「もしも、生まれ変わっても」 著やすけ
暖かい冬の午後、少年と犬はゆっくり歩いていた。
近所の人と出会うと立ち止り、「こんにちは。」と元気よく挨拶をして、またゆっくりと歩き出す。
犬は時々少年をチラリと見ながら、気づかうように歩調を合わせている。
「太郎君、大丈夫なの?」隣の家のおばさんが声をかけてきた。
「うん、今日は暖かいしたまには外に出ないとね。」少年が言うと、「気を付けてね。」と、
おばさんは忙しそうに洗濯物を抱えて家に入っていった。
「帰ろう。」少年は犬に視線を向けると、再びゆっくりと歩き出した。
ぼくは少し前から病気になってしまったらしい。
入退院を繰り返している。
パパもママもジュンもぼくのことをすごく心配してくれている。優しい家族だ。
寒くなってきた頃、ママがぼくのベッドを窓辺に移してくれた。
ぼくはいつも窓辺のベッドから、外の草木が風で揺れるのを見たり、
鳥が飛んできて庭で何かをついばむのを見ながら、
カーテン越しの柔らかな日差しの中でまどろむのが日課だ。
前のように、ジュンと走り回ったり、ママにおやつをねだったり、パパの背中に体当たりしたり・・・・・
そんなことはできなくなってしまった。
「ただいま。」
パパが帰って来た!
ジュンが走って出迎えに行ったけど、これはいつも僕の日課だったのになぁ。
「太郎、今日は元気そうだな。」
パパの大きな手が、僕の頭をクシャクシャとなでた。
そして、大きくなったぼくを抱き寄せ膝にのせてくれた。
「太郎・・・」
パパが今にも泣き出しそうなのをぼくは心の中で感じた。
ぼくはなにも言わず、そっと目を閉じた。
ジュンと初めて会った時のことを思い出した。
そう、あの時のことは今でも忘れない・・・・・・。
パパもママも犬が大好きだってことは知ってる。
いつだって「ゴールデン・レトリーバーは最高だよね!」って話してたから。
ぼくだって犬は大好きだ!お向かいのビーグル犬のチョコも、
薬局の隣の黒柴のリキもとっても可愛い。
何度も「犬が欲しいよ」ってパパとママにねだったけど、完全に無視されていた。
そんなある日、突然ママが大きなカゴを抱えて帰って来た。
ワンワン、ワオーン!
家中にとどろいた。
「ほら、弟よ。太郎、仲良くしてね。」ママが言った。
ぼくはカゴの中の弟を夢中でのぞき込んだ。
小さな目がぼくを見た。ふわふわと頼りなげな茶色の毛をしていた。
てっきりぼくはゴールデン・レトリバーだと思ったけど、どうやら違うみたいだ。
カゴに両手を突っ込んだらママに叱られた。
「まだ本当に小さいんだから一緒に遊べるのはもうちょっと先よ、太郎。」
頭をポンと叩かれた。
小さな弟の出現に、ぼくは心が躍った。
「早く大きくならないかなジュン」
弟の名前はジュンだ。
しばらくするとジュンは大きくなった。
ママとジュンとぼくは、毎日公園へ散歩に行った。
その頃のジュンは、ぼくの顔を見ると「ワンワン、ワンワン」って
バカの一つ覚えみたいに言ってたっけ。
思い出したらちょっと笑えた。
今ではそんなことはないけど。
そうだ。こんな事もあったな。
パパとママが「今度の週末、旅行でも行こうよ」って言いだしたから、
ぼくは嬉しくって部屋中を走り回って喜んだ。
で、着いた先はおばあちゃんちだったんだ。
パパとママはぼくを置いて、ジュンを旅行に連れてっちゃったんだ!!
ぼくはモーレツに怒った。
おばあちゃんは「すぐに迎えに来てくれるからね、太郎。」って
ぼくをなだめたけどそんなの無駄だ。
ぼくは部屋のゴミ箱や今日来たばかりの新聞紙をめちゃくちゃにしてやった。
おばあちゃんに叱られたって、かまうもんか。
だって、ぼくを置いてジュンだけを連れて行くなんて考えられない!
いつだってパパとママはぼくをどこへでも連れて行ってくれたんだから。
おばあちゃんがめちゃくちゃになった部屋へやって来て
「まぁ太郎、こんなにやらかして。ほら、ごはんよ。食べなさい。」
いつもより多いごはん。
一口食べたけど、やっぱりママが用意してくれたごはんの方がおいしい。
本当は食べたくなかったけど頭とお腹は違うみたい。残さず全部たいらげた。
その後はずっと玄関で、パパとママが迎えに来るのを待った。
夜になったらおばあちゃんに無理やり部屋へ入れられたけど、
それでも、外を通る車の音に耳を傾けていた。
いつしか眠ってしまったけど・・・・。
目が覚めた。
パパもママもジュンもいない朝。はじめてだ。
寂しさがこみ上げてきた。
おばあちゃんが用意してくれた朝ごはんに目もくれず、
ぼくはひたすら玄関に座って待っていた。
夕方近くなって、聞きなれた車の音にぼくは立ちあがった。
「パパの車だ!」
ガチャっとドアの開く音がすると、ママとジュンが入ってきた。
ぼくはママに飛びついた。もう、うれしくてうれしくて!
ママが「今度は太郎も一緒だからね」って約束してくれたっけ・・・・。
あれから、何年たったのかな。
ぼくはもう、長くは生きられない。
誰もぼくにそんなこと言わないけど、みんなの態度でわかるよ。
ぼくのことを見て、悲しい目をするから。
でも、ジュンだけはそんなことないんだ。
いつでもそばにいて、ぼくの心を支えてくれる。
パパの膝で目を閉じていると、隣にママが座ってぼくをなでてくれた。
反対側にジュンが座ってる。
ぼくは家族に囲まれてあたたかい視線の中で幸せを感じた。
もう、終わりを迎えてもいいと感じた。
入退院と投薬治療で、パパもママもぼく以上に辛い顔をしていたし
その分、ジュンも寂しい思いをしていたと思う。
閉じた目を少し開けてみた。
「太郎。」パパとママが重なるように言ったのが聞こえた。
「ぼく、幸せだったよ」
声にならなかったけど、きっと伝わったと思う。
そしてぼくは、ゆっくりと目を閉じ
永遠の眠りについた。
寂しさも悲しさも痛さも、まったく感じはしなかった・・・・・。
ぼく、太郎。9歳。
パパとママが大好きな犬種、ゴールデン・レトリーバー。
パパとママとジュンと幸せな一生を送りました。
もしも生まれ変わっても、
ぼくはまたこのうちの家族になりたいって思う。
「2010・やすけ著」※この文章の転載は硬く禁じます
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さて、ショートショートストーリー「もしも、生まれ変わっても」いかがでしたでしょうか。
わたすが初めて書いた物語です。
語り手は少年と思いきや、実は犬だったっていう、
簡単な叙述トリックを使ってみました。
まんまとだまされた方に拍手喝采です(笑)
読んで下さって、ありがとうございました!
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10月6日の朝、歩けないこのコは
カゴに入れられゴミ同然に捨てられていました。
「幸せって、どこにあるの?」
あゆみは私にそう訴えたのでした。
Mダックス メス 推定年齢5~6才
<里親募集中>
歩けないコを引き取るのはかなりの決意が必要ですから
簡単に見つかるとは思っていませんが。。。
手術後、少しでも自力で歩けるようになれば
里親さんが見つかると思いますので
皆さん少しだけ心に留めておいて下さい。
レオとみゅうのかあちゃんさんへ < コメントありがとうございます‼ショートショート感動して下さってとっても嬉しいです。この物語には、わたすの想いがギュッと詰まっています。きっとうちのワンズたちも「幸せだったよ」って言ってくれるって信じて、日々を大事に過ごしています。誰もが愛犬の最後にはそう言ってほしいですよね!読んで下さってありがとうございました。
勘太-モモのママさんへ > モモちゃん、勘太ちゃんの命日だったんですね。きっと天国からママさんに「幸せだったよ」って言ってると思います。愛犬を飼っている誰もがいつかは訪れる最後の日、わたすも覚悟はしていますが…やっぱり辛いですよね。思い出させてしまってごめんなさい。でも、コメント下さってありがとうございました。
仕方ありません。
今月は18日、22日と、モモと
勘太の命日です。
何年たっても、涙が枯れる事は
ありませんね。愛しいです。
ホッピー君のところから、おじゃまさせてもらってました。
あゆみちゃん、タッチできるようになってよ良かったですね。
ってコメント書こうと思っておじゃましたら・・・
まんまとだまされ、おまけに泣かされてしまいました。
ちょっとやそっとの泣かされようじゃなかったです(笑)。
ショートショートストーリ、感動です。大感動です。
素敵なショートショーストーリ、ありがとうございました。
すごいです。
やすけさん、すばらしい☆
あゆみちゃん、タッチできるなんてすごいですね。
きっと優しいやすけさんややすけさんのご家族の
愛情の賜物だと思います。
まだまだ寒くなるようです、お体には充分気をつけて
頑張ってください。応援しています。
病気を患ってたりで
最近いろいろ思うことが多くて。
やすけさんのショートストーリーを読んで
思わず涙が出てしまいました。
(トリックにもまんまと引っかかりました)
素敵なお話をありがとう