今日のことあれこれと・・・

記念日や行事・歴史・人物など気の向くままに書いているだけですので、内容についての批難、中傷だけはご容赦ください。

籔入り

2007-01-16 | 行事
今日(1月16日)は「籔入り」
昔、商店に奉公している人や、嫁入りした娘が、休みをもらって親元に帰ることができた日。この日と7月16日だけ実家に帰ることが許されていた。
「籔入り」と言う言葉も現代では余り聞かれなくなったが、年配の人には、この言葉に若き日の特別の思いのある人もいるだろう。奉公先の主人の家で束縛されていた奉公人が半年振りに休暇を貰って命の洗濯の出来る日だった。
江戸時代、薮入りは、はじめは正月16日だけで、先祖の墓参りなどとされていたが、やがて、閻魔信仰(十王信仰 )の浸透とともに、地獄の釜の蓋が開くと考えられた正月16日・7月16日の閻魔参りの日(初閻魔、閻魔賽日、十王詣とも言われる)となったといわれている。広辞苑によれば、盆の休みは「後の藪入り」といったそうだ。この薮入りの基層部には、主人のもとに従属していた奉公人また、夫のもとにその行動を縛られていた妻などの解放日、つまり、なにをしても許される自由な日という意識が強く流れていたようだ。
閻魔参りの日のことについては、前に以下のブログで書いたのdで、興味のある人は見てください。
「閻魔賽日,十王詣の日」↓
http://blog.goo.ne.jp/yousan02/e/38a03b811938177f752f5c63c179aee9
このような、解放の日、自由の日が、「籔入り」といわれるようになったのは、正月16日の「初山の日」(「山入り」の日に同じ)からきたものであろう。
「初山の日」は、山の神を祀る日であり、新年になって、初めて山に入って予習行事を行う日、また、山仕事を休む日であった。以下参照↓
景観コンテスト:福島県只見町「山入りの行事」
http://www.maff.go.jp/soshiki/koukai/muratai/21j/no7/mura02.html
森鴎外の小説『山椒大夫 』を知ってますか。1954(昭和29)年溝口健二監督がこの小説を同名で映画化し、ベネチア国際映画祭銀獅子賞を受賞した作 品であるが、森鴎外の小説『山椒太夫』は説教節『さんせう太夫』を下敷きにして書かれたものである。「説経節」と聞くとお坊さんの説く「お説教」を連想するかもしれないが、その通り関係がある。
「説教」は、本来、仏の教えを人々に説き教えることだが、娯楽の少なかった中世の時代、寺に説教語りのうまい僧がいると人気が高まり人々がこれを聴きに集まったという。これが大衆芸能として転化したものが「説経節」となるが、ただ、説経節を語る者は僧ではなく、だった。各地を放浪しながら民衆に説経節を聞かせることで、生計をたてていた。『山椒太夫』の主人公は、安寿と厨子王丸 の話は、説経節が衰退しても、物語自体は義太夫節や、あるいは浄瑠璃の枠を越えた歌舞伎の題材となっている。また、こども向けに改変したものは、近世になり絵本などの書物にて児童文学ともなっている。私は、この映画を学校から見に行った記憶がある。
物語では、筑紫の国に行ったまま消息のわからない父親を探しに、越後までやってきた母と安寿と厨子王の姉弟は、ここで人買いにだまされて、母親は佐渡へ、姉弟は丹後の由良の港に住む山椒太夫のもとへ売られる。山椒太夫の屋敷で、姉の安寿は汐汲み、弟の厨子王は山へ柴刈と、二人は過酷な労働を強いられる毎日をおくる。ある日、姉は、母から託された守り本尊の地蔵を、弟に渡し屋敷からの逃亡をうながす。ためらう弟を逃がした後、姉は入水自殺をとげる。厨子王は追っ手をのがれて国分寺に逃げ込む。・・その後苦労の末、父の跡を嗣いだ厨子王は、正道と名を改め、天皇から丹波の国司に任ぜられる。出世した正道は、母を迎えに佐渡に渡り、「厨子王恋しや」の歌を頼りに、落ちぶれた母親と涙の対面をした。鴎外作『山椒太夫』の感動的な結末である。
暗い内容の映画なので子どもには、余り面白いといったものではなかったが、とにかく、山椒太夫を演じた悪役・進藤英太郎 の小憎らしさ、こんなに憎たらしい奴はいないと、それがものすごく印象に残っている。それだけの名優であったというべきだろう。
鴎外は、説経のあらすじをおおむね再現しながらも、親子や姉弟の骨肉の愛を描いた文学作品として、人の心を打つが、鴎外は人間の感情の普遍的なあり方に比重を置くあまり、原作の説経が持っていた荒々しい情念の部分を切り捨てた。原作の『さんせう太夫』では、厨子王は、母を救出する一方、丹後国分寺の庭に「さんせう太夫」一門を呼び寄せ、太夫の三男三郎(初山の計画を立ち聞きされ焼きゴテを額に当てられるなどの折檻を受けている)に、命じて、父太夫の首を竹鋸で3日3晩引かせる極刑をもって報いている。この安寿と厨子王が蒙る、悲惨な拷問の場面や、厨子王が後に復習する際の凄惨な光景など、本来説教者がもっとも力を入れて語ったであろうと思われるこうした部分は切り捨てているという。そのことについては、以下参考の「説経の世界 (壺 齋 閑 話)」中にある以下のページを詠むと良くわかる。
さんせう太夫(山椒大夫―安寿と厨子王の物語)↓
http://blog.hix05.com/blog/2006/12/post_48.html
いずれにしても、この説教節『さんせう太夫』と鴎外の小説『山椒太夫』でも、姉の安寿が弟厨子王に逃亡を進め奴隷から開放をめざして、決行した日は、「初山の日」であった。
このことからも、当時の人々がこの日の「山入り」が主人の束縛から解放常態におかれると考えていたことが伺える。この正月16日は、山の神の祭日として、特別な時間的意味を持っていたのであるが、中世においては、祭礼の日一般が、日常的時間と異なる秩序を現出させる日として存在していたようであり、戦国時代においても、祭礼の日は、休戦となり、その日は、敵味方の区別なく祭りに参加した例が多く見られ、祭礼の日は、主従の関係だけでなく、敵対関係をも消滅させてしまう聖なる時間として存在していたのだそうだ。
中世においては「山に入る」と言う言葉は、特別な空間に入る意味にも使用された。そして、逃亡下人や犯罪人が保護を求めて寺院などに駆け込むことを、当時「山林に入る」「山林する」などといったそうで、厨子王もお寺に逃げ込んでいる。
また、百姓が領主の追及をのがれ、山野に逃げ込む逃散(ちょうさん)を「山野に交わる」・「山入り」・「山上がり」などと称したそうだ。これは、「山」という空間が山の神の支配する聖なる場として、俗権力の秩序とは別の秩序が存在する空間と考えられ、ここに入ることにより、俗界の諸関係が消滅してしまうという社会観念に基ずく行為であったという。そして、この「山入り」は「薮山に入る」・「藪山に籠もる」などとも言われた。又、当時の百姓は、逃散の際、山入りするだけでなく、自らの家や田畑を領主の没収から守るため「篠(ささ)を引く」・「柴(しば)を引く」といって、家や田畑を篠や柴で囲って、薮林・山林のようにし、ここは「山林不入地」であると称し、領主に対抗した慣習を生み出したことが知られることから「山入り」と「藪入り」は本来同意であった事が確認されているそうだ。(週刊朝日百科『日本の歴史」)
このように、厨子王の主人のもとからの逃亡は、その主従関係が切れると考えられた聖なる日と聖なる空間へ入ることを通して行われたのであり、やがて、江戸時代になって、このような、時間・空間が俗界の優越的秩序の進行とともに。「薮入り」と言うかたちで、主従関係にも「解放の日」「自由な日」として定着していったと考えられている。明治末以降、親元にも帰らないで東京で休日を過ごす奉公人達に一番人気があったのが浅草見物だった。仲見世や見世物小屋、活動写真館は終日、小遣いを懐にやってくる奉公人で賑わったという。薮入りの習慣は戦後も一部で残っていたというが労働基準法の徹底などで、今では形骸化している。
戦後では、働く人の権利が大きくなり、このような「藪入り」どころか、今では、完全週休2日の上に祝祭日も含むと年間120日(約3日に一度)以上もの休みがあるところが多くなっているが、それでも、尚、女房や子供と過ごせる時間が少ないなどと言っている人が多いようだが、今生きている人の中にもこの薮入りしか休めなかった経験を持った人がいることを思い起こしてみるのも良い事だろう。そして、それらの人達の努力の積み重ねの中から、今の幸せな時代が築かれてきたことを考えれば、もう少し、お年寄りを大切にしなければとの気持ちも湧くのではないかと思うのだけれどもね~。
(画像は、薮入り。「江戸府内絵本風俗往来」。里帰りを終えて主人の家に再び戻ってきたところ。NHKデータ-情報部編・ビジュアル百科「江戸事情」より)
参考:
十王信仰 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%81%E7%8E%8B%E4%BF%A1%E4%BB%B0
景観コンテスト:福島県只見町「山入りの行事」
http://www.maff.go.jp/soshiki/koukai/muratai/21j/no7/mura02.html
安寿と厨子王丸 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%89%E5%AF%BF%E3%81%A8%E5%8E%A8%E5%AD%90%E7%8E%8B%E4%B8%B8
古浄瑠璃・説経節関係
http://www.ksskbg.com/joruri/index.html
説経の世界 (壺 齋 閑 話)
http://blog.hix05.com/blog/2006/12/post_47.html
図書カード:「山椒大夫」著者名: 森 鴎外  (青空文庫)
http://www.aozora.gr.jp/cards/000129/card689.html
山椒大夫 - goo 映画
http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD23934/index.html
歴史探訪 日本史編 第6回◆安寿と厨子王伝説考
http://www.kirihara.co.jp/scope/SEP98/tanbo1.html
「哀れみていたわるという声」
http://www5b.biglobe.ne.jp/~kabusk/geinohsi10.htm

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