くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

狼おとこ(20)【3章 事件】

2022-02-28 19:53:53 | 「狼おとこ」
         3 事件
 一ヶ月ほど経ったある日、町に一台の馬車がやって来た。短いタラップから下りてきたのは、ケントとの婚礼を控えたエレナ、その人だった。
 面長な顔に知性を感じさせる瞳を輝かせ、きりりと引き結ばれた薄い唇は、意志の強さを思わせた。白い鍔広の帽子の下にのぞくのは、しかし疲れ切った老婆のような影だった。帽子と同じく白いドレスは、都会の匂いをぷんぷんと漂わせ、往来を行く人々をあこがれの羨望にさせた。燦々と降り注ぐ陽光に目を細め、日傘を差すその仕草は、弱々しい肢体からは想像もできないほどいまいましげで、神経質だった。
 馬車の奥から、もう一人、タラップを下りてくる者があった。身なりのしっかりした若者で、エレナを見下ろして立つその姿は、たくましさに溢れていた。知性を感じさせる目はエレナにそっくりで、太い眉は男らしかった。薄笑いを浮かべる顔はしかし憎々しげで、人好きのしないものだった。
 御者が荷物を下ろし、走り去ると、二人はそれぞれに大きな鞄を持ち、グリフォン亭を探して歩き始めた。
 広い通りに出ると、荷物を積んだ馬車を先頭に、一群の町の男達が手に手に銃を持ち、足早に二人の目の前を通り過ぎていった。何事が起こったかと心配げに見守るところへ、正装したケントが「やあ」と言って現れた。
「ケント!」と、エレナは嬉しそうに叫ぶと、満面に笑みを浮かべながら、ケントの首に抱きついた。
「おいおい、重いじゃないか、それに人が見てる」と、ケントは顔をほころばせながら言った。
「いいじゃない。愛してるわ――」
 二人は抱き合い、しばらくお互いの温もりを感じ合うようにじっとしていた。
「元気だったかい、エレナ?」
「ええ。でも、あなたにいつ会えるのかしらって、ため息ばかりついていたわ」
「ごめん、ぼくもいろいろあってね。手間取っていたんだ」
 エレナは微笑みながら首を振ると、ケントに若者を紹介した。
「息子のトムよ」
 エレナが言うと、トムはこくん、と照れたようにお辞儀をした。
「やあトム。お母さんから話は聞いていたが、ずいぶんとたくましいね」
 今年で――? とエレナを向くと、ケントに十六よと囁いた。
「――十六だったな。娘のアリエナと二つ違いだ。甘えん坊な娘だから、お兄さんができて嬉しいだろう」
 さあ、とエレナの荷物を手に取ると、ケントは先に立ってグリフォン亭に案内した。エレナはケントの腕に手を回し、そっと頭をもたれた。
 グリフォン亭の前では、使用人と共にアリエナが出迎えた。エレナと挨拶を交わすアリエナは快活で、その姿からは、悲しみにうちひしがれていたことなど、想像もできなかった。
「こんにちは、エレナさん。お久しぶりです」
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よもよも

2022-02-28 05:47:26 | Weblog
やれほれ。

一週間に1日しかない休みだってのに

目が覚めてからずっとウクライナの情報ばっか

気にして、しがな1日追いかけてた・・・。

教科書でしか習わない組織やら期間やら経済やらの

情報がいろいろ走りまくってるけど、

どっかの局のコメンテーターも言ってたけど

白黒の映像しか残ってないような

第二次大戦の頃と構造的にはぜんぜん変わってないのよね。。

おまけに国連ってば、今回の主人公と裏番長みたいなアジアの国が

常任理事国張ってるんだよねXXX

こんな組織うまく行くんか??

はーあ。

いまんとこだけど、どう考えても、不安しか感じられない。。

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狼おとこ(19)

2022-02-27 19:38:19 | 「狼おとこ」
「なに言ってるんだよ」と、バードはとがめるように言った。「親方には娘さんがいるんだ。おれよりもちょっと年下のね。でも、もう学校も終わりだから、きっと親方は、店を継がせるために、おれと婚約させると思うんだ」
「名前は?」
「ダイアナさ」
 バードは、馬にひとつ鞭をくれた。
「いいなあ」と、グレイはつぶやいた。「ぼくも、店が持てるようになったらなぁ」
 グレイが、はぁ――と、ため息をつくのを聞いて、バードが言った。
「おまえ、おかみさんとこへ、見習いに入ったんだろ」
 グレイはなにも答えなかった。
「おかみさんと、契約したんじゃないのかい?」
 グレイはしばらく黙っていたが、疲れたように言った。
「ぼくは、さっきのやつが言っていたように、本当に物乞いなんだ」
 バードがちらりとこちらを見た。
「ただ、ひと晩泊めてもらおうと思って、おかみさんの所へ行ったのさ。そしたら、おかみさん、ここで働けって、ちょうど人がいりようだったんだ、そう言ったんだ――」
「おれもな」と、バードがまた、遠くを見つめるように言った。「おれも、ひとりぼっちなんだよ」
 グレイは、思わず息を詰めた。次第に深まり行く夕暮れの中、からからという車輪の音が、やけに大きく感じられた。
「おれ、神父様に拾われたんだ。ほら、おまえ見ただろう、鍛冶屋の前をずっと行くと、とんがり帽子の屋根をした建物。あそこで、拾われたんだ。
 おまえと同じさ。自分で歩けるようになって、善悪も判断できるようになってから、今の親方んところへ見習いに出されたんだ。いや、最初は見習いじゃなく、ただの小間使いだった。親方がおれを見習いにしてくれたのは、何年も経ってからのことさ。だからおまえだって、そのうちちゃんと、見習いにしてもらえるよ。それで辛抱して、ちゃんと一人前になったなら、もう大手を振って生きていられるさ」
 バードはグレイの方を向くと、こくんとうなづいて見せた。グレイは戸惑いながらも、こくりとうなずいて、それに答えた。
 馬車は、もうオモラの家へ続く小径のそばまで、やって来ていた。
 グレイは、オモラのことを思い浮かべていた。親切で、たくましく、まるで母親のようにかわいがってくれるおかみさん。バードが言ったように、きっとおかみさんは、ぼくをちゃんとした見習いにしてくれるだろう。そして、カッカともども、一人前に鍛えてくれるだろう。グレイにとって、これほどの幸運はまたとないものだった。けれど、グレイの心は、馬車に吊されたカンテラと同じだった。火を灯されていないカンテラは、透きとおってはいるが、馬車にゆらゆら揺られているだけで、明るく輝いてはいなかった。
 宵の明星が、上弦の月のそばで瞬いていた。グレイの体が、かすかにうずき始めていた。
 ぷつぷつとしたかゆみを感じて、グレイは指で襟首の辺りを掻いた。
 ざりざりと、硬い獣の毛が、音を立てた。
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狼おとこ(18)

2022-02-26 20:13:31 | 「狼おとこ」
 自室に走りこみ、ベッドに突っ伏したアリエナは、むせび泣いていた。胸には、しっかりと母親の写真が抱かれていた。数少ない思い出が、昨日のことのように思い出された。
 母の名は、アリスといった。遠い祖先は貴族ということで、どこか身なりのしっかりとした、優しい人だった。都会育ちで、ろくに苦労もしてこなかった彼女が、時代から取り残されたようなこの町で暮らすには、どれほどの苦労があったことか。アリエナはよく、父が母を怒鳴りつけているのを見たことがあった。拳を振り上げながら怒る父の前で、母はしきりに謝りながら、頭をたれていた。父が出て行き、アリエナが心配して近づくと、涙を急いでぬぐいながら、なんでもないのよ、と微笑みを浮かべた。その微笑みがとてもさびしくて、どこかへ飛んでいってしまいそうなほど空虚だったので、アリエナは母の懐に顔をうずめながら、次から次へと、流れ出る涙が涸れるまで、泣き続けるのだった。
 アリスが神に召されたのは六年前、アリエナが八歳の時だった。肌が綿のように白く、ただでさえ弱々しい彼女の顔がこけ始めたのは、はた目にも明らかだった。病床に就いた彼女は、何度か医者にかかったが、アリエナは立ち会えず、ケントが医者に変わって説明した。父はいつも、風邪だ、と言うきりだった。病床につく日も数を増し、月が変わっても、母が患っている病気のことを、父はただの風邪と言い張った。
 病床から、コホン、という咳ではなく、断末魔にも似た叫びを聞いて、アリエナは止められていたにもかかわらず、思い切って母の病室のドアを開けた。ベッドから這い出し、苦しそうに床の上でもがく母は、口から血を吐いていた。
 アリエナの悲鳴を聞き、大あわてで駆けこんできたケントは、その時はじめて、母が不治の病であることを告げた。
 母親のアリスは、その翌日、亡くなった。
 アリエナの手を最後にしっかりと握りしめ、あのたまらなく優しかった笑顔を浮かべながら、こと切れた。閉じられたまぶたの間から、ひと筋の涙が、流れ落ちた。その涙がゆっくりと頬を伝わり、枕に吸いこまれて消え去るまで、アリエナは嗚咽を洩らさなかった。そして、母の温もりがなくなるまで、泣き続けた。


 バードは馬車を御しながら、まだ先ほどの興奮が冷めやらないまま、話していた。
「あいつら、今に見てやがれ。おれの見習いがあけたら、必ずとっちめてやる」
「え、もう見習いがあけるの?」と、御者台の隣に座るグレイが訊いた。
「――もうそろそろ、だな」
「もうそろそろって、いつさ。そしたら、自分の店を持つのかい。それとも、どこかへ働きに行くのかい」
「どこかへ行くってのも、悪くないな――」と、バードは遠くを見るように言った。
「どうするのさ?」
 グレイがせかすように言うと、
「おれは、親方の後を継ぐのさ」
 と、バードが笑って答えた。
「親方の後って、まだ親方は、元気じゃないか」
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よもよも

2022-02-26 06:07:16 | Weblog
やれほれ。

ニュース見てると、

なんかとうとう時代が変わったんだって

そんな気がする。。

世代的に教科書でしか知らない戦争が、

すぐそこまで近づいてる気がする。

海を越えてやってくる恐怖が、

そう遠くない将来に抗しがたい津波になってやって来そうだわ。

昔の戦争映画で描かれるような

独裁者に向けた怒りとか憎しみとか、

そんな感情が物語の主人公を通したものじゃなく、

リアルな自分の心情になって実感する。

言葉をいくつ持ってても、鉄砲の弾にはかなわない。

そんな勝手なルールを振るってくるなら、もう言葉を使うのは無意味な気がする

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狼おとこ(17)

2022-02-25 21:52:50 | 「狼おとこ」
 トーマスは、泣きながら歩き去るダイアナに、なにひとつかける言葉もないまま、ほかの三人と共に、しばらくその場に立ちつくしていた。


 夜、仕事を終えたアリエナの父、ケントは、グリフォン亭の一角にある居間にいた。食堂の喧噪も嘘のようにかき消え、泊まり客と使用人をのぞき、ゆったりと落ち着いた時間を乱す要因は、なにひとつなかった。
 ビロード張りの椅子に深々と腰をかけ、じっくりと、味わうようにブドウ酒を飲んでいた。
 そこへ、目を赤く腫れあがらせたアリエナが、燭台を手にしながら、ゆっくりと近づいてきた。
「おや、アリエナ、まだ寝てなかったのか。夕食にひと口も手をつけていなかったが、なにかあったのか」
 アリエナは、ケントの後ろにある赤々と燃える暖炉の前に立つと、言った。
「お父さん。あたし、友達から聞いたの――」
 グラスを運ぶケントの手が止まった。
「お父さん。エレナさんと、再婚するんですってね」
「おまえ、それを誰に――」
 アリエナは暖炉の上、小さな額に入れてある写真を手に取ると、燭台の炎をかざした。
 写真には、にっこりと微笑む女の人が写っていた。明るいその眼差しは、アリエナの眼差しとそっくりだった。
「お母さん……」
 アリエナは思わず声を洩らした。その声は、はっきりとした悲しみを含んでいた。
「アリエナ、すまん。もう少し時間がたってから、言おうと思っていたんだ
 おまえ――」を傷つけるつもりはなかったんだ、と言いかけたところへ、アリエナがきつい口調で切り出した。
「お父さんて、いつもそう。もう決めてしまっているのに、もうわかっているくせに、その時がくる直前まで、なにも教えちゃくれない」
「悪かった。許してくれ。そんなつもりじゃなかったんだ」
 ケントはグラスを置くと、アリエナのそばに寄って来て言った。許してくれ、とつぶやきながら、そっと両手を広げた。抱き寄せようとしたその手をすり抜け、アリエナは抗議の色をたたえた目で父親を見た。

「いくら謝ったって、お母さんは帰って来やしないわ」

 アリエナは居間を飛び出すと、力まかせにドアを閉めた。
 ケントはなすすべもなく、ただぼう然と、喉がからからに乾くのを感じながら、立ちつくしていた。
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よもよも

2022-02-25 06:00:34 | Weblog
やれほれ。

ヨーロッパが大変なことになってるっていうのに、

デジタルに変える前に使ってた

アナログの電話ソーラー腕時計。

外に出しときゃいいだろ。

思って使わないまんま引き出しの上に置きっぱだったんだけど

何気なく目に付いたんでひさびさ見てみると、

??

秒針は動いてるけどぜんぜん違う時刻を指してる・・・。

10年は経ってないけど、しばらく使ってたからそろそろ寿命か??

思ってはみたけどそんな簡単に壊れんだろ??

使い方説明書探しても見つからないし、やっとこネットで見つけて

時刻合わせ試してみたけど、

ボタンまでおかしくなったのか1ミリも動かない。

しばらくあれやこれやいじり倒して、

そのうち意味の無いアラームが鳴り出して止めるのにまたひと汗かいたりして、

結局、カーテンの向こうの窓枠のスペースに日中置きっぱにしといたら、

復活してた・・・。

思わず頭の中でLISAの曲が流れてたもんな・・・。

日の呼吸はやっぱ最強だわ。
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狼おとこ(16)

2022-02-24 19:41:18 | 「狼おとこ」
「なんだおまえ、まるで紳士みたいじゃねぇか」と、親戚のじいさんは、しょぼついた目でトーマスを見ると、背広の襟をつかんで引っ張った。
「この生地はどこから盗んできたんだ、おい。親父がばくちで儲けた金か?」
 隣のテーブルで飲んでいた男達が、話を聞きつけて爆笑した。トーマスはじいさんがつかんだ襟を力ずくで引き離すと、恥ずかしさのあまりうつむいた。
「よお、そこにいるのはトーマス坊ちゃんじゃねぇか。靴屋は儲かってるかい? それとも、親父はまたばくちで負けたか?」
 トーマスのまるで知らない赤ら顔の男が、肩に手をかけ、酒臭い息を吐きかけながら言った。
 男が言ったとたん、今度は店中の人間が大笑いした。中には腹を抱えて、今にも死にそうなほど笑っている者もいた。給仕が注文をとりにきたが、その給仕もにやついた笑いを浮かべていた。
「トーマス――出ようぜ」と、アルが耳打ちするように言った。
 トーマスはなにも言わずうなずくと、耳たぶまで赤くしながら、席を立った。

「トーマス、親父によろしくな」

 と、じいさんが店を出ようとするトーマスに向かって言った。大きな笑い声は、閉めたドアの外までも、はっきりと聞こえてきた。
「あ、アリエナだ」と、店を出てすぐ、チャールズが指を差した。アリエナは、ダイアナと並んで歩いていた。今までダイアナの家にいたらしく、アリエナだけ、教科書を持っていた。向こうもこちらに気づいたらしく、なにやらひそひそと耳打ちしては、含み笑いを浮かべていた、
 アリエナがなにげない顔で通り過ぎようとすると、トーマスが声をかけた。
「よう、アリエナ、今帰りかい」
「あんたこそ、また家で酔っ払ってきたんじゃないの」と、アリエナが無愛想に言うと、ダイアナがくすりと笑った。
 さきほどのこともあり、あせったトーマスは、取り繕うように言った。
「なあアリエナ、おまえんとこに、新しい母さんが来るんだってな。おめでとう」
 アリエナが、急に青ざめておとなしくなった。ダイアナが異状に気がついて、どうしたの、とアリエナの肩を揺すりながら訊いた。
 トーマスは、アリエナの意外な反応に驚いていた。ほかの三人までもが、アリエナの様子を心配げにうかがっていた。
 アリエナの目に、涙が浮かんだ。ぶるぶると唇が震えていた。
「――さよなら」
 アリエナはうつむきながら言うと、走り出した。ダイアナはその後を追いかけようとしたが、アリエナ、と名前を呼んだだけで、それ以上追いかけようとはしなかった。
 グリフォン亭のドアが閉まると、ダイアナはぎろりとトーマスを睨んだ。
「どうして、あんなひどいこと言うの?」
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よもよも

2022-02-24 06:09:55 | Weblog
やれほれ。

昨日はたまの祝日で朝から浮かれてたんだけど、

いつもの通り除雪して食事終わったら

ついうとうと・・・。

ついうとうとが、ついついうとうとになって、

結局ネコ型ロボットのマンガよろしく

眼鏡の主人公みたいに座布団ひとつ枕にして

ゴロゴロしてた。

あっという間に午後になって、自分の状況にマンガかって舌打ちしたけど

やっと起き上がって外見てみれば、

また雪が降ってた・・・。

やっと起き上がったけど、とたんにやる気がゼロ。

週の真ん中の祝日はこれだから困るんだよなぁ。。

って、カレンダーのせいにしてみるXXX

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狼おとこ(15)

2022-02-23 19:24:27 | 「狼おとこ」
「ああ、なんともないよ。ちょっと腹が痛むだけさ――」
「ちきしょう――あいつら」
 バードは小さくなっていく学生の後ろ姿を、歯を食いしばりながら、燃えそうなほど力のみなぎった目で睨んでいた。


「おい、あのダイアナんとこの見習い、今日はやけに恐かったな」
「ケッケッ……。ああ、顔を真っ赤にして、マサカリ持ち出しやがった」と、体格のいい一人が言った。
「なぁトーマス。それにしてもあのチビ、このへんじゃ見たことないぜ」と、ひょろりと背の高い一人が、ニキビ面の学生に言った。
「どうでもいいさ。どっちみち貧乏な労働者に変わりはないんだから」と、四人の中では一番背の低い、一人だけ帽子を被った学生が言った。
 と、「はっは、ジャックの言うとおりだ」四人が傑作だというように大笑いをした。
「なぁ、アリエナんとこに行って、腹ごしらえでもしていかないか」
「おれチャールズに賛成」と、ニキビ面のトーマスが、体格のいい仲間の提案に賛同した。
「ジャックとアルは、どうする」
「おれ達も行くよ」と、二人そろって答えた。
「よし、それじゃ行こうぜ」
 トーマスが先頭になって歩き出した。その横にチャールズが来て、もったいぶるように言った。
「トーマス、おまえ知ってるか?」
「なにがだよ」
「アリエナんとこに、今度新しい母ちゃんが来るらしいぜ」
「どういうことだよ」と、トーマスは怒ったように訊いた。
「アリエナの親父さんが、再婚するらしいんだ。父さん達が話してたのをちょっと耳にしただけなんだが、ロンドンに仕事で行ったとき、知りあったらしいぜ」
「ロンドンか――もしかしたら、あいつ向こうへ行っちまうのかな」
「いずれは、そうなるかもな。早くアリエナの気ひかなきゃ、置いてかれちまうぜ」
「この野郎、からかうなよ」と、トーマスは真っ赤になって、チャールズの胸を小突いた。


 グリフォン亭は、いつものように客でごった返していた。奥様連中もがらの悪い男達も、口々になにかを言いながら、それぞれに盛り上がっていた。四人は奥の壁際に空いているテーブルを見つけると、人をかき分けながら進み、席に着いた。
 テーブルにはしかし、あいにくと先客がいた。飲みかけのジョッキを持つ白髯の年寄りが、先に座っていた。
「おお、ばか息子のトーマスじゃねぇか、元気でやってるか、おい――」と、老人は、トーマスに遠慮する様子もなく言った。
 トーマスも知っている親戚のじいさんだった。トーマスは冷や汗をかきながら、ぺこりとお辞儀をした。
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