備忘録として

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騎馬民族征服説

2014-01-11 21:35:51 | 古代

NHKの「ダーウィンが来た」でモウコノウマ(蒙古野馬 写真はNHKWeb-siteより)を観た後、大河ドラマ「軍師官兵衛」のオープニングに空駆ける白い馬が出てきたことから、「スーホの白い馬」を思い出した。教科書にある感動のモンゴル民話である。

両親をなくした羊飼いの少年スーホは草原で弱っている白い仔馬を見つけ、連れ帰って世話をする。白い馬はスーホの世話で元気を取り戻し2人で草原を駆け回り兄弟のように成長する。数年後のある日、王様の競馬大会の勝者はお姫様を嫁にすることができるというお触れが届く。自分たちがどれだけ早いかを知りたくてスーホは競馬大会に参加する。競馬大会で優勝したスーホをみた王様はみすぼらしい少年に姫をやることはできないと、金貨3枚を与えてスーホを追い払い、白い馬をスーホから取り上げてしまう。王様の隙をみて逃げ出した白い馬は家来たちに追いかけられ体中に矢を受け、傷ついた体でスーホの家に戻ってくる。瀕死の白い馬は翌日スーホの腕の中で死んでしまう。夢の中に出てきた白い馬のお告げに従い、スーホは白い馬の体で琴を作る。こうしてできたのがモンゴルの馬頭琴である。

世界で唯一の野生馬だったモウコノウマは、1960年代に一度は絶滅したが、家畜だったモウコノウマを野生に戻すことで、現在はモンゴルの自然保護区に200頭程が生息しているという。下北半島に数十頭いるという寒立馬(かんだちめ)は、蒙古馬と日本馬を掛け合わせた混血馬で、掛け合わせのために蒙古馬が輸入されたのは、平安時代、15世紀、あるいは17世紀の南部藩の時代だともいわれる。魏志倭人伝には卑弥呼の時代、日本列島には馬はいなかったと書かれている。ところが、聖徳太子が法隆寺から飛鳥まで片道10㎞はあろうかという太子道を馬で通ったように6世紀から7世紀には騎乗の習慣があった。

5世紀以降、日本列島に馬が増えた理由として、大陸にいた騎馬民族が日本列島にわたり現住民族を征服し大和朝廷を建てたというのが、江上波夫の騎馬民族征服説である。40年前、学生のときに仙台の本屋で見かけた江上波夫の「騎馬民族征服説」を衝動買いしたことを思い出す。同じ頃、騎馬民族説をネタにした豊田有恒の小説「倭王の末裔」も読んだ。あらすじはあまり覚えていないが、神功皇后を補佐した武内宿禰が驚くほど長寿だったことと小説としてはあまり面白くなかったことだけを記憶している。江上波夫の騎馬民族征服説とは以下のようなものである。

  1. 3世紀の日本列島を描写する魏志倭人伝に「牛馬なし」とあるのに対し、4世紀後半から5世紀の古墳の副葬品に馬の埴輪や馬具など騎馬民族的特徴が顕著になる。
  2. 天孫降臨説話や神武天皇の東征は騎馬民族が日本列島を征服する過程である。
  3. 崇神天皇はその和風諡号であるハツクニシラシ・ミマキイリヒコから任那(ミマキ=辰韓)を根拠地として北九州に侵入し、初めて国を治めた(ハツクニシラシめた)。
  4. 応神天皇は近畿に進出し大和朝廷が成立した。
  5. 旧唐書の「日本は倭国の別種であり、元小国の日本が倭国を併合した」という記述は騎馬民族の征服を意味する。
  6. 広開土王の高句麗と戦ったのは神功皇后や応神天皇である。農耕民族がこのような遠征をするはずがない。
  7. 倭王武が中国の南朝宋に主張した倭・新羅・百済・任那・加羅・秦韓・慕韓七国諸軍事安東将軍の称号に弁韓が含まれていないのは、倭が任那とともに弁韓を支配していたからだ。
  8. 続日本紀に、渤海使に与えた返書に、かつての高麗が日本に対し兄弟と触れていることから、天皇家、新羅、百済などは同族である。
  9. 渡来人を多く受け入れる習慣は排他的な農耕民族にはみられない。
  10. 皇位継承が血統により、男子王が亡くなりつなぎとして女帝を立てることなどは騎馬民族の特徴である。

江上波夫の騎馬民族説は、4世紀と5世紀の間に考古学的な断続がなく強い連続性があること、中国の史書に騎馬民族征服を示唆する記述はなく1世紀から7世紀までずっと連続する倭国と記録されていること、3世紀から7世紀に築造された前方後円墳は近畿で発祥し大陸にはないこと、皇室行事に遊牧民的な伝統儀式がないこと、家畜を去勢する遊牧民特有の習慣がないこと、日本では騎馬民族の使う短弓ではなくずっと長弓を用いていること、神経質な馬を渡海させるのは困難であることなどを理由として、現在ではほとんど顧みられなくなっている。

近畿中心に考古学的な発見が相次いでいることから、近畿一元史観、大和一元史観に反論できないのである。邪馬台国もこのまままでは近畿ということになりそうな勢いである。古代史ファンとしては、騎馬民族説や九州王朝説に続く、”わくわくし、あっと驚くような”仮説が出てきてほしいものだ。


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