コンドルの系譜 ~インカの魂の物語~

制圧者とインカの末裔たちとの戦いの物語

コンドルの系譜 第九話(392) 碧海の彼方

2010-04-30 20:44:06 | 碧海の彼方
「シモン殿、あなたの仰るように、これほどに険しい山岳地ゆえ、如何に相手の数が多いとはいえ、実際に彼らが攻め上ってくることが可能な斜面は限られておるのです。

せいぜい、この数メートル幅の細長い道無き道を、長々しい縦列を為して登ってくることしかできないはずです。

つまり、当地は、敵が、その数を、そう容易(たやす)く生かせるような地形ではないのですよ。

トゥパク・アマル様が、ここに本陣を敷いた最たる理由もそこにあったのです」

ゆるぎない口調でそう言うと、ベルムデスは鋭さのいや増した面持ちを上げた。

「なるほど」

シモンはベルムデスに頷きながら、数回、己の額を拳で叩(はた)いた。

それから、地勢図を睨みながら、いっそうテーブル上に身を乗り出す。

いつしか、そんなシモンとベルムデスの周りに他の者たちも集まり、息を詰めて二人の話に耳を傾けている。

その張り詰めた空気の中、「そういうことならば」と、再びシモンが口火を切った。


【登場人物のご紹介】

≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。

≪ベルムデス≫(インカ軍)
トゥパク・アマルが全幅の信頼を置く、高齢の重臣。武勇にも優れる高徳の賢者。
既に亡きトゥパク・アマルの父の代から、インカの王族を支え続けてきた。
現在は、ミカエラの護るサンガララの本陣にて、ミカエラや皇子たちを支えている。

≪シモン≫(白人の革命軍)
植民地生まれの白人(クリオーリョ)の革命分子を束ねるリーダー。
ただし、一般的に貧しいクリオーリョたちとは異なり、当地生まれでありながらも富裕層に属するらしきスペイン人。
トゥパク・アマルの反乱に乗じて、スペイン本国による植民地支配を瓦解させる機会を狙っている。


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コンドルの系譜 第九話(391) 碧海の彼方

2010-04-28 19:56:21 | 碧海の彼方
屈強な兵たちに傅(かしず)かれ、凛々しく頷き返すイポーリトと、そして、複雑な表情を隠せぬミカエラの双方を見やってから、シモンはテーブルに座したまま黙って状況を見守っていたベルムデスに目を留めた。

「ベルムデス殿」

「どうやら戦さは避けられんようですな」

平素の温厚な気配を保ちながらも、厳しい表情で顎を擦っているベルムデスへと、シモンも真っ直ぐ頷いた。

そして、相手の傍に広げられていた地勢図を覗き込む。

「さすがに敵方も、こんな急峻な山道を多くの大砲まで運んできているとは考えにくいですが、少なくとも大量の銃や弾薬を携えてきていることは間違いないでしょう。

今さら、わたしが言うまでもありませんが、敵の火力を封じるには、どのみち接近戦に持ち込むしか方法はありません」

ベルムデスも、おもむろに頷き返した。

それから、厳つい褐色の指先で地勢図上の東斜面をなぞりながら、低く響く沈着な声音で語りだす。


【登場人物のご紹介】

≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。

≪ベルムデス≫(インカ軍)
トゥパク・アマルが全幅の信頼を置く、高齢の重臣。武勇にも優れる高徳の賢者。
既に亡きトゥパク・アマルの父の代から、インカの王族を支え続けてきた。
現在は、ミカエラの護るサンガララの本陣にて、ミカエラや皇子たちを支えている。

≪シモン≫(白人の革命軍)
植民地生まれの白人(クリオーリョ)の革命分子を束ねるリーダー。
ただし、一般的に貧しいクリオーリョたちとは異なり、当地生まれでありながらも富裕層に属するらしきスペイン人。
トゥパク・アマルの反乱に乗じて、スペイン本国による植民地支配を瓦解させる機会を狙っている。


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コンドルの系譜 第九話(390) 碧海の彼方

2010-04-26 18:56:26 | 碧海の彼方
ミカエラは、頼もしさだけではおさまり切らぬ、それら非常に危ういものを瞬時に見透かして、強く眉を顰(ひそ)めた。

しかしながら、周囲のインカ兵たちは厳めしい体躯を翻し、意気揚々とイポーリトの周囲に跪いた。

「イポーリト様!

さすがはトゥパク・アマル様の御子息様であられます!!」

「はい、イポーリト様!!

きっとトゥパク・アマル様も、あなた様と同じように仰いましょうぞ。

それに、如何に我が兵の数が劣勢でありましょうとも、この陣営の専門兵たちは選り抜きの精鋭ばかりです。

増してや、ここには、あなた様やミカエラ様もいらっしゃる。

必ずやインカの神々のご加護もありましょう!

存分に戦って、奴らに我らの真の底力を見せつけてやりましょうぞ!!」


【登場人物のご紹介】

≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。

≪ミカエラ・バスティーダス≫(インカ軍)
トゥパク・アマルの妻であり同志。トゥパクとの間に生まれた3人の皇子たちの心優しき母でもある。褐色の女神のように麗しくも、戦士のごとくに雄々しいインカ族の才媛。

≪イポーリト≫(インカ軍)
トゥパク・アマルとミカエラの第一子(反乱幕開時12歳)。
なお、二人には他に次男マリアノ(10歳)、末子フェルナンド(8歳)がいて、イポーリトと同様、現在はミカエラの元にいる。
両親に似て、凛々しくも天使のような愛らしい皇子たち。


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コンドルの系譜 第九話(389) 碧海の彼方

2010-04-23 19:41:26 | 碧海の彼方
だが、その時、不意にイポーリトの声が天幕に響いた。

「ならば、やはり、戦うしかないのではないですか?

どんなに相手が多勢でも、決死の覚悟で戦えば、きっと活路は開けるはずです」

ハッと皆の視線が一斉に集中する中、イポーリトは、大人顔負けの沈着な面差しと鋭利な眼光で周囲の者たちを見返している。

そして、皆を説得するかの如く、一語一語噛み含めるように続けていく。

「母上も、皆の者たちも、逃げ道が無いのならば、正々堂々と戦うしかありますまい。

もしここに父上がいたら、父上も、きっとそう仰るに違いありません!

それに、こうしている間にも、スペイン軍は着々と迫り来ているはずです。

今、一刻を争う中で僕たちが話し合わなきゃいけないことは、どうやって彼らと戦うか、その方法ではありませんか?」

「イポーリト……」

見つめるミカエラの視界の中で、イポーリトは、あくまで冷静な表情に、敢然とした覚悟をも宿し、周囲の大人たちを圧倒する気迫を放っている。

だが、母たるミカエラの目は、そのような息子の中に潜む、戦さへ逸(はや)る利己心や恍惚感の如きものをも見逃さない。


【登場人物のご紹介】

≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。

≪ミカエラ・バスティーダス≫(インカ軍)
トゥパク・アマルの妻であり同志。トゥパクとの間に生まれた3人の皇子たちの心優しき母でもある。褐色の女神のように麗しくも、戦士のごとくに雄々しいインカ族の才媛。

≪イポーリト≫(インカ軍)
トゥパク・アマルとミカエラの第一子(反乱幕開時12歳)。
なお、二人には他に次男マリアノ(10歳)、末子フェルナンド(8歳)がいて、イポーリトと同様、現在はミカエラの元にいる。
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コンドルの系譜 第九話(388) 碧海の彼方

2010-04-21 21:19:20 | 碧海の彼方
シモンはグッと身を乗り出し、ミカエラを厳しく睨んだ。

「今は、プライドや意地を通している場合ではありませんよ。

多数の兵の命が懸かっている上に、本当にあなたがたが捕われでもしたら、ここまで反乱を広げてきたトゥパク・アマル殿の苦労はどうなるんです?」

「そうではないのです」と、ミカエラは睫毛を伏せて口惜しげに呻くと、スラリと長い指先で額を押さえ込んだ。

「撤退しようにも、することができないのです。

今、敵が迫り来る東斜面の反対側に、本来なら退路として確保していた西側斜面の途上の河川が、先週の豪雨で氾濫し、今は渡れない状態なのです」

「――!

ってことは、退路さえも無いってことか…!!」

シモンは頭をガシガシといよいよ激しく掻き毟って、地から突き上げるような深い息を吐いた。

「なるほどね。

敵さんも、それを見越して、意気揚々と攻め込んで来たというわけか」

いっそう重苦しい沈黙が天幕の中を支配する。


【登場人物のご紹介】

≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。

≪ミカエラ・バスティーダス≫(インカ軍)
トゥパク・アマルの妻であり同志。トゥパクとの間に生まれた3人の皇子たちの心優しき母でもある。褐色の女神のように麗しくも、戦士のごとくに雄々しいインカ族の才媛。

≪シモン≫(白人の革命軍)
植民地生まれの白人(クリオーリョ)の革命分子を束ねるリーダー。
ただし、一般的に貧しいクリオーリョたちとは異なり、当地生まれでありながらも富裕層に属するらしきスペイン人。
トゥパク・アマルの反乱に乗じて、スペイン本国による植民地支配を瓦解させる機会を狙っている。


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