
およそ七年前だったか、大地震に襲われた新潟県中越地方は世界的な豪雪地域。震災に遭った人々は雪とも闘わなければならなかった。この闘いは言語に絶するほど辛いものであろう。
ところで、江戸時代の異色の随筆『北越雪譜』はこの地域とほぼ重なる地方の風物を描いた傑作。
名作『北越雪譜』の初めに、牧之は「雪に深浅」と題して、こう書いている。雪一尺(30センチ)以下の「暖国」の人は「銀世界」を花にたとえ、雪見酒に興じ、絵に描いたり詩歌に詠んだりする。「和漢古今の通例」であるが、これは「雪の浅き国の楽しみ」に過ぎない。
「我越後のごとく、年毎に幾丈の雪を視ば、何の楽しき事あらん。雪の為に力を尽くし財を費やし、千辛万苦すること、下に説く所を視て思ひはかるべし。」
雪月花という言葉があるように雪を愛でる暖国の常識に対して、豪雪地に住む人々の、雪を白魔と怖れる心情を突きつけたのは、千年間も続いた日本人の、特に都人の伝統的美意識への挑戦であったのかもしれない。
「雪掘り」(「土を掘るが如く」家を掘り出す事)、「かんじき」や「すがり」で雪を踏み固めた「雪道」の歩きにくさ、人命を奪う吹雪や雪崩の怖ろしさ、そういったことが哀話を織り交ぜて描き出されている。
豪雪の怖ろしさだけを伝えているのではない。長い雪ごもりの風土でなければ生まれなかったであろう縮(ちじみ)という織物などについても詳しく誇らしげに書かれている。あるいは越後特産の鮭についての描写などは殆ど博学をひけらかすに近い。牧之は健康な生活者であった。それが、このベストセラーの魅力の源なのであろう。
それにしても(というのか何というのか)、新潟県中越地方のみならず、昨年3.11の大地震・大津波・原発事故の被災者の方々の中には、雪との闘いに明け暮れなければならない方々も居られるであろう。往生されていることであろう。励ましの言葉を知らない。
筋を通すことにかけては頑固一徹な澤地久枝が沖縄史を勉強するため67歳から琉球大学大学院で学んだ二年余り、それ以前から布や着物に熱烈な関心を抱いていた著者の沖縄布探訪紀行。カラー写真も多く、沖縄の染織と沖縄史に関する絶好の入門書。
首里の紅型、読谷山花織、久米島紬など十一以上の現場を訪ね、その歴史と現状を丹精こめた文で優しく描き出している。次の文がこの本全体の基調になっているように思われる。
「ゼロから再出発した戦後沖縄の紅型。
古典作品の復元にとどまることなく、古典柄をモダンにアレンジした新柄、海や魚たちをはじめ、沖縄の風物を積極的にとりいれた独自の模様は、城間栄喜が新しく拓いた彼ならではの世界である。
それにしても、いまでは想像を絶する人生の荒波にもまれながら、栄喜の作品の晴れ晴れとした明るさはなにから生まれているのだろうか。」
沖縄の染織に関する詳細については、
http://www.t-net.ne.jp/~srky/okinawa.htm
城間栄喜については、
http://www.edu-c.open.ed.jp/…/ii…/syurei/syou2/2-5dentou.pdf