家族がそろう時間は、無防備で、つけいる隙も多かった。
 トリガーは、布教用のしおりだった。
 郵便受けに入れられたしおりを、母親がひと目でも見たならば、目で追うその挿絵や文章自体に、黙読することで、洗脳する術が仕込まれていた。
 母親は、自分の中に、もう一人の自分がいるような感覚を、ずっと味わっていた。
 理由はわからなかったが、娘の恵果を見ると、いつも冷や汗を流すほど、怖さを感じた。
 しかし、恵果がそばにいると、その怖さは、嘘のように感じなかった。
 どうしてしまったのか? 姿が見えれば恐怖が自分を襲い、そばに来れば普通の感覚に戻る。
 原因がわからぬまま、病院にかかることもせず、母親として心苦しくなれば、人知れずしまってあった布教用のパンフレットを、そっと手に取った。
 恵果が異常な行動を見せるようになると、いぜんとして続く不安定な精神状態の原因は、こうなることを予感していたからか、とも考えた。しかし、恵果を元どおりに直そうとすればするほど、娘に対して抱く恐怖心は、ますます強くなっていった。
 気がつけば、娘がそばにいて、恐怖心を感じていなくても、恵果に、自分が不安定な状態になる原因を求め、つらく当たってしまった。
 深夜の家に一人、明かりも点けずにいたのは、その時が来るのを待っていたからだった。
 しかし、計画どおりには、行かなかった。
 時間になっても、子供達は戻ってこなかった。父親も、真士の10才の誕生日だから、と早く帰るように電話で念を押したが、結局は携帯電話に、“帰れない”とメッセージを送ってきた。いいわけがましく、明日の誕生会には、絶対に出るから、と追伸が送られてきた。
 遅くなってもいい。準備はおこたりなかった。家族が揃いさえすれば、自分の使命を、まっとうすることができるはずだった。神に与えられた仕事を、遂行できるはずだった。

 計画どおりにできなければ、どうすればいいのか――。

 ぼんやりとした焦りを感じていたところに、直接、指令が与えられた。
 玄関に現れた審問官を見たとたん、抱いていたすべての煩悶が、消し飛んでしまった。
 そして、新しく与えられた使命を果たすことが、なににも代えがたい幸福なんだ、とそう思えた。
 
 燃やせ燃やせ燃やせ、悪魔の住処を燃やせ――……
 倒せ倒せ倒せ、この世の悪魔を地獄に帰せ――……

 と、部屋に戻った母親は、飾りの入った紙袋の中から、ライターに補充するオイル缶を取りだした。
 ためらうことなく、部屋中にオイルを撒き散らした母親は、大きな声で言葉を繰り返しながら、バースデーケーキに刺されたろうそくではなく、部屋中に撒いたオイルに、マッチで火を点けた。
 ちろちろと燃え広がっていく炎を見ながら、母親はじっと立ちつくしたまま、黙って涙を流していた。



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よもよも

2021-07-31 06:31:43 | Weblog
はてさて。

いつまでたっても暑いままXXX

それでも昨日は旭川周辺で短い時間にまとまった雨。

でもさ、それって1番恐いヤツだよね。。

土砂災害警戒情報までセットになるのは、勘弁してほしい。

まぁ、長い目で見れば、

雪の降らない冬はないんだよね。。

たしかに、去年の大雪を思い出せば、

この暑さも天国に思えるわ・・・。

8月31日まで北海道は蔓延防止措置が適用になるんでしょ。

短い夏休みが1年に1回だけとれる時期だってのに、

どうすればいい??

そりゃ憂さ晴らしに外に出て暴れたくもなるわ。

サブスクなんて耳にするだけでやっちゃいないけど、

この1ヶ月だけでも大きく割引してくれりゃ、

映画でも見ながら部屋に閉じこもってるのも

多少は苦にならないんだけどなぁ・・・。

大人の世界はそんなに甘くないか??
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大魔人(51)

2021-07-30 19:22:47 | 「大魔人」
「――どこにいたんだ」

 いつからいたのか。いや、はじめからいたが、見落としていただけなのか。恵果が、後ろの座席に、うつむいた格好のまま、座っていた。
「怪我はしていないのかい。痛いところとか、あるのかな?」と、アマガエルが聞くと、恵果は、こくり、と頷き、また、首をわずかに振って見せた。
「今日はもう遅いから、寺に泊まって行きなさい」と、アマガエルは言った。「明日帰ったら、ご両親には、私から説明するから。無理をしないで、もう休んだ方がいい」
 バックミラーに写った恵果が、小さく頷いたように見えた。
 アマガエルは、アクセルをそっと踏むと、ゆるゆると、車を走らせた。
 ――――  
 寺に帰ると、アマガエルは客間に布団を敷き、恵果を通した。
 仕事がら、だいたいの世代が利用できる夜具やアメニティは、不自由がない程度に、揃えられていた。
 音もなく、浮かぶように歩く恵果は、車に乗っているときから、なにもしゃべらないままだった。
「ここに来る途中にあった、事務室にいますから。なにかあったら、呼びに来てください」と、アマガエルは言った。「――心配いりませんよ。ぐっすり、おやすみなさい」
 こくり、と頷いた恵果は、こちらに背中を向けて、ちょこんと座っていた。

 そして、その姿が、アマガエルが恵果を見た、最後だった。

 事務室のソファーで目を覚ましたアマガエルは、眠い目をこすりつつ、大きく伸びをした。

「ふぁぁー」

 と、いつもの習慣で、思わず電源を入れたテレビに写ったのは、深夜に起きた火災の映像だった。
 駆けつけた現場のリポーターが、息を切らせながら、なにかを必死に伝えていた。
 激しく燃え上がる映像に見入ったアマガエルには、しかし、なにも耳に入らなかった。
 見覚えがあるその建物は、子供達の家に違いなかった。
 どうして――と思いつつ、アマガエルは、恵果のいる部屋に急いだ。
「ケイコちゃん」と言いながら、アマガエルは部屋の扉を開けた。
 しかし、どこに行ったのか、恵果の姿は、どこにもなかった。まるで、布団に入った様子がないほど、敷かれたままの布団が、冷たく広げられていた。
 つん、とした空気の冷たさを鼻の奥で感じつつ、アマガエルは、上着を片手に寺を飛び出し、子供達の家に向かった。
 途中、携帯電話をかけてみたが、呼び出し音に代わって、人工的なメッセージが、事務的に聞こえてくるだけだった。
 ――子供達の家が近づくにつれ、ニュースで火事を知ったのか、ざわざわと野次馬の姿が目立ってきた。
 集まってきた人を避けつつ、家に向かうと、“子供達がいないんだって”“子供が見あたらないんだって”と、ひそひそと話す声が、あちらこちらから聞こえてきた。

「キクノさん」と、アマガエルは手を挙げて言った。

 眼帯をした、警察らしき男と話をしていたキクノさんは、アマガエルを見つけると、震える手を弱々しく挙げた。
 家のそばに来たときから、目を背けたくなるような焦げ臭い匂いが、辺りに漂っていた。
 すっかり燃え落ちた家の周りには、消火作業を終えた消防車と、パトカーが何台か残り、現場検証なのだろうか、黒く燃え落ちた家の跡を、せわしなく行き来していた。
「大丈夫ですか」と、アマガエルが言うよりも早く、キクノさんは、真っ赤な目をして、泣きながら言った。
「どうしちまったんだろう。洋子さんが火をつけたんだって。子供達が、まだ見つからないんだって。二人とも、姿が見えないんだって」
「――」と、アマガエルは、なにも言葉が出せなかった。

「私がそばにいながら、すみませんでした」と、やっとそれだけ、言うことができた。

「あんたが謝る事なんてないんだよ」と、キクノさんが言った。「私が一緒にいてあげれば、こんな事にならなかったんだ。子供達のそばにいてあげれば、助けてあげられたんだ」
「子供達のお母さんは? 父親は、ツグヒロさんは、どこにいるんですか」と、アマガエルは言った。
「二人とも、警察に行ったよ」と、キクノさんは、鼻をすすりながら言った。「洋子さんは、逮捕されたんだって。連絡をもらって来たときには、もう、捕まった後だったよ」
 うつむいたキクノさんは、持っていたハンカチで、ひしと両目を押さえた。
「――」と、アマガエルは、かすかな湯気をくゆらせる火事の跡を、歯を食いしばりながら、じっと見ていた。

 ――――……

 ニンジン達を乗せた車が、公園に戻ってきたころ。子供達の家のインターホンが、不意に鳴った。
 すっかり夜も深まり、誰もがそれぞれの居場所で、くつろいだ時間を過ごしているかもしれなかった。
 子供達のいない家の中は、不自然なほど、しん、と静まり返っていた。
 カーテンも引かず、明かりも点けていない部屋の中、窓に向かってじっと正座をしている母親が、呆けたように窓の外を見上げていた。



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よもよも

2021-07-30 05:40:02 | Weblog
はてさて。

夜になって一瞬雨が降ってきたのはわかったんだけど、

あわてて窓閉めるまでもなく、

止んじゃった・・・。

涼しい風が吹いてきたのもわずかな時間で、

またぞろ熱波に変わってた。とほほ。。

暑いせいか出張行くと観光で来てるバイクが目立ってたけど、

北海道また蔓延防止措置になるんでしょ??

正式なアナウンスまだないけどさ、

8月一杯って、長っXXX
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大魔人(50)

2021-07-29 19:21:51 | 「大魔人」
 と、アマガエルが、車の中を覗きこんだ。
 後ろの席には、誰もいなかった。運転席にも人はいなかったが、助手席にぐったりと、ニンジンが頭を垂れて座っていた。
「大丈夫ですか!」と、あわてたアマガエルは、助手席に回って、ドアを開けた。
「――」と、アマガエルは、言葉を失った。
 ニンジンが、暗い中でもそれとわかるほど、バケツの水を頭から被ったように、血まみれだった。
 アマガエルは、がっくりと頭を垂れているニンジンの体を起こすと、どこかに傷口がないか、手探りで確かめた。
 どこにも、傷口らしいものはなかった。
「子供達は、どこにいるんですか――。子供達は、どこか知りませんか――」
 消え入りそうに息をしているニンジンに、アマガエルは、繰り返したずねた。
「――まことを、助けてやってくれ」と、聞き取れないほどの声で、ニンジンが、うわごとのように言った。「Kちゃんは、助けられなかった。くそう――助けてやれなかった」
「まったく。無茶したみたいですね」と、アマガエルは、くやしそうに舌打ちをした。「しっかりしてください。今すぐ病院に向かいます」
 助手席のドアを閉め、アマガエルが振り返ると、薄ぼんやりとした中に、恵果が、黙って立っていた。
 不意なことに、ぞくりっ、と驚いたアマガエルは、思わず足を止めた。

「――ケイコちゃん、だよね」

 と、アマガエルは、やさしく声をかけた。
「無事だったんだね」と、アマガエルは言った。「――弟は?」
 と、恵果はうつむいたまま、小さく首を振った。
「車に、乗れるかい」と、アマガエルは、後部座席のドアを開けた。恵果は、音もなく車に近づくと、静かに席に座った。
「――これから、病院に行くからね」と、アマガエルは、恵果に声をかけつつ、ドアを閉めた。
 アマガエルは、急いで運転席に回った。ドアを開けると、当然だが、キーは差されたままで、エンジンもかけられていた。しかし、誰が車を運転して、ここまで走らせてきたのか。せかすようにアイドリングしていたことを考えると、誰かが、運転席にいたはずだった。事情を知っているだろう二人に、しかし今は、話を聞ける状況ではなかった。
「どこか、怪我はしていないかい」と、運転席に座ったアマガエルは、恵果を振り返って言った。しかし、うつむいたままの恵果は、なにも答えなかった。
 バックミラーに写る恵果を心配そうに見ながら、アマガエルは、ハンドルを握り直して、車を発進させた。
     
 大通りにある救急病院は、いつになく、急患で混雑していた。
 救急車を呼んだ方がよかったかな、とも思ったが、理由を説明することを考えると、自分が連れてきて、正解だったかもしれなかった。
 アマガエルは、ニンジンの腕を肩に回したまま受付を済ませると、堅いベンチに腰を下ろした。明るい照明の下でも、どこかに怪我をしていないか調べてみたが、確かめた限り、血を流すような傷は、どこにも負っていなかった。頭から血を浴びたようなニンジンの姿を見て、前を通り過ぎて行く人は、誰もが目を背けた。
「ここで待っていてください」と、アマガエルは、立ち上がって言った。「ケイコちゃんを連れてきます」
 と、ニンジンは、力なくアマガエルを見ると、意味ありげに首を振った。
「――」と、アマガエルは違和感を覚えつつも、急いで駐車場に引き返した。
 急ぎ足で車に向かいつつ、ポケットから取りだした携帯電話で、子供達の家に連絡を入れた。しかし、何度呼び出し音が鳴っても、誰も電話を取らなかった。
 あわただしさに苛立ち、舌打ちをしつつ駐車場にやって来たが、車で待っているはずの恵果の姿は、どこにもなかった。
 車を離れて、どこに行ったのか――。
「ケイコちゃん!」と、アマガエルは、名前を呼びながら探したが、誰一人、答える者はいなかった。
「一人にさせるんじゃなかった……」と、アマガエルは唇を噛んだ。
 常識離れな経験をして、発作的な混乱を起こし、訳もわからず、飛び出して行ったのでは? とも考えたが、残っていた気配を頼りに移動を試みても、その場から、一歩も動くことはなかった。
 小さく、まぶたをひくつかせたアマガエルは、地団駄を踏みつつ、待合室に戻った。

 ニンジンは、思っていたよりも重傷だった。
 全身のあちらこちらが、硬く、例えるなら、石のように強ばっていた。
 皮膚が硬く引きつる、といったことではなく、文字どおり鉱物のように、体の一部が変化したような症状だった。
 すぐに入院をすることになったが、頭から被ったような血の原因は、結局わからなかった。
 病院に自分の連絡先を教えつつ、車に戻ったときには、もうすっかり日付が変わっていた。
 運転席に座ったアマガエルは、この足で警察に行ったほうがいいか、迷っていた。
 警察に行けば、いろいろと事情を聞かれるはずだった。なんと答えればいいか、考えても、なにもいい案は浮かんでこなかった。
 子供達の両親は、帰ってこない二人の事を、身を切られるほど心配しているに違いなかった。
 電話に出なかったのも、子供達を探して、留守にしていたからなのかもしれなかった。
「――」と、顔を上げたアマガエルは、いなくなった恵果を捜すため、やむを得ず警察に行こう、と決めていた。
 と、アマガエルは驚いて、後ろの座席を振り返った。




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よもよも

2021-07-29 06:12:48 | Weblog
はてさて。

嫌に暑かったXXX

毎晩窓全開にしてるんだけど、

涼しい風が吹いてくるのは4時過ぎ頃。。

眠れるのはそこからなんだけど、

二度寝したら今度は起きられなくってつらい・・・。

それにしても、うるさいくらい五輪のニュースばっかで、

なんかもうお腹いっぱい。。

感激の押し売りされてるみたい。

かと思えば、過去最高の新規感染者数だって。

北海道も右にならえなんだけど、

政府は知事が申請してる特別な措置を

まだできることがあるとかなんとかで先延ばしにしてるみたい??

ワクチンの接種はまだ済んでないしさ、

人から移されるのも移すのも、職場にも周りにも迷惑かけるから、

なんとかして欲しいんだよなぁ・・・。

なんとかして欲しい。
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大魔人(49)【9章 犠牲】

2021-07-28 19:30:34 | 「大魔人」
         9 犠牲
 最後にニンジンと連絡が取れたのは、今のように、すっかり日が落ちてしまう前だった。

“――広いところで待っててくれ”

 と、それを最後に、ぷつりと声が聞こえなくなってしまった。
 ニンジンを乗せた車ごと、子供達の家の真上から、仕掛けられた「為空間」に入りこむまでは、ぼんやり予想していたとおりだった。
 空間が連続しているとは思ったが、屋根に衝突する直前、為空間に飛びこんだ車から、ドアごと瞬間移動したのは、冷や汗ものだった。
 まかり間違えば、車の重量を背負ったまま、ぐんぐんと勢いを増した重力加速度ごと、屋根に叩きつけられていても、おかしくはなかった。
 外れた助手席のドアを抱えながら、まるで携帯電話のように耳を当てている姿は、知り合いには見せられないほど、滑稽に違いなかった。
 ドアのある場所に戻ってくるということは、このドアを持って行く場所に、ニンジンと子供達は、戻ってくるはずだった。
 アマガエルが真っ先に思い浮かべたのは、競技場だった。
 しかし、サッカーやラグビーができるような大きな競技場は、アマガエルのいる子供達の家からは、遠すぎた。
 ニンジンは、もう少し時間がかかる、と言ってはいたが、正直、日常では想像もできない場所に行っている状況で、その言葉を鵜呑みにするのは、危険すぎた。
 遠く離れた競技場に到着する途中で、三人が車ごとこちらに戻って来てしまったら、どんなことになるか、予想がつかなかった。
 なにか連絡があるかも、と重いドアを抱えて、耳を当てていたアマガエルは、近所の公園に、ナイター照明の設備がある、広い野球場があるのを思いだした。
 9月に入っていたが、草野球のリーグ戦は、盛んに行われているようだった。
 急ぎ公園に向かうと、電源を落とされたナイターの照明が、まだ足元がしっかり見えるほど、淡く点っていた。
 試合こそ終わっていたが、まだそれほど時間は経っていないらしく、プレーに汗を流した選手達の体温が、誰もいない球場に、草いきれに混じって、もわりと漂っていた。

 アマガエルは、ピッチャーが立つマウンドにドアを置くと、少し離れて、じっと様子をうかがっていた。
 ――――  
 と、なにも起こらないまま、時間ばかりが過ぎていった。わずかに、悲鳴ともとれる音が何度か聞こえたが、それだけだった。耳を澄ませても、しんとした冷たい息が、白く吐き出されるだけだった。
 カチリッ――と、頭上で機械音が聞こえた。ナイター照明が、すっかり消えてしまった。
 辺りが、とたんに夜に包まれた。気温も、何度か急に下がったように感じられた。
 静まり返った球場に、楽しげに歌う虫の声だけが、コロコロコロ……と、聞こえていた。

 と、マウンドに置いたドアが、ガタガタガタッと、激しく揺れ始めた。
 こんもりと土を盛られたマウンドの下から、なにか巨大な生き物が、うなりを上げて飛び出してきそうな、そんな雰囲気だった。
 固唾をのんだアマガエルは、動き出したドアからさらに離れ、心持ち身構えながら、じっと息をひそめていた。

 ブロロロロン――……

 と、聞き覚えのある排気音が、どこからか聞こえてきた。
 壊れていなきゃいいけど――と、アマガエルは車の心配をしながら、次第に大きくなってくる車の排気音に、緊張感を高めさせていた。
 はっ、として、アマガエルは振り返った。
 ドアの所に出てくるとばかり思っていたが、夜空に輝く星よりもずっと低い場所に、まぶしいヘッドライトが、にわかに現れた。マウンドを照らし出したヘッドライトは、為空間から戻って来た車のものに、違いなかった。
「――うっ」と、目を開けていられないほどのまぶしさに、アマガエルは、思わず手で光をさえぎった。
 爆音を轟かせながら、なにもない空間から不意に現れた車は、地面に着地した勢いをそのままに、マウンドを飛び越し、横向きにタイヤを鳴らしながら、球場の砂を舞い上がらせて、停止した。

 ブロロン、ブロロロン。ブロロン……

 停止した車は、アイドリングをしたまま、ヘッドライトで、マウンドを照らし続けていた。
「――」と、様子をうかがっていたアマガエルは、なにも動きがないのを不審に思い、そっと、車に近づいて行った。
「誰か、いないんですか?」と、ヘッドライトを手で遮りながら、アマガエルは、車の横に回りこんだ。
 見る限り、どこも壊れてはいないようだった。外れたドア越しに話をしたときは、目も当てられないほど、大きく壊れたようなことを言っていたのだが……。
 と、アマガエルが運転席に近づこうとしたとたん、マウンドに置いてあったドアが、飛び上がった。宙に浮かんだドアは、強力な磁石に引きつけられたように、勢いをつけながら、車にぶつかっていった。
 宙を飛んだドアは、ガガン――と、金属同士がこすれ合う耳障りな音を立てながら、元どおり、車の助手席に収まっていた。

「誰か、いませんか――」





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よもよも

2021-07-28 06:10:10 | Weblog
はてさて。

仕事から帰ってきて深夜だったけど、

ケータイになんじゃらサービス終了のメッセージ。。

しかたがないんでニュース片目にサイトに繋いで手続き??

のはずが、2段階認証だかでパスコードを別の端末に送りましたって。。

だけど送られて来てなくって、

どうなってんだって、あれやこれや苦しみまくって、

もうこうなったら、暇見てショップに行けばいいさ。。

放り出したら、しばらくしてサイトに繋げられて、

なんぞと思って見れば、さんざん苦労してもネットに繋げられなかったのに、

さっきまでなかったアンテナマークが表示されてて、

でも正直、なんで繋がったんだかわからない??

ただ、眠気と疲れが残っただけXXX
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大魔人(48)

2021-07-27 19:34:40 | 「大魔人」
「おまえは、崩壊しかけた為空間に倒れていたんだ」と、審問官は言った。「ニコライが脱出口を作って助け出したが、そうでなければ、いまごろ自分が作った空間とともに、バラバラになっていただろう」
「おまえの意識が戻らないので、審問官の力を借りたんだ」と、ニコライは困ったように言った。「俺の意志だけを、おまえの中に潜りこませたんだ」
「我々が行けないところに、行っていたらしいな」と、ヨハンは言った。「ニコライの意志を飛ばして様子を見に行かせたが、それが正解だったらしい」

「――ありがとうございました。審問官様」と、ニコライは言った。「後の処理は――」

「いい加減にしろ」と、ヨハンは二人に言った。「おまえ達が余計な事をしてくれたおかげで、計画にない処理をしなければならなくなった」――もう、この件には関わるな。と、ヨハンは苛立ちながら言った。

「申し訳ありませんでした」と、イヴァンは言った。

「ただ、魔人が目を覚ますとは思ってもいなかったので、対応するしか、なかったのです」と、イヴァンは、申し訳なさそうに言った。「ですから、担当から外す事だけは、ご容赦ください」
「――」と、ヨハンは唇を一文字に結んだまま、フンと、鼻を鳴らした。「おまえ達には違う任務がある」

 と、イヴァンとニコライは、意外なことに驚いて、ヨハンの顔を見た。

「最近この辺りで、時間を飛び越える青い色の鳥が見つかったそうだ」と、ヨハンは言った。「それを追え――」
 イヴァンとニコライは、どこか疑問に思いながらも、
「わかりました」
 と言って、頭を下げた。





数術師
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よもよも

2021-07-27 06:16:04 | Weblog
はてさて。

仕事から帰ってきてニュース見れば

いきなり

「13才、真夏の大冒険」

なんぞと思って見れば、スケートボードでしょ。。

チャンネル変えても、

同じコメントが耳に入ってくるし、

狙って言ってるわけじゃない? のかもしれないけど、

歴史に傷跡残す気満々だよなXXX

普通の人が急に表に出てくるみたいのって、

いつも似たようなシチュエーションの短編思い出すんだけどさ、

急に有名になった普通の男が、

どこに行くにもみんなに追いかけられて

追い詰められてくってやつ。。

世にもなんちゃらいうドラマにもなったことあるけど、

これからいつまでもついて回られると思うと、

かわいそうなっていうか、気の毒な感じが強いかなぁ・・・。
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