会計スキル・USCPA

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シリコンバレーヘッジファンド運用記 情報が富を生む時代

2007-09-02 22:48:43 | 読書
 ご無沙汰です、と言ってしまいそうになるくらい久々です。この暑さに加えて、職場の設定温度が高く、しかも私の席が空調の関係で特に暑くて・・・。おまけに毎晩遅くなってしまい、と先月は、とほほ月だったんですな。

でも暑さはちょっと一息といったようで。テレビは新閣僚についての話題一色ですね。与謝野さんが官房長官じゃないですか。以前ご紹介した、竹中さんが論争した相手です。 

『ただ、竹中さんが総務大臣に横滑りして諮問会議の所管を外れてからは、従来の官僚主導に戻ったそうなので、結局誰がハンドリングするかによって変わってくるということですね。仕組みだけの問題ではないのです』と書かせていただきましたが、竹中さんが諮問会議の所管を外れて、その後任が与謝野さんだったわけでして、竹中さん的に見れば改革路線の後退人事といえるんでしょうね。

さて、世の空気がよろしくないようなので、こういう時は良い本でも読んで気持ちを維持しましょう。

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 内幕モノか、とあまり期待せずに買ったのですが、これが実に良かったんですね。ウォール街のアナリストから独立してシリコンバレーで新興企業に投資するヘッジファンドを立ち上げて、金集めに苦労して、やがて成功して、911の前にうまくファンドも解散できていて・・・、という成功談がメインのストーリーです。ヘッジファンドと言っても基本的にはロングのみを扱い、急成長企業を見極めてじっくり投資するというまっとうスタイル。

 これはこれで面白いんですが、サブストーリーが素晴らしいんです。あるとき飛行機で乗り合わせたスイスの老投資家と会話している中でシリコンバレー企業の成長の秘密について説明するよう課題を与えられます。まあ、ファンド運用者なわけで、金を集めるには投資家を説得しなければならないわけですが、中々、うまく説明できない。サブストーリーはこの老投資家との会話をトリガーにして、ハナシを展開してゆきます。

 著者は結構、この本を書くにも野心的でして、英国の産業革命、蒸気機関技術がどう展開していったか、をたどって、現代のIT革命と比較します。著者はIT革命なんて言葉を使ってませんがね。しかも自分のエピソードを積み重ねて説明してくれます。

 89年に半導体会社のCEOから、我々は工場をもっていません、持ちたいとも思いませんと説明されて面食らった話。半導体を設計するだけで、あとは台湾に作ってもらいます。当時のAMDのCEOは『本物の男は工場を持つものだ』と言っていたそうで、今でこそ、クアルコムはファブレストップ、なんて当然のごとく言ってますが、当時は米国でもファブレス、という概念は一般的でなかったんですね。

 この辺から俄然本書は面白くなります。

 ある技術を開発した会社の話。シスコからその技術を買うというオファーが来て、20万ドルだといわれる。それでは儲からないので半導体に焼き付けてチップとして半導体一個何ドルでシスコに売ることになった。知的所有権の時代はどうパッケージするのかが大事な時代でもある、という具合です。一つ一つがしびれる話なんですな。収穫逓増の話もちょこっと触れていて(著者はこの言葉を使ってませんが)良いですな。

シリコンバレーの成長企業のポイントが実に良くわかります(といっても私がそう感じたというだけですが)。まあ、投資家の容赦ない視線でこの10年間のシリコンバレーの成長の特質を掘り出しているんですね。テクノロジーと製造とが昔は一体だったが、今は分離している、テクノロジー部分の知的所有権はまねができずに高マージン。いずれ価格が下がるが量が爆発的に増えて、限界コストは限りなく低いので、さらにもうかって成長してゆく・・・。

ただ、そこまでなら良いんですが、いつの間にかマクロ理論とごっちゃにしてしまい、結論として、

米国は知的なマージンの高い仕事をして、日本や台湾や韓国は、米国が生んだ知的所有権を活用してマージンの低い仕事をする。その役割分担は世界経済の発展に貢献する、米国民の仕事はますます人間的になり、日本や台湾や韓国も中産階級の育成、維持ができる、米国の貿易赤字はマージンの高い米国マーケットに資本収支として還流する形でカバーするので問題ない。

みたいなところに着地しています。最終的には帳尻が合う、といっているだけで理論的には無意味な意見でしょうな。この辺は余計な部分なんですが、著者がどう感じているかがマクロ理論に投影されている、という点では興味深いとこですけどね。著者はアメリカにはウォール街とシリコンバレーと投資家以外に米国人はいないと思っているみたいですな。米国の中産階級の没落ぶりについてどう考えてるんですかね。

昔、クリントン一期目の大統領選の時のブレーンでライシュさん<労務長官をされたと思いますが)、という方がいまして、諸国民の仕事という本があるんですが、似てますね。シンボリックアナリストとかいう言葉が、当時は話題になりましたっけ。知的な仕事を米国で開発することが大切だみたいな主張です。まあ、クリントン時代の政策が今、花開いているということなのでしょうが、マクロ政策との関連については批判されていたと思います。『経済政策を売り歩く人々』クルーグマンでしたっけ。あの竹中さんだってIT振興で成長をとぶち上げたことについては、その実効性を批判されていたはずですな。口の悪い人は経済学者のくせに、とか言われてましたが、当時は政治家でしたからねえ・・・。

 とまあ、このあたりの書きぶりはゆるいんですが、その分ユーモアたっぷりで読み物としてもグーです。



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