長い直剣の切っ先を真直ぐこちらに向けたまま、光速で突っ込んでくるトゥパク・アマル軍を前にして、スペイン軍の前列正面では、副官サウリの逼迫した声が反響していた。
「トゥパク・アマルのやつ、止まりません!!
銃撃せず、あのまま抜剣突撃してくるつもりです!!」
さすがのカザルスも腰を浮かせながら、それでも、落雷のごとき罵声で夜空に吠えた。
「ひるむな!!
撃てい!!」
サウリも、必死に己の平常心を繋ぎ止め、戦列歩兵の銃撃を仕切る歩兵少将に向かって鋭く右腕を振り切った。
「擾乱射撃せよ!!」
しかし、戦闘隊形も形成しきれぬままに銃を構えた歩兵たちの中央では、歩兵少将の甲高い声が悲鳴のように木霊する。
「無理です!!
敵を捕捉できません!
暗すぎる上に、やつらの動きが速すぎる!!」
「それでも撃つのだ!!
早くしろ!!!」
端正な風貌を鬼のように怒らせて、サウリが怒鳴りつけた。
その激しさに押し出されるようにして、スペイン軍第一戦列から、朱色の銃火がまばらに閃いた。
荒野に死の銃声が轟き渡る。
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≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。
≪カザルス≫(スペイン軍)
スペイン軍総指揮官ホセ・アントニオ・アレッチェ直属の陸軍歩兵大将。
沿岸部におけるトゥパク・アマルとの戦いにおいて、スペイン側の歩兵・騎兵・砲兵3000の混成部隊を統率・指揮している。
≪サウリ≫(スペイン軍)
沿岸部におけるトゥパク・アマルとの戦いにおいて、アレッチェ直属の陸軍歩兵大将カザルスの副官を務める。
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