そして、そのまま、トゥパク・アマルは、リノの顔を鉄格子を隔てた己の顔の直近に引き寄せた。
リノは瞬間、ビクリと身を縮めたが、全く抵抗することができない。
むしろ、恍惚とした陶酔感に溺れるように虚ろな目で、降伏したように大人しくなっている。
トゥパク・アマルは薄っすらと笑みを湛えたまま、そんなリノの口元に己の唇を近づけて囁(ささや)くように言う。
「わたしの頼みを聞いてはくれまいか…――。
クスコのある場所に、わたしの手紙を届けてほしい」
「…!!」
さすがに、その瞬間には、冷や水を浴びせられたように、リノはギョッと目を見開いた。
「そ…そんなこと…まさか…――!!」
歪んだリノの口角から、震えるような擦(かす)れ声が漏れる。
その瞳は、自らの内面の混乱と衝撃と欲望との鬩(せめ)ぎ合いのために、既に涙ぐんでさえいる。
トゥパク・アマルは、リノの顎に添えた指先を、さらに己の方へと引き寄せた。
「頼みを聞いてくれれば、決して悪いようにはせぬと誓う。
力を貸してくれれば、礼金は望むだけ与えよう。
他にも、そなたが望むことなら、どのようなことでも…――」
「――!!」
唇と唇が触れ合うほどの距離で囁かれ、リノは電撃に打たれたように硬直する。
【はじめての読者様へ:登場人物のご紹介】
≪トゥパク・アマル≫
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。
本陣戦の最中に敵将アレッチェの罠にはめられて囚われ、現在は投獄されている。
≪リノ≫
トゥパク・アマルが投獄されている牢獄を監視する端役の番兵の一人。
スペイン人ではあるが、正規のスペイン人将校たちに比して身分が低く、将校たちが休息する深夜の巡回を担当している。
リノは瞬間、ビクリと身を縮めたが、全く抵抗することができない。
むしろ、恍惚とした陶酔感に溺れるように虚ろな目で、降伏したように大人しくなっている。
トゥパク・アマルは薄っすらと笑みを湛えたまま、そんなリノの口元に己の唇を近づけて囁(ささや)くように言う。
「わたしの頼みを聞いてはくれまいか…――。
クスコのある場所に、わたしの手紙を届けてほしい」
「…!!」
さすがに、その瞬間には、冷や水を浴びせられたように、リノはギョッと目を見開いた。
「そ…そんなこと…まさか…――!!」
歪んだリノの口角から、震えるような擦(かす)れ声が漏れる。
その瞳は、自らの内面の混乱と衝撃と欲望との鬩(せめ)ぎ合いのために、既に涙ぐんでさえいる。
トゥパク・アマルは、リノの顎に添えた指先を、さらに己の方へと引き寄せた。
「頼みを聞いてくれれば、決して悪いようにはせぬと誓う。
力を貸してくれれば、礼金は望むだけ与えよう。
他にも、そなたが望むことなら、どのようなことでも…――」
「――!!」
唇と唇が触れ合うほどの距離で囁かれ、リノは電撃に打たれたように硬直する。
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≪トゥパク・アマル≫
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。
本陣戦の最中に敵将アレッチェの罠にはめられて囚われ、現在は投獄されている。
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トゥパク・アマルが投獄されている牢獄を監視する端役の番兵の一人。
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