備忘録として

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農民の地学者 宮沢賢治

2009-06-20 15:05:41 | 賢治

 西荻の古本屋で630円で買った宮城一男著「農民の地学者 宮沢賢治」は拾いものだった。ずっと農業のかたわら童話や詩を作っている作家だと思っていた。賢治を語るとき、詩人・童話作家・農業指導家・教育者などと紹介されるが、この本の綴じ込み写真にある賢治が作った地質踏査のルートマップを見ると、賢治は地質屋と言って差し支えない。花巻農学校での賢治が、黒板に描いた地質断面図の写真からも地質学の教師であったことがわかる。板谷栄城の「宮沢賢治の宝石箱」は広島の古本屋で350円で買ったが、これも賢治作品の中の宝石(鉱物)や植物を拾い集めていて、拾い物だった。

両書によって、賢治の童話や詩、短歌に地質、鉱物、化石が無数に散りばめられていることに気づいた。これまで、まったく無頓着だった。

 「銀河鉄道の夜」の地質学者が仕事をしているプリオシン海岸は”Pleiocene”のことだった。カムパネルラが銀河ステーションでもらったという地図(星座盤)は黒曜石でできている。「ビジテリアン大祭」の”金剛石は硬く滑石は軟らかである。”とあるように賢治はモースの硬度計を知っている。「風の又三郎」のお父さんは、モリブデン鉱脈を扱う鉱山会社の社員である。「虔十公園林」の石碑は橄欖岩(かんらんがん)でできている。「グスコーブドリの伝記」のサンムトリ火山には”溶岩が二層と、あとは柔らかな火山灰と火山礫の層だ。” 「シグナルとシグナレス」には蛇紋岩(サーペンティン)が出てくる。両書が引用するように、「楢ノ木大学士の野宿」は鉱物、地質の専門用語のオンパレードだ。

 ところで、『農民の~』で宮沢賢治がおとうさんに宛てた手紙が紹介され、岩石、鉱物を扱う仕事は、”山師的なることのみ多く到底最初より之を職業とは致しかね候”と書いている。実は、私は宮城一男の出た教室の後輩になるのだが、大学入学を控えた18歳のある日、健康診断に行った徳島のある病院の医師に、大学で何を勉強するのかと聞かれ、地質学と答えたところ、その医者から「山師になるのか」と言われ、たまらなくイヤな思いをしたことを思い出す。板谷は理学部の先輩になる。


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