伽 草 子

<とぎそうし>
団塊の世代が綴る随感録

断簡 【マスク】

2018年02月20日 | エッセー

 猖獗を極めるインフルエンザのため、病院ではドクターやナースがみんなマスクをしている。ふと小林秀雄の箴言が浮かぶ▼〈仮面を脱げ、素面を見よ、そんな事ばかり喚き乍ら、何処に行くのかもしらず、近代文明といふものは駆け出したらしい。〉(「当麻(たえま)」から)
▼小林は個性偏重の風潮に異を唱え、つまらない素面なぞ隠していっそ能面のように仮面をつけよと諭した▼しかし、である。如上のマスクはどうもいけない。なんだか表情のないマスクマンやマスクウーマンに囲まれているようで、目だけを凝視するわけにもいかず、なんだか要領を得ない。キュア上は必須でも、ケアには問題ありではないか。なんせ、天使のようなナースのお顔を拝せないのだから。あるいは、ひょっとして「つまらない素面なぞ隠していっそ能面のように仮面をつけ」ようとした工夫なのかもしれない▼〈駆け出した〉〈近代文明〉への健気な抵抗か。それともコンビニの接客マニュアルよろしく、レベルダウンを承知でケアのクオリティを一律に保持するためか(天使の笑顔で癒やすなどという職人芸は今や絶滅危惧種だ)。インフルの間だけならまだしも、マスクが常態にならぬよう切に願う。□
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