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『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』第19巻/安彦良和

2009-06-27 | 青年漫画
 
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『機動戦士ガンダム』、いわゆる『ファーストガンダム』の、安彦良和による新解釈である『オリジン』の第19巻。
『機動戦士ガンダム』が生まれて30年目にあたる2009年最初に刊行された巻です。第19巻は連邦軍の、ジオン軍宇宙攻撃軍拠点ソロモンへの攻略で幕を開けます。注目したいのは以下の3点です。
1. アムロ・レイがセイラ・マスに対してあなたのお兄さんを殺すと皮肉を言っている。
2. ブライト・ノアが「ニュータイプ」を否定している(ただしブライトは元々ニュータイプに懐疑的だった)。
3. 「ソーラ・レイ」を連邦軍がジオンより先に実戦で使用している。

この第19巻を読んで、私は改めて思ったことが二つあります。
第一に、『機動戦士ガンダム』は今や、一アニメーションの枠を超えて、アニメファンにとって「教典」にも等しい存在となったこと。例えば『聖書』が、何千年も前から書かれてきた複数の本で、時代と共に様々な解釈をされ書き写され、時として新たな写本が見つかりながら現代にまで伝えられてきたように、『機動戦士ガンダム』もまた30年の歴史の中でその時代その時代の価値観を反映し様々に解釈され亜流をも生んできました。『ガンダム』が『聖書』と異なる点は、1979年~1980年代に制作されたマスターは「デジタル」の恩恵を受け、VHSテープだった物がレーザーディスクとなり、DVDとなり、Blu-rayとなり、更に次世代の規格で劣化することなく「原本のまま」100年200年と受け継がれていくという処です。
富野由悠季と安彦良和の両氏はいずれ亡くなりますが、彼等が亡くなっても『ファーストガンダム』は、例えばことぶきつかさが『DAY AFTER TOMORROW』を描いたように、次の世代により新たな解釈を加えられ、「ロボットアニメの金字塔」として受け継がれていきます。
第二に、21世紀になり『機動戦士ガンダムSEED』や『機動戦士ガンダム00』などの新作が何十作制作されようとも、それらは決して『ファーストガンダム』を超えられないということです。『機動戦士ガンダム』ほどに衝撃的なロボットアニメに私は30年経過した今もまだ出会っていませんが、「ガンダムより面白いロボットアニメ」を制作することは才能ある者の出現があれば実際には可能です。しかし「ガンダム」の名を冠する限り、その作品が如何に優れていようとも、『ファーストガンダム』を超えることは絶対にできません。

モスク・ハン博士によりガンダムがマグネットコーティングされることになり、アムロが「そんないい加減な実験に僕のガンダムを使わないで下さい!!」と、ガンダムは自分の物だと食って掛かります。今まで自分を特別視してきたホワイトベースのクルー達が、今度は「いい気になるな」と態度を一変させたと憤慨します。

そしてソロモン攻略のさなかにマグネットコーティングされたガンダムで遅れて出撃したアムロに対し、ブライトが「ニュータイプかなにか知らんがそんな超能力みたいなものをあてにするようでは先が思いやられる」とその能力に否定的な態度を取ります。実際、当時の連邦は「ニュータイプ研究」に非常に消極的でジオンに大幅に遅れを取っていましたが、原作アニメでは決戦を前にアムロが「皆にニュータイプと思われている自分が勝てると嘘をついた」と言います。それとは対照的な展開です。その背景に、「精神的ストレス」という概念が以前よりも広く一般に認識されるようになったというものがあるとも思えます。うつ病等の精神疾患に対する認識がまだ浅かった30年前ですら、15歳の少年が「お前には特別な能力がある」というプレッシャーをかけられ神経症的な症状を見せていたアムロですが、『機動戦士Zガンダム』の序盤ではカミーユ・ビダンが「自分は何も出来ない自閉症の子供だ」と自称しています。

宇宙(そら)に上がった連邦の連合艦隊は囮。艦隊がソロモンを目指しているさなか、シャア・アズナブルがソロモンが突破された後の目標がジオン本国であると、キシリア・ザビに進言します。しかし実際にこの後、戦場となるのは宇宙要塞ア・バオア・クーです。

開戦に消極的だったデギン公王の意志が本国のギレン・ザビとグラナダのキシリア・ザビとの間に隔たりを生み、それがソロモンのドズル・ザビを捨て石とする。この構図がより明確となりました。

「ソーラ・レイ」はいわば、宇宙に於ける核、大量破壊兵器です。アースノイドにとっての「核の脅威」という概念は、そもそも宇宙を生活の拠点とするスペースノイドの価値観とはおのずと異なってきます。ジオンは地球のオデッサで例外的に水爆を使用しただけで、宇宙空間では一切核兵器を実戦で使用していません(モビルスーツは核融合エンジンによって稼働しますが)。
『機動戦士ガンダム』が劇場化された1980年代は「冷戦」の時代で、「核保有」に対する見解も現在のそれとは異なっていました。「民族の自治を叫ぶ者とそれを弾圧する大国」という構図はそのまま「宇宙移民者の自治を求めるスペースノイドとそれを弾圧する地球連邦」に置き換えることができます。例えば最近では北朝鮮が核開発を再開しましたが、小国の核保有は即、世界のパワーバランスを崩す脅威とはなり得ない部分があります。「核抑止」とは「先制攻撃を受けても複数の基地があり報復が可能である」という能力を持って初めて成り立つ物だからです。
「弾圧者」である地球連邦に大量破壊兵器を先に実戦で使わせる。それは同時に現在の世界情勢に対する「警告」とも言えます。

ドズルが子煩悩である姿が強調して描かれています。娘と共にソロモンを脱出する妻、ゼナに「ミネバを頼む 強い子に育ててくれ」と。最後まで軍人として生きたドズルが、自分の娘が摂政ハマーン・カーンによってネオ・ジオンの傀儡に祭り上げられる姿を見ずに死んだのは幸いでした。


お薦め度:★★★★☆
新たな解釈は論争を呼ぶものです。しかし『オリジン』は最も「原本」に忠実な新解釈です。


↓『機動戦士ガンダム』はロボットアニメの金字塔だ!
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