コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~

制圧者とインカの末裔たちとの戦いの物語

コンドルの系譜 第九話(875) 碧海の彼方

2013-07-31 13:06:15 | 碧海の彼方

長い直剣の切っ先を真直ぐこちらに向けたまま、光速で突っ込んでくるトゥパク・アマル軍を前にして、スペイン軍の前列正面では、副官サウリの逼迫した声が反響していた。


「トゥパク・アマルのやつ、止まりません!!


銃撃せず、あのまま抜剣突撃してくるつもりです!!」


さすがのカザルスも腰を浮かせながら、それでも、落雷のごとき罵声で夜空に吠えた。


「ひるむな!!


撃てい!!」


サウリも、必死に己の平常心を繋ぎ止め、戦列歩兵の銃撃を仕切る歩兵少将に向かって鋭く右腕を振り切った。


「擾乱射撃せよ!!」


しかし、戦闘隊形も形成しきれぬままに銃を構えた歩兵たちの中央では、歩兵少将の甲高い声が悲鳴のように木霊する。


「無理です!!


敵を捕捉できません!


暗すぎる上に、やつらの動きが速すぎる!!」


「それでも撃つのだ!!


早くしろ!!!」


端正な風貌を鬼のように怒らせて、サウリが怒鳴りつけた。


その激しさに押し出されるようにして、スペイン軍第一戦列から、朱色の銃火がまばらに閃いた。

 

荒野に死の銃声が轟き渡る。

 

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トゥパク・アマル(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。

カザルス(スペイン軍)
スペイン軍総指揮官ホセ・アントニオ・アレッチェ直属の陸軍歩兵大将。
沿岸部におけるトゥパク・アマルとの戦いにおいて、スペイン側の歩兵・騎兵・砲兵3000の混成部隊を統率・指揮している。

サウリ(スペイン軍)
沿岸部におけるトゥパク・アマルとの戦いにおいて、アレッチェ直属の陸軍歩兵大将カザルスの副官を務める。

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コンドルの系譜 第九話(874) 碧海の彼方

2013-07-27 15:43:10 | 碧海の彼方

トゥパク・アマル率いる騎兵部隊の飛翔する速度が、目にも止まらぬばかりに勢いを増す。


「抜剣!!」


夜の冷気を貫くトゥパク・アマルの号令と共に、騎兵部隊が、ズバッ、と直剣を一斉に抜き放った。


剣を構える一瞬、鋼が宙に煌めく。


月光を照りかえした700の剣先が、目を射るばかりの眩い銀色の閃光を放った。


と同時に、トゥパク・アマルのさらなる号が夜空に超然と響き渡る。


「突撃!!」


命令一下、どこまでも加速していく馬上で、騎兵たちは重心を前に倒し、馬の首に前のめりに覆い被さるような姿勢になっていく。


その体勢のまま、彼らは抜き身の長剣を槍のように前方に突き出し、まだ戦闘隊形を整えきれぬ敵軍正面に向かって、まっしぐらに突撃していく。


700
騎の蹄が蹴立てる地鳴りのごとき壮烈な轟音。


鳴り渡る高らかな馬具の音。


馬の蹄からは泥や小石が中空にほとばしり、土埃が夜空に茫漠と舞い上がる。


焔のような激しい目をして陣頭を突き進むトゥパク・アマルが、猛々しい雄叫びを発した。


それに呼応するように、騎兵部隊全体から、さらには歩兵や砲兵部隊全軍から、嵐のような雄叫びが渦のように湧き上がった。


そのさまに、馬たちは昂る興奮を抑えきれず猛烈に四肢を蹴立て、その疾走速度は、暴走さながらの超スピードへと化していく。

  

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トゥパク・アマル(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
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コンドルの系譜 第九話(873) 碧海の彼方

2013-07-24 02:49:48 | 碧海の彼方

「し、しかし、我らは、まだ戦闘隊形が整っておりません!


あの勢いで突っ込まれては、銃撃も、砲撃も、間に合いません!!」


カザルスが歯噛みしながら、再び副官サウリを怒鳴りつけた。


「準備のできている者だけでもかまわん!!


我らは敵に倍する兵力を有しておるのだ!


何をうろたえて――」


が、そう言いさして前方に向き直り、カザルスも思わず言葉を呑んだ。


闇の中、宙を切り裂いて飛翔してくる巨大な一枚岩と化したトゥパク・アマル軍は、その速度を全く落とすことなく、まっしぐらに射程内に突入してきたのだ。


全軍を先導して疾駆するトゥパク・アマルが、厳然と号を発する。


「騎兵部隊、もっと加速せよ!!」


さらに、彼は背後の歩兵たちを素早く振り向いて、声を張った。


「歩兵部隊は、可能な限りの速さで追い付いてくればよい。


我ら騎兵部隊が盾となるゆえ、騎兵の戦列の陰から逸脱してはならぬぞ!」


「トゥパク・アマル様!!


陛下が、我らの盾になるなどと――!」


歩兵部隊の陣頭を全力疾走するロレンソが言いかけるも、その時には、既にトゥパク・アマルは決然と前を向き、長髪と黒マントを大きく翻しながら飛ぶように愛馬を駆り立てていた。


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トゥパク・アマル(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
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≪ロレンソ≫(インカ軍)
アンドレスが学生時代を過ごしたクスコ神学校時代の朋友。生粋のインカ族。
反乱幕開けと共に、インカ軍に参戦した。
アンドレスに比して大人びた風貌と冷静な性格を有し、公私に渡ってアンドレスを助けてきた。

カザルス(スペイン軍)
スペイン軍総指揮官ホセ・アントニオ・アレッチェ直属の陸軍歩兵大将。
沿岸部におけるトゥパク・アマルとの戦いにおいて、スペイン側の歩兵・騎兵・砲兵3000の混成部隊を統率・指揮している。

サウリ(スペイン軍)
沿岸部におけるトゥパク・アマルとの戦いにおいて、アレッチェ直属の陸軍歩兵大将カザルスの副官を務める。

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コンドルの系譜 第九話(872) 碧海の彼方

2013-07-20 15:28:48 | 碧海の彼方

否、動揺しているのは、サウリのみならず、慌ただしく開進運動を続けているカザルス麾下の全軍の兵たちも同様だった。


トゥパク・アマルの軍勢が、狂おしいほどのスピードで突き進んでくるさまに、戦闘隊形を完成させようと焦るスペイン兵たちの歩調は乱れた。


そんな中、大将カザルスが、野太い声で轟然と一喝する。


「腰抜けどもめ、落ち着け!!


あれしきの軍勢に、何をびびっておるのだ!!」


カザルスが、老練の思慮深い眼を光らせながら、さらに大音声を張った。


「いかに戦さの常識を知らぬ野蛮人どもであろうが、あのまま突撃してくるほど、愚かではあるまい!


そもそも、あのような速度で飛ばしていては、我らへの射撃すらできぬではないか。


もっと接近してきて我らを射程にとらえたら、必ず、トゥパク・アマルは、一旦、速度を落として銃撃態勢に入るはずだ。


その一瞬の隙を逃さず、我らの方から、先に一斉斉射を浴びせろ!!」

 

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トゥパク・アマル(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。

カザルス(スペイン軍)
スペイン軍総指揮官ホセ・アントニオ・アレッチェ直属の陸軍歩兵大将。
沿岸部におけるトゥパク・アマルとの戦いにおいて、スペイン側の歩兵・騎兵・砲兵3000の混成部隊を統率・指揮している。

サウリ(スペイン軍)
沿岸部におけるトゥパク・アマルとの戦いにおいて、アレッチェ直属の陸軍歩兵大将カザルスの副官を務める。

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コンドルの系譜 第九話(871) 碧海の彼方

2013-07-18 02:25:42 | 碧海の彼方

一方、トゥパク・アマルたちと対峙する3000のスペイン軍を指揮するのはカザルス。


アレッチェ麾下の直属部隊における歩兵大将である。


彼は、第1戦列中央の歩兵部隊陣頭にあって、高速で向かい来るトゥパク・アマル軍を、張り裂けるほど大きく見開いた双瞼で睨み据えていた。


たくわえた立派な顎髭も、頑強そうなガタイも貫録たっぷりで、傲然と反らした軍服の分厚い胸には、多数の勲章が所狭しと並んでいる。


その脇では、カザルスの副官サウリが、細身の長身を鞭のようにしならせながら、「急げ!!さっさと戦列を完成させろ!」と、命令を怒鳴っている。


その間にも、ドドドと蹄音高く地を鳴らしながら、トゥパク・アマルたちが怒涛の勢いで押し寄せて来る。


副官サウリが目を剥いて、大将カザルスに叫んだ。


「トゥパク・アマルが、物凄い速さで突進してきます!!」


壮年のカザルスに比べれば、副官サウリはまだ若いが、それでも平素はカザルスを補佐して陣頭指揮を執る能力も、冷静さも、有しているはずの人物だった。

 

そのサウリでさえも、劣勢にもかかわらず恐れ気も無く敢然と迫り来るトゥパク・アマルたちの強壮な進撃に、動揺を隠せずにいる。

 

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トゥパク・アマル(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。

カザルス(スペイン軍)
スペイン軍総指揮官ホセ・アントニオ・アレッチェ直属の陸軍歩兵大将。
沿岸部におけるトゥパク・アマルとの戦いにおいて、スペイン側の歩兵・騎兵・砲兵3000の混成部隊を統率・指揮している。

サウリ(スペイン軍)
沿岸部におけるトゥパク・アマルとの戦いにおいて、アレッチェ直属の陸軍歩兵大将カザルスの副官を務める。

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