くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

大魔人(23)

2021-07-02 19:15:12 | 「大魔人」
 少女の異常な行動は、少女の近くにいるクラスメートや、担任の先生、もっと広げれば、隣り合った教室の生徒、小学校の先生達。もっと範囲を広げれば、口伝えのうわさ話は、かなり広範囲にまで伝わっているかもしれなかった。
 ただ、まだニュースになったり、電子媒体になって人々の間に知れ渡っている、という状況ではなかった。
 もっと勘ぐれば、これからなのかもしれなかったが、一番そばにいるだろう母親は、そのような動きがあるとは、ひと言も話さなかった。人目につくことは避けたい、といった母親なら、嘘をついているはずもなかった。
 思わぬ存在がいることがわかり、アマガエルは、困ったように頭を掻いた。
 肌寒い木枯らしが、街路樹の散り落ちた落ち葉を揺らして、アマガエルの足元を吹き過ぎていった。

 寒っ……。

 季節に合わないシャツ一枚のアマガエルは、思わず肩をすぼめた。
 と、風に吹かれた落ち葉が飛ばされたあと、大きく顔を出した硬い歩道が、ちらりと目に入った。
 なにが気になったのか、はじめは自分でもよくわからなかった。しかし、立っている場所をわずかに変えると、光の加減によって、なにか細い、線のような物が引かれているのがわかった。
 近所の子供達の落書きでは、とすぐに思い浮かんだが、遊びで書かれた感じではなかった。もっと幾何学的で、複雑な模様のようにも見えた。
 そこで、アマガエルは、はっと息を飲んだ。
 どんな筆記具で書かれたものかもわからない、その絵のような物は、自分が職業としている僧侶に近い、加持祈祷や、もしかすると、呪術の方がしっくりくるのかもしれなかった。もし、いたずら書きではないとすれば、これを書いたのは、それらの知識を持った人間に、間違いなかった。
 だとすれば、これを書いた人間は、この場所を、どこかで観察しているはずだった。
 今さらだが、アマガエルは、誰かと待ち合わせているのを装い、手持ちぶさたに腕時計を見ながら、時折遠くを見やった。
 足元に書かれた線は、奇妙なことに、靴底でこすっても、にじむどころか、ましてや消すこともできなかった。
 それならば、と、試しに経典の中に書かれた呪文の部分を、いくつか思い出して唱えてみた。破邪の言葉やら、魔物よけとか伝えられる言葉を、覚えている限り試してみたが、まるで効果がなかった。
 もっとも、知っているというだけで、摩訶不思議な呪術の修行など、したことがなかった。実際に効果があるとしても、それじゃ成果を出すのは無理に違いない、と、アマガエルは恥ずかしそうに、笑顔を浮かべた。

「――しかたないな」

 と、わざと声に出して言ったアマガエルは、歩いて、小学校に戻ることにした。
 今朝と同じように小学校の門を通り過ぎようとすると、一人の女の子が、小走りに玄関を出てくるのが見えた。
 あと1時間もすれば、今日の授業はすべて終わるはずなのに、と思って見ると、キクノさんの孫の、恵果ちゃんに違いなかった。
 アマガエルは、すぐにピンときた。早退の理由は、おおかた、大量の羽根アリが発生した原因が、自分の仕業と疑われたので、居心地が悪くなったため、なのだろう。かわいそうに。
 アマガエルは、あとをつけていると気取られないため、校門をいくらか通り過ぎ、少女が少し離れたところで、向きを変えた。
 どうして急いでいるのか、少女は同じ小学生がいない通りを、息を切らせながら、ぐんぐんと先に進んで行った。
 グラウンドに現れた羽根アリの大群は、夕暮れてきた空の向こうに飛び去っていったが、物珍しい光景に目を奪われた大人達が、何人か空の向こうを見て、目を細めていた。

 と、再び、奇妙な模様が描かれていた場所に来て、アマガエルは足を止めた。
 書いた人間が、その様子を見ているかもしれなかったが、そんな視線など、気にしている場合ではなかった。
 さきほど、靴でこすっても消えなかった線が、跡形もなく消え去っていた。
 自分が立ち去ったあとは、ほかの誰も、ここを通ってはいないはずだった。
 恵果ちゃんが一人、走り去っていっただけだった。
 目を凝らして見ても、道路に書かれていた線は、多少の痕跡すらも、まったく残っていなかった。

 ――やはりあれは、なにかの呪術に違いない。

 少女が狙われていた、と考えるのは、早急に過ぎるかもしれない。しかし、グラウンドに群れ出た羽根アリと、走り過ぎていった訳ありの少女とを考えると、やはり関係がないとは、言い切れなかった。
 アマガエルは、ゆっくりと少女のあとについていった。
 少女の背中は、小さいが、つかず離れず、視線の中に入っていた。
 と、ぞくりとした、痛いほどの視線に気がついた。
 小学校の屋上で感じた、気味の悪い視線と、同じものだった。
 その視線は、少女のあとについていくアマガエルのあとを、やはり追いかけてきていた。
「――」
 と、アマガエルは歩きながら、わざと後ろを振り返らず、あとをつけてくる視線の主に、注意を払っていた。
 少女が、無事に家の中に入ったのを確認すると、アマガエルは立ち止まり、携帯電話を手に取って、後ろを振り返った。




コメント
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よもよも

2021-07-02 06:13:58 | Weblog
はてさて。

五輪の選手団がぞくぞくやって来てるらしい。

選手はそりゃやる気満々なんだろうけど

知事がコメントでマラソンの応援は自粛して、

なんて見聞きしちゃうと、

世界の選手様々で、地元住民も国民も後回しって感じで、

ちょっとムッとするよね。。

まぁ、海外の人達との接触避けて、

感染させたりさせられたりってリスクを下げるって意味もあるんだろうけど、

こっちだって毎日不便な生活してんのに、

何週間もさらに不便かけさせられるのに、

なんかつまらんね。

札幌も冬季オリンピック誘致しようとかってキャンペーンやってるけど、

この状態続くなら、やめた方がいいよね。。

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